子どものころの帰宅時間は、空気が冷え家々からおかずの匂いが漂うころだった。
風呂を沸かす匂いと、ドブから湯気とバスクリンの匂いがしたら夕飯の時間だった。
時間がわかりにくいときは近所のオバチャンに聞けばよかったし。
しかしいつ頃からか、学校が定時に音楽放送を流すようになった。
遠き山に日は落ちてや、子守唄などで大体の時間がわかるようにするためらしい。
あいにく私の家は学校から遠く離れていたので夜以外は聞こえなかった。
近くの人はかなりうるさかったに違いない。
学校の近くに住むことがあまりなかったのでこういった放送をなんとも思ったことはなかった。
今住んでいるところは、小さな町だ。
だからなのか、朝に昼に夕に、時間を決めて音楽を流してくる。
結構わずらわしい。
学校ではなく、市役所から流してくるようだ。
引っ越したばかりのとき、これを聞いて田舎だな、と思った。
けれど1年以上住んでみて、この放送が役に立つことを知った。
たとえば外でご近所さんと話したり、外出して用事を済ませた後に、時計をみずとも音楽を聴くだけで時間がわかる。
意外に便利ではある。
こういうのが意識に刷り込まれてこの町での時間感覚がはぐくまれるのだろう。
この町の音楽と時間の関係を覚えない限りは只の雑音でしかなかった引っ越してきたばかりの頃が、ちょっと懐かしかったりするのである。
マダムは地域密着型。放送音楽を目安に時間をフルに使うべし