名称:ゲッツェンディーナー
種別:武器(大事なもの)
分類:儀礼用長剣+儀礼用長剣<<二刀流武器>>
設定:虚ろより移ろい出でし、つがいの牙。見果てぬ道、末路にただ偶像あるのみ。
■由来―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ランが本来の意味を知らぬまま骨董屋で手に入れた、つがいの儀礼用長剣。
柄が金の方をゲッツェン、銀の方がディーナー。
元々儀礼・祭事に用いられていた為か刃がなく、刀剣としてはほぼ機能しない。
ラン自身も剣術は素人であり、専ら紋章術の触媒として使用する。
(BUにある双剣を元にアイテムデザインさせて頂きました。楢崎コウジ絵師に感謝を)
■GOTZENDIENER―――――――――――――――――――――――――――――――――
薄暗い、見るからに胡散臭い調度品や装身具などが居並ぶ怪しげな骨董屋。
繁華街にあるというのに、そして昼日中だというのに、ここだけ異様な空気を
醸し出していた。
軒先にはどこかで聞いた名前の戦士が使っていたらしいボロ甲冑が構えている。
そんな店内には、対照的な二人の女が居た。
一人は見たところ三十路を過ぎたあたりか。椅子の背もたれに寄りかかり、会計机に足を
投げ出している。もっとも、どうやら店のオーナーらしいこの女性は水のような青い髪を
している為、実年齢など余人の知るところではないが。
ロングスカートのきついスリットからは太腿が露になっているものの、当人は気にも留めて
いないようだった。
やる気のない顔でキセルをふかしながら、重そうな瞼の目でもうひとりの女―――唯一の
客の様子をただ眺めている。
さて、その客はというと、見た目にも既に店主の半分にも満たない時しか生きていない
のだろう。漆黒の髪を揺らしながら猫を思わせる深い青の瞳を忙しなく動かし、
時折顎に手を当ててみる仕草などは少女らしい容姿からはひどく不釣合いだ。
育ちの良さが窺える身なりも相俟って、このいんちき骨董屋の調和を乱す混沌とさえ
思える。
少女―――ランは先刻より、とある双剣の前を右往左往していた。
「…お嬢ちゃん。そいつらが気になるのかい」
いらっしゃいの声すらなかった無愛想な女主人に不意に声をかけられ、ランはびくりと
身を強張らせた。
「え!?あ、は、はい!」
慌てて応じながらそちらに体を向け、何故か"気をつけ"の姿勢をとる。
声の主は深い溜息のように長いこと煙を吐き出すと、完全に目を瞑り首を傾げた。
その仕草の意味するところがわからず、ランはじっと次の言葉を待つ。
「余計なこた考えずに抜いてみりゃあいい。だんびらなんてのは刃と睨めっこして
なんぼのもんさね」
もっとも、そいつはお祀り用のなまくらだけどさ。半笑いを浮かべて最後に付け加えると
セイレーンはそれっきり口を閉ざした。
彼女の言葉で疑問が氷解したのか、ランは戸惑うことなく二対の剣の、まずは金の柄を
手にとった。こんな店でも手入れは行き届いているのか、手元の輝きは真新しい金の
それに他ならない。
鞘から静かに抜き放つと、すらりとした細身の刀身に蜀台の灯火が乱反射する。
柄と同じ光沢をもった銀色の、刃のない刀身。
「それはゲッツェン。綺麗だろう?」
片目を開いた女主人の気だるい声は、今手にしている剣の名を表しているようだ。
「銀色の地味な方がディーナー。見た目はおんなじさ。けれど、それぞれに込められた
思いはきっと違うんだろうね」
「ゲッツェン…ディー…ナー」
女主人の言葉をよそに、告げられた名を反芻する。
この辺りでは耳慣れない響き。少なくとも、この年端のいかない娘にそれぞれの名の
意味するところはわからなかったが、まるで何かにとり憑かれたような双眸のまま、
もう一方の銀の剣を手に取る。
「ただ、さっきも言ったけど血生臭いことにゃ不向きだよ」
言いながら、こんな小娘が荒事の為に剣を欲しがったりするだろうかと、自問していた。
しかし、目の前の少女からは危ういものを感じる。
それは、実際は何処にもない理想を信じて戦に身を投じる者の眼差し。
それは、自分を取り巻くものを全てと思い込み、世を知らぬまま己を過信し、やがて
命を落とす者の纏う空気。
戦乱の絶えぬランドアースにおいて、女主人はそんな若者を幾人も見て来た。
彼らは一様にグリモアを目指し、仲間達と共に戦い、ただ死んでいった。
―――この娘も、そうだってのかい。まだおままごとが楽しい年頃だろうに。
まったく世の中どうかしてる。そう語散ると、何時の間にか二対の剣を抱えた少女が
真摯な瞳で女の前に来ていた。
「すいません。この二本もらえますか」
「…お代は?」
だからどうだというのだ。この娘一人止めたところで、世の中が変わるわけでもない。
いや、むしろこの場においては逆効果ですらあるだろう。
ならば、せめて自分にできる手向けは、目の前の少女の望み通りにすること。
冒険者の中にはこんななまくら刀でも扱える術を持つ者が居ると聞いたことがある。
彼女がそうなのかはわからないが、儀礼用と聞いてから手を伸ばしたのだから
案外的を射ているのかも知れない。
女主人は自分の中で結論付け、自身は平時と同じく商いを決め込むことにした。
ランはぎこちなく左手だけで剣を抱えると、空いた右手を腰に伸ばしてポーチから
軽く握れる大きさの深い群青の石を取り出した。
「これでお願いします」
「見せてみな」
無造作に受け取り、身を起こしてしげしげと宝石を見る。
ラピスラズリ。星空のような、透き通るようでありつつも向こう側が見えない青。
それは、澱みも傷もない純粋な少女の瞳と良く似ていた。
大きさといいカットのされ方といい、対価としては申し分ない。
「…いいだろう。持ってお行き」
「…! あ、ありがとうございます!」
「ただし」
女主人のこれまでになく鋭い口調に、ランははっとした。
「詰まらない使い方、するんじゃないよ」
「………? はぁ…?」
言葉の意味がわからず、ランは小首を捻り、それからお辞儀をすると足早に店を出て
行った。
ランの背中を見送り、今度こそ溜息混じりに煙を吐くと、女主人は再び背もたれに
身を投げ出して自嘲する。
「まったく、柄でもないったらないね」
あの少女が、いずれつがいの剣の意味を知ることもあるかもしれない。
その時、どうか彼女が今より己を、世界をより深く理解していることを、願わくば。
「グリモアの加護のあらんことを」
直後、彼女はくだらない、と心底詰まらなさそうに呟き、大欠伸をして目を瞑るのだった。