何の肩書きも背負わない大学生。自由だからこそ、誰とでも肩ひじ張らずに出会い、話し、人と人とをつないでいける。その力をどこまでもつないで、自分たちの未来に関わる環境問題を解決したい、社会を変えたい。たとえば、ゴミを拾うという小さなことから。誰か特別な人が始めるのではなく。
ごく普通の大学生、岩嵜絵莉子(19)はそう願っている。(須藤智美?国際基督教大学)
■経済も環境も、どっちも大事
絵莉子さんは慶應義塾大学大学総合政策学部2年生。大学に通う傍ら「遊びながらエコ」をコンセプトに掲げるNPOの「GoodDay」で、環境問題を考えるきっかけになるようなイベントを企画する。
社会システム自体を環境に配慮した形で働かせるにはどうしたらいいか。「ビジネス世界の人たちにも、環境問題に積極的に取り組むことが大切だという本質を分かってほしいと思ってる」。
その方法を探りたいと、大学ではITビジネスの研究会に所属している。現存のITビジネスを分析しながら、インターネットの特性を生かした環境ビジネスの在り方を研究しているという。
絵莉子さんは語る。「単に自然を守ることが大切であると人々に伝えたいわけではない。人間が生きていく上で経済活動も環境問題と同じくらい大切だから、その2つが両立できるシステムが必要だと思うの」。
■原点はボーイスカウト
父親の仕事の関係で4歳から10年間住んでいたドイツ。そこで、ボーイスカウトの活動と出会った。設備の整ったキャンプ場には泊まらず、何もない原っぱにテントを張って一晩を過ごす。毎日緑に囲まれ、自然が身近なものに感じた。
井戸の近くで洗濯をした次の日、井戸の水が汚れて飲めなくなった。「意外と身近に循環しちゃうんだなって。一人一人の行動がすぐに影響してしまう環境のもろさというものを見た気がした」。絵莉子さんが環境問題を考える原点だ。
■野口健と富士山から日本を変える
ドイツから帰国し、東京の高校に入学してからの絵莉子さんは、剣道部の活動で汗を流し、寮生活を楽しんでいた。普通の高校生から、環境問題は遠い世界になっていた。彼女に「環境」を思い出させたのは、世界的登山家、野口健。たまたま見つけた彼のブログで読んだ、富士山清掃プロジェクトがきっかけだった。
登山家は山に登る際、荷物を少しでも軽くするために、壊れた物や使い終わった物を山の途中に置いて登り続ける。下山時に拾って帰るのが当然のマナーであるが、それをおろそかにする登山客が多く、山を汚している。野口健のプロジェクトは、「富士山から日本を変える」というコンセプトのもとに立ち上げられた。
「小さい頃から山登りが好きで、野口さんの活動に共感した。このプロジェクトが、ドイツのボーイスカウトでの体験を思い出させてくれた」。環境問題に取り組んでみたい。思い立ってすぐに志望理由書を書いてスタッフに応募し、プロジェクトの仲間に加わった。
■雪だるまのように人と活動がくっつく
プロジェクトの参加者とともに富士山に登り、参加者と一緒にゴミを拾う。遠く離れたエベレストで同じ活動を行う人たちと、衛星中継で交信した。汗をかきながら、環境問題の解決に携われることが幸せだった。「このプロジェクトをきっかけに、次々にいろんな人や活動とつながっていくことの楽しさを知った。こういう活動系が自分に向いてるんじゃないかって」。
絵莉子さんは、プロジェクトが終わっても野口健事務所に残り、学校や企業でゴミ削減を推進する『ゴミゼロプロジェクト』など、新しい活動に携わることになった。それをきっかけに、また新しいつながりが生まれる。イベントなどで活動するたびに、別の環境問題に取り組んでいる人や団体とつながっていく。活動は、大学に入っても続けた。
大学で環境問題に興味を持っていることを話すと、また新しい活動を紹介された。今メンバーになっている「GoodDay」もその一つだ。「GoodDay」のイベントでは富士山で清掃活動を行っている人とも一緒になり、話が弾んだ。「雪の上を転がしながら、雪だるまを作る。自分の活動に、他の人の考えや活動もくっつけていく感じ」。
■「あーあのゴミの子ね」
環境問題に興味を持つ同年代の学生から、NPOにいる大人のスタッフ、環境問題を専門とする大学教授、さらには企業関係者。富士山清掃プロジェクトをきっかけに、多種多様な人と出会うようになった。
その中で絵莉子さんは、自分に何らかのイメージを付け足すことで、人に覚えてもらいやすくなることに気付く。「例えば、『イワサキさん、あーあのゴミの子ね』ってパッって出てきた時の方が、衝撃的で覚えやすいでしょ」。
人と話すこと、人とつながることで、絵莉子さんは専門知識を確かめるだけでなく、「自分とは何者か」をも問い続けてきた。さまざまな人たちとの対話を通して、「私はこういうことを考えているんだという確認作業をしている」のだと、絵莉子さんは語る。
■自分と異質な“冷めてる人たち”を変えたい
大学に入って1年あまり。絵莉子さんは、違った分野の人と話すことを心がけているという。同じ環境問題に取り組む人とばかり付き合っても、話が熱く盛り上がるのは当たり前。自己満足にすぎなくなってしまう。
「『異質なものに出会え』ってよく聞くけど、 “冷めてる人たち”がどういう考えをしてるのかっていうのを意識している」。違った考えを持っている人たちと話すことで、自分のビジョンも広がると絵莉子さんは語る。“冷めている人たち”を変えられなくては、社会は変わらない。
「あなたも今から何かの活動を始めた方がいいよ、とは言わない」。無理やり何かを始めるのではなく、自然とその何かに出会うことが大切。「ただ単に私が誘ったから活動に参加してくれるんじゃなくて、私自身のやってる活動を見てくれて、絵莉子ってすごいなって思って来てくれる。相手が一緒に活動したいって思ってもらえるような自分になりたい」。
自分を変えてくれた「つながり」を、今度は自分と出会う誰かに見出してほしい。その「つながりの輪」が社会を変えると信じている。
6月の終わりから2カ月間、「GoodDay」が逗子海岸で開催している「ビーチクリーン」という海岸清掃イベントのリーダーを務めている。「ビーチサンダル飛ばし大会」など環境と直接関係のない工夫も取り入れ、環境問題に興味を持っていなかった“冷めている人たち”も気軽に参加しやすくしている。自分のボーイスカウトでの体験のように、「自分の行動がすぐに影響してしまう環境のもろさと大切さ」を感じてもらうために。
この記事はgooニュースと大学生向けのジャーナリスト育成プログラム「スイッチオンプロジェクト」のコラボレーションによるものです。