宮城県石巻市の高校3年生、鈴木利英(としひで)さん(18)が2日、石巻西高校(宮城県東松島市)のグラウンドに久しぶりに立った。
3年生部員を1、2年生が送り出す野球部の引退試合だ。左手に着けた外野手用グラブの内側には、自分の名前と「秀和(ひでかず)」の2文字が黄色い糸で縫い込まれている。
秀和君は3歳年下の弟。小学校3年生で利英さんと同じ野球チームに入った。中学生になってからも利英さんと入れ替わりで同じチームに入るはずだった。
あの日。
利英さんは小学校にいた秀和君を迎えに行った。2人で急いで自宅玄関にあったグラブやスパイク、ユニホームをかばんに詰め込み、知り合いの車に乗せてもらった。まもなく津波が襲ってきた。
材木が何度も何度も車体にぶつかる。窓ガラスが割れ、真っ黒い水が入ってくる。もうだめだ。秀和君の手をひいて窓から外に出た。その瞬間、2人は波をかぶり、手と手が離れた。
利英さんは近くの民家に流れ着いて助かった。秀和君は2日後、遺体で見つかった。12歳。小学校の卒業式を1週間後に控えていた。
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近くの高校のグラウンドから聞こえる金属バットの音や野球部員のかけ声が胸をしめつける。母由美子さ ん(44)は避難先の実家で、昼とも夜ともつかない生活を送っていた。
利英さんも苦しんでいた。野球を続けていいのかどうか、わからなくなった。