短編 「憎しみの果てに」 第4話 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

短編 「憎しみの果てに」 第4話

加奈子と武田との関係が、校内で噂になっていた。

ほかのクラスの者が、うちのクラスを覗きに来て、加奈子を確認する。
そんな光景を、たびたび目にした。
それでも、加奈子は気にするようでもなかった。
かと言って、武田との関係を自慢するわけでもなかった。
何故、噂が広がったのだろうか。
わたし以外に、あの二人の関係を知るものなどいるのだろうかと思った。
横山と田口が、でかい声で二人の関係を大げさに吹聴しているのを何度か聞いた。
そこから広まったのか。
そもそも横山たちが、なぜ加奈子と武田のことを知っているのだろう。


「ねえ真由美。日曜の午後、暇?」
「うん、とくに用事はないけれど」
「彼の友達と、四人で遊ばない」


男友達などいなかった。
もちろん、付き合っている彼などもいない。
人並みに、恋をしたいなどと時々思った。
それでも、私に言い寄るものなどだれもいなかった。
いじめられっ子である。
男子生徒からも、苛められた。
つまりは、鼻持ちならない女ということなのだろうか。
黙り込んでいると、加奈子が言った。

「別に彼を紹介するとかそんなんじゃなく、ただ一緒に遊ぶだけよ」

私は、なんだか恥ずかしくなった。
男の子と遊ぶだけじゃないの。
だからどうだって言うの。
そう自分に言い聞かせていた。



日曜日。
加奈子と一緒に電車を乗り継いで、郊外のショッピングモールへ行った。
映画館やゲームセンターなどが併設され、一日中、遊ぶことが出来そうだった。
その中にあるレストランで、待ち合わせをした。

武田はすでに来ていた。
一人でコーヒーを啜っている。

「おせえな」

武田がそう言うと、加奈子は呆気にとられた様な顔をした。
この間会った時と、ずいぶんと印象が違った。
椅子にふんぞり返り、足を組んでいる。

「ごめん、待たせちゃったかな」

加奈子が取り繕うように言った。
武田はジャケットの内ポケットから、タバコを取り出し、慣れた手つきで一本抜き取ると、それを銜えた。

「加奈子、灰皿もらってきてよ」

加奈子は目を瞬かせながら辺りを見回し、ウエイターを探した。

「大地君、タバコ、吸うんだ」

加奈子は、武田の指先に鋏まれたマイルドセブンを見ながら、力なく言った。
武田は口元だけで笑い、加奈子を無視したままタバコに火をつけた。
加奈子が動揺していた。
武田がなぜ不機嫌なのだろうかと、必死で頭を回転させているのかもしれない。

「麻生さん、もうちょっと待っててね。もうすぐ友達来るからさ」

視線を合わそうとしない武田を持て余す様に、加奈子は落ち着きなく目をきょろきょろとさせた。

「お待たせ」

その声を背後から聞いた私たちは、驚きのあまり、すぐにはその声の方向に目を向けることが出来なかった。
ゆっくりと体を捩り、振り返る。

横山明夫だった。

「どうして」

私が心の中で呟いたの同時に、加奈子が言っていた。

「大地君、これって、、、」

それでも武田はそっぽを向いたまま、鼻の穴から煙を吐いた。

「麻生、田口もここに呼ぼうか」

横山が言った。
加奈子は武田と横山を交互に見て、それからほうけた様に視線を床に落とした。
小刻みに震える加奈子の唇から、声が漏れた。



「大地君、なんなの、これ」