今回初めてのブログで触れていくのは、高市首相の国会答弁に始まり、昨今大きな議論を呼んでいる「台湾有事」についてである。
まずもって私の主張を明確化しておこうと思う。結論から言えば、私は「台湾有事」に日本が集団的自衛権を行使することには反対である。「存立危機事態」にあたるかどうかについては、個人的な集団的自衛権の考え方から深く踏み込むことは避けたいと思うが、あたらない、と考える(重要影響事態にはあたるだろう)。また、「台湾有事」は戦線や中国の姿勢如何では日本の個別的自衛権の範囲への抵触も十分に考えられるが、その場合には個別的自衛権を行使することに賛成。
説明を始める前に論点を整理しておく。今回は、現状論点となっている、中国と台湾の関係、存立危機事態かどうか、日本の向き合い方、の3つの内から中国と台湾の関係についてのみ絞って論じる。残った2つについても次回以降論じていくつもりである。
◆国際社会における台湾の位置付け
現在、ネットを中心に中華人民共和国と台湾(中華民国)の関係について、中国共産党の主張する「一つの中国」論を否定し、統一自体をも否定する声が強く出てきているが、私はこうした声に疑義を唱えたいと思う。
大前提、日本と台湾の間に国交はなく、また、台湾と国交のある国はわずか12か国であり、国連決議2758号で中国の代表権は中華人民共和国に与えられているなど、世界的に見ても台湾が国家として認められているとは言い難い状況にある。
台湾内に目を向けても、現在の頼清徳政権(民進党)は台湾独立派であるのに対し、立法院で民進党の議席(51)を上回る52議席を持っている中国国民党は台湾独立に対して反対姿勢を示し(浮動的ではあるが)、いわゆる92年コンセンサスの存在を認め共産党との連携を強化する傾向にあるなど、台湾内ではコンセンサスもまともにとれていない。実際に、11月14日には国民党の鄭麗文主席は「日経アジア」のインタビューに対し「台湾が台湾独立を唱える自由を持つのなら、なぜ統一を唱える自由を持ってはいけないのか」と答えている。
あたかも、台湾内ではコンセンサスが取れている、と信じている人もいるようだがそのようなことは全くないのである。
一方で、サンフランシスコ講和条約では、台湾の最終的な帰属先については未定である、としており、中華人民共和国と中華民国のどちらにも属していない、という「台湾未確定論」も存在している。
◆日本政府の立場
この前提を確認したうえで日本の立場についても考えていこうと思う。
まず、1972年の日中国交正常化の際に調印された日中共同声明の第三項において「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」と記されている。ポツダム宣言の第八項には「『カイロ』宣言ノ条項ハ履行セラルヘク」と書かれており、さらにカイロ宣言をたどると「(略)右同盟国の目的は日本国より(中略)満州、台湾及澎湖諸島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還することに在り(以下略)」との文言がある。
つまり、日本は中国共産党の主張する「一つの中国」を理解し、尊重する、ことを明言しているのである。ときに、この「尊重」という文言を捉まえて、日本が「一つの中国」を「承認しておらず」、「否定」できると主張する人がいるようであるが、あくまで曖昧戦略を取っているだけのことであり、「尊重」という単語からプラスの解釈をすることはできても、マイナス(否定)の解釈を導き出すことは極めて困難であるように感じる。
実際、平成十八年六月八日の鈴木宗男衆議院議員(当時)の「中華民国と中華人民共和国の継承に関する質問主意書」の「五 政府は、過去に中華民国と中華人民共和国という『二つの中国』が存在した時期があると認識しているか」という質問に対して小泉総理(当時)は、「(略)我が国政府は、中国は一つであるとの認識の下、(以下略)」と答弁している。この答弁では明確に「中国は一つ」であるとの当時の政府認識が確認できる。
これより以前にも同様に、平成十七年三月二十五日の町村信孝外相(当時)の委員会答弁「台湾独立を支持しない」、平成九年十二月二日の橋本龍太郎総理(当時)の衆院本会議での答弁「いわゆる二つの中国あるいは台湾独立を支持する考えはございません」、などの答弁例が残っている。
ただ、台湾有事の可能性が高まりつつある昨今では令和五年四月二十四日の岸田文雄総理(当時)の原口一博衆議院議員の質問主意書に対する答弁では日中共同声明の三項を述べるにとどめ、曖昧戦略を取るなど認識がややぶれつつあることも事実である。
以上のように様々な政府答弁があるが、確認できる限り「一つの中国」を明確に否定した答弁は存在せず、「二つの中国」は現在の日本の立場としては取り得ないものであることが分かる。
◆台湾を巡る歴史的経緯
続いて、台湾の歴史についても少しではあるが触れておこうと思う。「中華人民共和国は台湾を実効支配したことがない」ことを理由に「一つの中国」を否定する動きがあるためである。まず、「中華人民共和国は台湾を実効支配したことがない」というのは事実である。中華人民共和国の成立以後、台湾が実効支配されたことはなく、また、成立以前の中国共産党が台湾を支配した事実もない。
しかし、これを理由に統一を否定するのは腑に落ちない。そんなことを言い出せば近代国家に限ったとしても、様々な国で支配権を失う領域が出てくることだろう。
そもそも、現在の台湾がそうである。日本の敗戦後、台湾を統治してきた中華民国はそれ以前に台湾を支配したことはないのである。台湾が日本へ割譲される以前に台湾を統治していたのは清王朝である。もし、領有権を国家間で主張しあう領土主権問題(例:竹島など)では過去の実効支配は重要な言い分になるが、台湾の現状は全くそうした性格を持たないため、このような言説は否定することができると考える。
◆私の見解
結局のところ私の考える日本の台湾の帰属問題に対して取るべき立場(純粋な帰属問題のみへの立場)は、
「台湾は中華人民共和国(中国共産党)と中華民国(中国国民党)間の内戦の過程によって生じた未確定地域であり、このような過程を含めた歴史的過程から中国本土と台湾は同一国家による統治が主張されることは全く不思議なものではない。そして、現状では中国の代表権を持つ中華人民共和国の主張に分があることは認めざるを得ないものである。ただし、どちらの陣営が「一つの中国」を統治するかについては依然として両陣営ともにその権利を有しており、統一については慎重かつ平和的人道的手段によるものが望まれ、武力による現状変更の試みについては強く反対する。同時に、台湾が本土から分離し国家としての独立を主張する権利(いわゆる二国論)はこれを十分に保持していると理解する。」というものではないだろうか。
つまり、少なくとも、中国本土と台湾が同一国家によって統治されること(それが中華人民共和国だろうが中華民国だろうが、はたまたその他の新たな勢力であろうが)が歴史的過程より問題のないことは間違いないだろうと思う。そして、その中で、現在中国の代表権を持つ中華人民共和国がその統治を主張していることも全く不思議ではない。しかし、その統一過程において武力の行使などの暴力的な手段が用いられることは望ましくないことである。また、台湾には本土からの独立を主張する権利も十分に残されている(スコットランドで英国からの独立を主張する声があるように)。
ただし、日本の国益、ひいては太平洋地域の勢力均衡を望む場合は、現在のような状態が維持されることが最も望ましいことは誰の目にも明らかなことである。
◆終わりに
ここまでつらつらと長ったるい説明をしてきたわけだが、中国と台湾が一つの国であるかどうかは我が国の集団的自衛権行使の是非には無関係である、というのが正直な話である。なぜなら、我が国が集団的自衛権を行使するための条件である「存立危機事態」における「密接な関係にある他国」とは米国を指すためである(高市首相の答弁においてもこの立場は堅持されている)。たまにこれを台湾と誤解し行使の是非を議論する方が行使賛成派反対派両方にいるが、このような稚拙な議論が即座に霧消することを望む。
書きたいことが多すぎて異常に長い文章になってしまったことは痛恨の極みであるが、読んでいただいた方には深く感謝したい。できれば様々な意見に触れたいのでぜひ意見のある方は遠慮なく書いてほしいと思う。
参考資料
「衆議院議員原口一博君提出いわゆる一つの中国と台湾有事に関する質問に対する答弁書」 衆議院https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b211055.htm (参照 2025年11月25日)
「衆議院議員鈴木宗男君提出中華民国と中華人民共和国の継承関係に関する質問に対する答弁書」 衆議院
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b164316.htm (参照 2025年11月25日)
李忠謙(2025ー11ー14) 「『日経アジア』単独インタビュー「統一女神」鄭麗文氏が語る:賴清德政権は台湾を危険に導いている 唯一の出口は「九二コンセンサス」 風傳媒日本語版 https://japan.storm.mg/articles/1081174#page2
(参照 2025年11月25日)
岩田清文 島田和久 武居智久(令和6年10月23日) 「国防の禁句 防衛「チーム安倍」が封印を解く」 産経新聞出版