購書偶記 -16ページ目
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活字形式の本

中国では近代西洋の活字技術で作られた本のことを「排印本」と呼ぶ。
ただし現代では写真植字の技術が発展して、必ずしも活字印刷されているわけでは無いようなので、写真植字によるものも含めて、本文が活字的に印刷されている本(要するに影印本以外の通常の形式で印刷された本)について当ブログが紹介する時の用語を挙げておく。


縦組…縦書き
横組…横書き
簡体字…中国大陸で使われる略字体の漢字
繁体字…台湾等で使われる漢字の字体。日本の旧字体に近い
     大陸の出版物でも、簡体字制定前の古い時代の物や、
     中国古典を原本に忠実に排印する目的の場合に繁体字が使われる


当ブログでは、縦組繁体(縦書きで繁体字で書かれた本)みたいに紹介する。


標点本…標点というのは日本語でいう句読点
     日本語の句読点に比べて多彩な符合が使われる
     こちらのページ あたりを参照のこと。
断句本…文章の句と句の切れ目を、一種類の符合で区切っただけの物。
     使われる符号に決まりはなく「。」「.」「、」等がよく使われる。

古詩紀

古詩紀 附詩紀匡謬
中文出版社 1983年
全2冊 B5 全1442頁

古詩紀
明・馮 維訥 撰
影印(断句等無し)
底本…文淵閣四庫全書


詩紀匡謬
清・馮 舒 撰
影印(断句等無し)
底本…知不足斎叢書


扉に「明・馮維訥撰 古詩紀 附詩紀匡謬 景文淵閣四庫全書」とあるだけで、解説等は全く無いので、以下『四庫全書総目提要』(以下『提要』と略記)等に基づいて解説する。


<古詩紀>
古詩紀 156巻。『提要』は集部総集類に入れる。「詩紀」と呼ばれることもあり、『書目答門』には「詩紀」の名で取り上げられている。唐より前の漢詩を網羅的に収集した詩集(詩経・楚辞は含まない)として名高い。
○編者
編者の馮維訥(ふう いとつ)は臨胊(りんく 現山東省臨胊県)の出身で、字は汝言。明の嘉靖17年(1538年)の進士で、江西左布政司に昇進し、光禄寺卿を加えられて致仕している。(『明史』巻216に伝あり)
○成書の時期
成書の時期については、古詩紀の編纂に手を貸した人らしい張四維という人の序文の中に、「甲辰の冬に編纂を開始し、丁巳の夏に完成した」とあることから考えると、嘉靖23年(1544)~嘉靖36年(1557)にかけて編纂されたものらしい。
○馮維訥の原本と四庫全書本の違い
ただし、この中文出版社の影印本の底本である四庫全書本は、馮維訥の原本そのままではなく、明の呉琯の重刊本に拠っている。以下『提要』によって違いを述べると、原本は前集10巻・正集130巻・外集4巻・別集12巻に分かれており、
前集…古逸詩
正集…漢~隋の詩
外集…仙鬼詩(志怪小説や道教文献にでてくる仙・鬼の詠んだ詩)
別集…詩評・詩論を集める
という構成になっていたらしい。
この本は最初に甄敬という人によって陝西で刊行されたが、刻工の技術が甚だまずく(剞劂甚拙)誤りもちょくちょくあったと『提要』は伝える。
その後、呉琯がこの書を重刊した際に、前集・正集・外集・別集に別れていたのを、中身はそのままにし、全集の1巻目から別集の最終巻まで通しで巻数をつけ直し、校勘をしっかり行って甄敬本の誤りを修正したものらしい。また巻頭に編纂の体例を箇条書きにした「古詩紀凡例」の一篇があるが、全21条のうち初めの6条は、馮維訥の原本には無く、呉琯の重刊に際して原本修正の体例を付け足した物のよう。
○甄敬本
甄敬本は葉徳輝『書目答門斠補』に「明嘉靖庚申甄敬校刻本」とあるので、嘉靖39年(1560)刊刻のものらしい。私は所蔵していないのだが、日本の汲古書院から影印本が出ているよう。
神戸市図書館の蔵書情報が詳しいのでリンクしておく
嘉靖本古詩紀 京都大学文学部蔵 第3巻
○呉琯本
広島大学にこの呉琯本の詳細があったのでリンク
広島大学中文HP 『詩紀』

それによれば、呉琯本は万暦14年(1586)に金陵(南京)において、呉琯本人が編纂した『唐詩紀』という本と合わせて刊刻されているようだ。
呉琯の原本には、巻頭に汪道昆「詩紀合序」・王世貞「詩紀序」・張四維「詩紀序」・「引用諸書」・「刻詩紀凡例」・「詩紀目録」の各篇を収めているが、この四庫全書本では、最初に四庫全書の提要を附した後に、張四維「古詩紀原序」・「古詩紀凡例」を収めるのみで目録(ようするに目次)も無い。
なお、『書目答門補正』・『増訂四庫簡明目録標註』によれば呉琯重刊本には、金陵刻本と陝西刻本の二つがあるよう。
○版本の優劣についての疑問
手元に1種類の版本しかないのに版本の優劣を語るなど机上の空論に過ぎないわけだが、ちょっと気になることがあるのでメモ。
上に『提要』に「甄敬本は良くない」という意味合いの内容が書かれていることを紹介したが、逆に神戸市図書館の汲古書院影印甄敬本の紹介に「最古かつ最良のテキスト」という風にある。
ところで、上で広島大学所蔵詩紀の紹介ページをリンクしたが、そこに汪道昆「詩紀合序」の最初の部分の写真があり、
「北海馮汝言、既集歴代詩紀、版之關中、……、且病校者疏而梓者拙。」
とあって、原刻本の校勘がおろそかで出版した者も拙劣であることに悩むと言い、
また「古詩紀凡例」の呉琯が重刊に際し付加した部分に
「是編刻於關中、刻既不佳、校多遺誤。」
とあって、やはり原刻本の版刻のまずさと校勘の疎漏を指摘している。
以上の呉琯本における甄敬本への批判と『提要』の甄敬本への批判は非常に主張が似ているように思える。
ここからは、私の適当な想像だが、四庫全書の提要担当者は、甄敬本と呉琯本をきっちりと比較したうえで、甄敬本を批判したのではなく、呉琯本の序文や凡例に書かれた甄敬本への批判をそのまま鵜呑みにして書いた可能性もあるかもしれない。
素人のめちゃくちゃな考察かもしれないが、一方的に甄敬本の批判だけを書いておくのは良くないと思うので、自分が調べられる範囲でわかったことをメモしておいた。
○前集について
最初の10巻(馮維訥の原本では前集)は、様々な文献から漢以前の詩歌を抜粋して集成したもの(詩経・楚辞は含まない)だ。
ところで、『提要』によると馮維訥には『古詩紀』の他にも『風雅廣逸』10巻の著作があるが、実はこの『風雅廣逸』は『古詩紀』の最初の10巻と同じ物らしく、そこから『提要』は最初に古逸詩を集成して『風雅廣逸』として刊行し、その後に漢以後の詩を集成して『風雅廣逸』の古逸詩と併せて『古詩紀』が作られたと結論付けている。
また、『提要』巻192集部総集類存目に明・楊慎『風雅逸篇』10巻の提要を載せて、それによると馮維訥の『風雅廣逸』は楊慎の『風雅逸篇』を基に編纂されたものらしい。


<詩紀匡謬>
詩紀匡謬 1巻。巻頭に明・崇禎6年(1633)馮舒「詩紀匡謬引」を載せる。『提要』は集部総集類に『古詩紀』のすぐ後に入れる。書名の通り『古詩紀』の誤りを批判したもの。
解説が無いので、これも以下『提要』を基に解説。
○作者
作者の馮舒(ふう じょ)は常熟(じょうじゅく 現江蘇省常熟市)の人。字は已蒼。号は黙庵・癸巳老人。『提要』国朝(清朝)の人とするので、清朝まで在世したのであろうが、巻頭に明・崇禎6年(1633)の引があることから、成書は明末のようである。
○内容と評価
上にも述べたように、馮維訥『古詩紀』の誤りを批判訂正するもの。巻頭の引の1葉を除いて、本文は全28葉分の短いもので、計112条に渡って『古詩紀』の誤りを訂正している。
『提要』は、『詩紀匡謬』にも誤りや至らない点があることを、数箇所指摘した上で、それ以外の多くは精密な考証をしており、古詩を読む者にとって大いに有益であり、「『詩紀』の羽翼と言ってもよかろう(雖謂之羽翼詩紀可也)」と評している。


ブログを始めたばかりでまだ気力が充実していることと、購入した本に解説が全く無く自分で調べなければならなかったこともあって、調べたことをとめどなく書き綴っていくうちに大変に長文になってしまいました。さすがに毎回こんな長文にはならないと思います。逆に忙しく時間に余裕に無い時には、基本的な書誌情報をメモするだけで終わるかもしれません。
この『古詩紀』は通販で購入。もともと唐より前の詩を網羅的に収集した本に『先秦漢魏晋南北朝詩』(逯欽立 編、中華書局、1983年初版)が決定版として名高く、購入して所蔵していたのだが、この『先秦漢魏晋南北朝詩』が『古詩紀』を基礎に編纂されたということから興味を持ったところ、たまたま通販の目録で見かけたので購入してみた。
この影印を行った中文出版社は日本にある出版社で紙質はまぁまぁ。1ページのうちに上下二段で一葉ずつ計二葉を影印。印刷については鮮明な所が多いものの、字が滲んだりして読みにくい所も有る。


正直な所、この中文出版社本には不満が大きい。
第一に底本に四庫全書を選定した点。今回古詩紀について検索して調べたところでは、他にも古詩紀のいいテキストがあるようなのに、何故それを使わなかったのだろうか?
第二に、各巻の巻頭に「文淵閣寶」と巨大な判子が押してある点。原本では朱印で、全く閲読に問題無いはずだが、白黒で影印する際に、本文が印影に塗りつぶされて読めなくなってしまっている。同じく四庫全書の影印を行っている上海書籍などもこれに苦しんでいるみたいだが、濃度の調節でなんとか朱色の印影を白黒にコピーする際に薄く印刷されるようにして、ぎりぎり本文が読めるようにしている。(それでも判読に困難な時がある)中文出版社のこの影印は、ぎりぎり読める所もあるが、塗りつぶされて読めない所も多い。これは資料として使用するにはかなり痛い。ちなみに一部の巻末に「乾隆御覧之寶」という判子も押されているが、もともと巻末には余白の部分が多く、判子自体の線が細いので閲読には問題ない。むしろ、原本を乾隆帝が手にとって見たのかと考えると感慨深い。
第三に、目録(目次)が無いこと。一応、時代順に詩が採録されているので、致命的な欠陥では無いかもしれないが、○の時代の×が作者の詩をこの本で探したいと思ったときに、ぱっとどの巻にあるか見当しづらいのは不便。
更に今回序文を見てて気づいた点として、「原序」の二葉目の左側と、「凡例」の一葉目の左側が入れ替わっている。原本がこうなっていることはあり得ないはずなので、恐らく影印の際のミスだろう。
資料として『古詩紀』を活用したいという人にはあまりお勧めできないかも。

中華人民共和国地図集

中華人民共和国地図集

中国地図出版社 1994年第2版
精装本 約B4 簡体字


この地図集は、
専題図、省区図、城市図の3つの部分からなり、
専題図は、中国の人口、地質、植生、農業、鉱業、工業…といった30のテーマ別の中国全図が収録されている。
省区図は、各省・自治区・直轄市ごとの地図で全32図。等高線等が記入されて地形がある程度わかるようになっている。
城市図は中国の主要都市の略図で、全57図ある。
1994年第2版とあるが、書中の重版説明によると初版は1980年に出版されたらしい。


決して新しいとは言えない地図だが、店頭で見かけて購入。購入の決め手となったのは、省区図が地形図になっていたこと。中国の詳細な地図は、中国で発行されている道路マップ等を探せばチョクチョク見つかるのだが、地形図となるとなかなか見当たらない。これまで自分の持っていた地形図は『分省中国地図集』(中国地図出版社 2000年)の最後の方に収められていたもので、中国主要部で500~600万分の一、辺境部で800~1100万分の一の縮尺で非常に物足りないもであった。この地図集では、北京・上海・天津で60万分の一、それ以外の大部分の省が125~350万分の一(175万分の一が最も多い)、チベット・内蒙古・新疆が450~550万分の一の縮尺となっており、自分としてはとりあえず満足できるレベルかな。いや、欲を言えば、もっと詳細な物が手ごろな価格で入手できれば欲しいのだが。
ちなみに等高線の刻みは0/100/200/500/1000/1500/2000/3000/4000/5000/6000で高度に応じて緑~茶色に色分けされています。


訂正

当書のサイズをA3サイズとしていましたが、こちらの勘違いで表紙サイズで268×380mm、中の部分はもう少し小さいサイズでB4より微妙に大きい程度でした。謹んで訂正いたします。

本の装丁

洋装本
現代日本の(というか世界の)標準的な本の装丁
自分が所蔵する本もほとんどがこの洋装本です。
当ブログで洋装本を紹介する際には、
さらに下記のように「精装本」か「平装本」かを区別して紹介する
精装本…ハードカバー
平装本…ソフトカバー
線装本
所謂「和綴じ本」形式の本。
中国で刊行された本を「『和』綴じ本」と呼ぶのも変なので
当ブログでは、中国式に「線装本」を使用。
ちなみに自分は線装本をほんの少ししか所蔵していません。

はじめに

タイトル通り、購入した書物の紹介等をしていこうかと思っています。
中国の古典に興味があるので、主に中国から出ている漢文の書籍等がメインです。
といっても、じっくり読む暇が無い、というか外国の本で辞書をひきまくらないと読めないので、購入した本はとりあえず出版説明(日本の本で言う前書き)なんかを読んで、本文をぱらぱらと眺めるだけで、通読したりはしていません。中国の古典を話題にする掲示板やサイト等で興味深い話題が出て、それについて自分なりに調べたりする時に、はじめてまともに蔵書が活用できています。読みたいから買うというよりは、どちらかというと収集癖が先行している感じです。


自分の中国書の購入方法について述べますと、幸いに自分の住む町には中国書を取り扱う専門店があり、そこで直接購入する場合と、他県の中国書専門店に目録を送って貰い通販で購入する場合の2ケースです。現在ネットでの通販もいろいろあって便利なようですが、ネット通販を利用するとついつい際限なく本を買ってしまいそうな気がするので、どうしても欲しい本がある場合を除いて、通販は目録が送られてきた場合にのみ購入するようにしています。


ところでこの通販による購入ですが、店頭での購入ならば実物を実際に確認できますが、通販だと目録の説明が不十分だとどんな物だかよくわからないこともすくなくありません。古典籍の場合ですと、著作権が無い分、同じ書籍がいろいろな出版社から様々な形で販売されているこがあり、気をつけないと句読点の一切無い原本の複製(影印)であったり、句読点があっても中国大陸で使われる略字(簡体字)であったり、通販で現物が送られてくるまでわからない場合もあります。


このブログをはじめようと思い立った動機の一つが、自分が買った書籍についてある程度紹介を行うことによって、もし同じ書籍を買おうか(あるいは所蔵している図書館等を探そうか)迷っている人の参考にでもなればいいかも、ということです。中国・台湾から発行されている書籍は、中国古典に限っても恐ろしく大量にありますので、ここで紹介できる物などほんのわずかでしょうが、もし皆様にとって何らかの有益な情報となりましたら幸いです。


なお、この「はじめに」のテーマで、頻出の用語についての解説もメモっていきたいと思っています。

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