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"Is there anything you would not do for your family?" 世界を破壊しようとする究極の悪役がこう静かにささやく、そういう映画の話題です。実に久しぶりのこの「ニュースな英語」コラムは。このとても訳しにくい問いかけ。「家族のためにやらないことなど、あるか? そんなもの、ないだろう?」——という意味かもしれない、反語的表現。つまり、「家族のためなら何でもするに決まってる」という強い肯定へとつながる表現。むかし高校で習った漢文にあったような、「いずくんぞ~や」的表現。まさか「スター?トレック」の新作映画の最新映像を観て、漢文を連想するとは夢にも思いませんでした。(gooニュース 加藤祐子)

私が子供の頃から『スター?トレック』のファンだというのは、3年半前にこちらのコラムで騒いだ通りです。3年半前とはつまり、J?J?エイブラムス監督の『スター?トレック』が公開された時。1966年から続く『スター?トレック』シリーズが、全く新しい俳優たちを得て「リブート(再起動)」され、生まれ変わったのがこの時でした。

あれから3年半。ヴァルカン人のスポックを連想させる大統領は無事に再選され、そうかと思えば(特に関係はないですが)その1カ月後には新しい『スター?トレック』映画の一部が、よりによって日本で他国に先駆けて上映されたのです。アメリカで来年5月公開予定(日本では9月)の『スター?トレック イントゥ?ダークネス』。ひたすら秘密にされてきたこの映画を紹介する9分間のIMAX 3D映像を引っさげて、エイブラムス監督とブライアン?バーク?プロデューサーが今月初め、出演者2人と共に来日しました。そのときのマスコミ向け上映会や記者会見の様子はこちらに書きました(ちなみにこの映像は、14日公開の映画『ホビット 思いがけない冒険』を上映する一部のIMAX劇場で、予告編として観られるそうです)。



『スター?トレック イントゥ?ダークネス」特別映像上映会に来日したエイブラムス監督たち=12月4日、都内で(goo ニュース)


9分間の映像は、2259年のロンドンで始まります。未来の小児病院で、愛する娘を病に失いそうな父親が悲嘆に暮れている。その父親の後ろからそっと声をかける、謎の男。「私なら助けられる、君の娘を」とあり得ない希望を、危うい取り引きを持ちかけるかのようなその表情……。一方で「エンタープライズ」号のおなじみの面々は、激しい火山活動で崩壊しそうな惑星とその住民を救うため、自分たちの命を危険にさらしています。そこで問われるのは、任務と使命のためには、そして仲間のためには、何をどこまで犠牲にできるのかという命題。「大勢の利益は少数の人間や、ひとりの人間の利益よりも重たいのか。大勢のために少数やひとりは犠牲になってもいいのか」という、『スター?トレック』ファンにはおなじみの命題でした。

取材者として表向きは平静を装っていても、ファンとしてはこれだけでも血湧き肉踊る状態。IMAX 3D映像の迫力はバッシュ ごいし(出演している主役のクリス?パインでさえ、観ながら「何度もびくっと飛び上がりそうになった」というほど)。「エンタープライズ」が観たことのない状態になっているし。スポックも大変なことになってるし。ドクターは相変わらず最高だし。加えて、冒頭で書いた台詞。そしてそれを語る、謎の男の存在ときたら! 

この上映会の時点では「冷徹な敵役」「人間大量破壊兵器」としか情報の明かされていなかった悪役を演じるのは、英国俳優ベネディクト?カンバーバッチ。最近では英BBCドラマ『シャーロック』や映画『戦火の馬』、『Tinker Tailor Soldier Spy』(邦題『裏切りのサーカス』)など多くの話題作に出演の注目株です。

その彼がよく響く低い声で静かに、威圧的に語る台詞は、6日から7日にかけてインターネットで公開された予告編でも聞くことができます。いわく——

You think your world is safe. It is an illusion. 自分の世界は安全だと思ってるだろう。それは幻だ。

A comforting lie told to protect you. 君を守るための、気休めだ。

Enjoy these final moments of peace for I have returned to have my vengeance. 最後の平和なひとときを楽しんでおくといい。私が戻って来たからだ。復讐する為に。

So, shall we begin? では、始めようか。

——舞台経験も豊富なイギリス俳優で、その明瞭な発音の良さには定評のあるベネディクト?カンバーバッチの台詞です。ヒヤリングの練習にもなるかと思います。

各国共通の予告編はここまでなのですが、なぜか日本向けの予告編には、ほかにはないカットと台詞が最後に追加されていました。その台詞が冒頭に書いたものです。

Is there anything you would not do for your family?

とても訳しにくい。漢文の反語表現のような。家族のためにやらないことなど、あるだろうか(いやない)、という。

日本向け予告編にだけ使われている短いカットが、昔の『スター?トレック』映画の中でも極めて重要な場面を彷彿とさせるので、世界各国のファンはその意味を巡って騒いでいます。けれども日本人としては、この台詞が気になる。

エイブラムス監督は、なぜ9分の紹介映像を日本で最初に上映することにしたのかと問われ、「東京が大好きだから」と説明しています。そしてこの新作の大事なテーマは「家族の絆」だと、繰り返していました。日本人が震災で経験したように、普通の人が特異な状況にほうりこまれてとんでもない試練にさらされた時、家族をどうやって守ろうとするのかが、ひとつの大事なポイントなんだとも。そしてこちらで書いたように同じ会見で、ベネディクトは被災した日本に温かい言葉を語ってくれていました。

だから「家族のために」という台詞が日本向けの予告編に入ったのだというわけでは、おそらくないでしょう。けれども日本人として聞けば、そう聞こえなくもない。偶然でも、奇遇です。

映画でカークや「エンタープライズ」の家族を追いつめ、苦しめ、彼らの世界を破壊しようとするのが、ベネディクト?カンバーバッチの役だそうです。彼がいったい何者で、何の復讐をとろうとしているのか、詳細はまだ分からない。けれどもなぜ彼をキャスティングしたかについて、エイブラムス監督は明確でした。「多重的な物語における複雑な役で、とことん恐ろしい存在として説得力をもちつつも観客の共感を得られる、そういう役者を探していたからだ」と。

では演じた本人は、自分の役について何と語っているか。複数メディアが囲んだインタビューでベネディクトはこう話していました。

「とてつもない暴力、テロ行為を繰り返すので、彼の行動はとても容認できないんですが、何故そうするかの動機は彼の中の深いところにあるんです。(略)スター?トレックのファミリーを外から攻撃しているけれども、彼にも家族がいて、しっかりとした理由があって行動している。ふつうテロリストというと、圧倒的な権力者に歯向かう挑戦者の立場だけど、彼は違う。最初は圧倒的な悪役として登場する。その行動の理由が次第に明らかになるにつれて、そこにはとても複雑な思いがあるのが分かっていく。これ以上は話せないけれども、たとえ未来の世界の出来事でも、今の戦争や内紛だらけのこの世界の現実にとても通じるものがあるんです」。

Is there anything you would not do for your family?  「たとえ家族のためでも、やらないことはあるか?」

もしかしたらこういう訳し方もできなくもない、この台詞。でもやはり「家族のためならなんでもやるだろう?」という意味なのか。違うのか。どうなのか。

おそらく本編を観るまで分からないこの台詞を通じて、究極の敵役は究極の英雄カークに、いったい何を問いかけているのか。9分の紹介映像と1分余の予告編を今から見せておいて、映画公開までまだ何カ月もあるなんて……嘘でしょう?

ベネディクト?カンバーバッチが自分自身や『スター?トレック』についてさらに話してくれたインタビューの続きは、こちらでどうぞ。



◇筆者について…

加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊や爆笑問題と同い年。8歳からニューヨークで過ごし「スター?トレック」で英語を覚えるも、「ビートルズ」と「モンティ?パイソン」の洗礼でイギリス英語も体得。オックスフォード大学修士課程修了。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル?タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。最新の訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)。