「雑誌不況」が止まらない。大手の女性ファッション誌が軒並み「部数2ケタ減」となって苦戦している。また、電通が本年2月に発表した「2009年日本の広告費」においても、雑誌の広告費は前年比74.4%で、あらゆる媒体の中で最も落ち込みが激しかった。
一時は隆盛を極めたフリーペーパーも乱立気味となり、休刊や廃刊、Web への統合が相次いでいるが、このような状況において、驚異的な発行部数の伸びで、広告枠も数か月先までいっぱいになっているというフリーペーパーがある。栃木県宇都宮に本拠地をおく、読者参加型の子育てママ向けフリーペーパー「クルール」だ。
フリーペーパー「クルール」(出典:株式会社ファインドスター提供)
同誌は、編集部員5名という少数部隊でありながら、この2年間で静岡、新潟、広島など地方の主要都市で次々と刊行し、発行部数をなんと9倍以上に伸ばして、約38万部となる。
「読者参加型」や「子育てママ向け」という切り口は、ことさら珍しくないように思われるが、「クルール」を発行する株式会社クルール?プロジェの阿久津智子社長によれば、「ママ目線」に徹底してこだわることによって、読者、広告主双方の信頼を得ていることが成長の要因であるとのことだ。
株式会社クルール?プロジェの阿久津智子社長(出典:株式会社ファインドスター提供)
■「ママ目線」に徹底してこだわる
同社はもともと販促物などのデザイン制作を手掛けてきたが、広告主が訴求しようとするポイントとユーザーが知りたいポイントに大きなズレがあることを感じていたという。
例えば住宅メーカーの広告を制作する際、広告主である住宅メーカーからの訴求ポイントは、「柱の素材は~」といったような作り手側の情報であったが、ユーザーである自分達が知りたい情報は、「キッチンはどうなっているのか?」、「収納はどのくらいあるのか?」などの暮らしにおける使い勝手であった。
こうしたことから、2005年4月に、「ママ目線」に徹底してこだわるフリーペーパー「クルール」を創刊した。ママ向けフリーペーパーの多くはクーポン券などがつい ナイキ SB スポット紹介が中心となっているが、同誌は、あくまでも「ママライフ」にフォーカス。料理や子育て、暮らしなどに関して徹底した「ママ目線」で展開しており、読者であるママがモデルとして登場したり、原稿自体を書くことも多い。
広告ページも「ママ目線」で徹底的に作りこんでいる。原稿をもらってそのまま掲載という純広は表紙まわりなどのごく一部のみで、中面の広告はほぼすべて、読者であるママやその家族が登場して商品?サービスの魅力、どんなふうに役立つのかを伝えている。
例えば、住宅メーカーの広告ページでは、ショールームを取材したり、購入の決め手について、このメーカーから家を購入した読者のコメントを掲載している。読者は自分と同じママたちが家づくりに何を求めていたのかに興味を持って読み進めていきながら、この住宅メーカーの家づくりについても理解を深めていけるというものとなっている。
住宅メーカーの広告ページ(出典:株式会社ファインドスター提供)
「企業が主語となって、一方的に伝えるのではなくて、あくまでも読者であるママが主役。“読んで共感してもらうこと”を、創刊当事から一貫して大切にしています」(阿久津社長)
■地域や企業の取組みにママを巻き込む
このように「ママ目線」での「ママライフ」に徹底してこだわった結果、広告ページは、7割が決定済みで、残り3割も、季節的な広告で埋まっていくという人気ぶりだ。
また、地域版も展開しており、現在の発行部数は、直営する栃木版が4万部、茨城版が4万5,000部。ネットワークとして静岡版5万5,000部、新潟版?広島版?札幌版?湘南版がそれぞれ4万部で、4~5月からスタートする阪神版6万部と秋田版2万部(予定)が加わると、総発行部数は38万部にもなる。
同社では、フリーペーパー事業のみでなく、「ママ-sカレッジ」という託児付きの講座も開催している。子育てママは、ママ友のつきあいがほとんどで拡がりに乏しいことから、趣味などの自分の好きなことを通じたつきあいを拡げることを目的として開始したもので、基本は、何かを教えたいママが講師となり知りたいママに教えていくというスタイル。「クルール」での告知で、1回当たり200~250人の応募があるという。
ママ-s カレッジ(出典:株式会社ファインドスター提供)
協賛イベントとして企業とタイアップした講座も開催している。例えば、生命保険の見直しをテーマとした講座の場合、講師として話をするのは保険会社の社員だが、お菓子作りに長けたママがホステスとなって間に入る。企業だけだと「狼に喰われてしまう」ようなイメージがあり、なかなか人が集まらないが、手作りのケーキを囲みながらという趣向にすることで集客が可能になる。
さらに、地域活性化を目指した取り組みとして、「栃木の作るドリンク」という自主プロジェクトにもチャレンジしている。読者が集まり、「栃木の名産品や良いところ」について話し合うというプロセスから見せることによって、栃木の良さに気づき、地域に対する意識を高めるというものだ。
「ママたちの口コミを活かしながら、地域や企業の取り組み?商品にママたちを巻き込んでいきたいと思っているんです」(阿久津社長)
■地域と企業と生活者を結ぶプラットフォーム
「雑誌不況」の中でも、光文社の生活情報誌「MART」や宝島社の女性ファッション誌など「読者参加型」や「読者目線」を重視した雑誌は売れている。
「クルール」の「読者参加型」は、コンテンツへの参加のみではなく、さらに一歩進めて、広告へも参加するという、これまでとは少し違ったものだ。その地域で暮らす読者が、地域の企業に訪問したりインタビューに答えたりする形で広告に出演、自分たちの声で積極的なメッセージを発信している。
また、「ママ-s カレッジ」では、一般のママが講師をつとめる講座を開講、子育てをしながら自己実現に向けて積極的に動くママを支援している。
「クルール」や「ママ-s カレッジ」は、地域と企業と生活者を結ぶプラットフォームとなっており、対話の中から新たな関係性を構築し、価値を生み出している。
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執筆:株式会社ワールド?カフェ 代表取締役 笠原 造
監修:株式会社ループス?コミュニケーションズ 代表取締役 斉藤 徹