以下の文章は同人サークル「向こう側」様のオリジナルストーリー「空とあるゅう先生」からの二次創作になります。

















では、書きます。

















その日は夕方から雨が降っていた。
カナタは鏡子に言われた山の上のお寺に来ていた。
「確かに、古くさくて趣はあるかな。」
カナタは別に肝試しがしたかった訳じゃない。
「こう言うところにこそ、私の求める宝があるもんだよねぇ。」
カナタは堕天使。
力を求めて同族を喰らった、そんな過去を持つ。
「さ、てと。」
カッパのフードを取り、雨に濡れながら目を閉じる。
「なーにーかーあーるーかーなーっとね」
検索権限。以前喰らった天使の卵が持っていた千里眼の一歩足りない能力。
探し物を見付けやすくする程度の能力だが、大きな力を求めるカナタにはその程度の目星で十分だ。
「・・・」
なにもひっかからない。
これは失敗かな?と展開した権限を閉じようと思ったとき。
「おや、この古びた寺に何用かね?」
背後から老人に声をかけられた。
「っ!?」
驚いて振り向く。
サーチをかけていた。なのに気付かなかった。
「なんだ、新聞屋の新人ちゃんじゃないか。」
初老の男性は優しい微笑みでカナタを通り過ぎ、屋内へと入っていく。
なんだ、このじいさん。
「まぁ、そうやって訝しげに人を睨むものじゃないよ。」
背中をつけたまま、ほっほっほっ、と笑いながら。
「なに、悪いようにはしないよ。こっちへおいで。」
玄関先で靴を脱ぎながら声をかけてきた。
「え、あ、うん・・・」
何もかもを見透かされているような薄気味悪い気持ちを抱えながらもカナタは老人に従った。


「ここで何を探していた。」
客間に通され、温かいお茶とおせんべいをもらったカナタに問いかける老人。
この人の名前は大葉。この寺の所有者だが、住職ではないらしい。
「探し物をしていたことまでわかっちゃうんだ。それってなに?年の功?」
見透かされてる気持ちからか、あまり良い態度がとれないカナタ。
それを見ながら、ほっほっほっ、と目を細め。
「新人ちゃんが探しているようなものは、この世界にはないかもしれないねぇ。」
「どこまで理解してるの、私のことを。」
気味が悪い。カナタはそう決定した。
この老人は気味が悪い。
なんでも知っていて、なんでも見透かして。
そんなカナタの思惑を知ってか知らずか、ほっほっほっ、と笑いながら老人は言葉を続ける。
「新人ちゃんは力が欲しいんだろう?誰にも負けない強い力。何があったかはわからないが、求める強さに際限はなさそうだ。」
「うん。まぁ、その力が何よりも強ければ、誰にも負けなければ。私はそれが欲しいかな。」
「だけどねぇ。この世界で一番強いのは力を込めた拳じゃない。何もかもを穿つ矛でもない。この世界の強さはね。人徳なんだよ。」
「じんとく?」
カナタの聞きなれない言葉だ。
「そう。人に支持されること。人に好かれて、持ち上げてもらうこと。」
「みんな仲良く、お友達ーってやつ?」
「まぁ、平たく言えばそういうことになるのかねぇ。」
「ふーん。」
カナタは退屈そうに頷いた。
誰かを討ち滅ぼすでもなく、蹴落とすでもなく。
「そう、誰かに持ち上げてもらうこと。その結果で誰よりも強いと言うことになる。」
「そっか・・・確かに、私の欲しいのはそういうのじゃないかもね。」
でも、とカナタは続ける。
「どんな形であれ、力であることに変わりはなくて。そしてその力がどんな効果であれ、この世界では万人に認めさせることが出来るんでしょ?」
それなら・・・
「いいや。そうじゃない。」
老人は目を細めたまま応える。
「認めさせた上で効果が出るもの、なんだよ。効果によって認めさせるものではないんだ。」
「んー?」
しかめっ面で天井を睨み、頭を総動員する。
この老人は何を言いたいのか。
「この世界にあるものは、新人ちゃんのこの先に必要になるもの、なのかもしれないねぇ。」
ほっほっほっ、とお茶をすする老人。
「よくわかんないよー。」
頭を抱えるカナタ。
気付けば日は暮れて外は暗くなっていた。
それを見てはたと気付く。
「あ、帰らないと。鏡子さんに怒られる。」
立ち上がり、老人に背を向けて帰ろうとすると
「またおいで。話し相手くらいにはなってやろう。」
ほっほっほっ、と目を細めながら老人はカナタを見送った。




家路を急ぐカナタ。
山道を下るのはそこまで苦じゃないが、雨がうっとうしい。
先程の老人の問答も理解を越えてる。
わからないことだらけだ。
でも、今。まさに今しなきゃならないことはわかってる。
「鏡子さんの晩御飯が待っているー♪」
目の前の空腹を満たす、その為に駆ける足を止めなかった。


つづく。
妄想垂れ流しシリーズ。
以下の文章は同人サークル「向こう側」様のオリジナルストーリー「空とあるゅう先生」シリーズの二次創作になります。

















書きます。

















早朝に起きて、新聞配達をして。昼間は鏡子の店を手伝い、夕暮れ時にまた新聞配達をする。そうして一日のサイクルが出来てから一週間経った。
新聞配達の日給もそこそこ良く。鏡子に世話になった分の生活費を払うことが出来るくらいにはたまってきた。
カナタは今後の方針を決めようと考え始めた。
一つは再度可能性の境界線を越えて別の世界に行く。
正直この世界は平和だし、私より強い力を持ったものがいるようには感じられない。
明確に強いものと対峙する理由があるカナタにとって、これ以上の長居は不要に感じられた。
だが、もしかしたら探していないだけで私の数倍強い相手がこの世界にもいるんじゃなかろうか。
そういう考えも湧いた。
今のところこの世界に来て、見て回ったのは桧町の周辺の山間部のみ。確かに熊や毒蜥蜴なんかはいたけれど、探しているのはそういうのじゃない。
ちまちまレベルを上げていたいわけじゃなくて。


新聞配達も終わり、昼手前頃の暇な時間。
湖を眺めながらそんな考えをしていると
「カナタ」
後ろから鏡子が声をかけてきた。
身体を反らして「なーに?」と答えると
「そろそろ昼飯だけど、何か食べたいものはあるかい?」
買い物袋のエコバッグを掲げてリクエストを聞いてきた。
先程の方針についての漠然とした悩みより、明確な目の前の食事情に頭の回転を優先させ
「お肉食べたい、鶏肉。唐揚げ?あ、照り焼きがいいかも。」
と質問から十秒足らずで答えた。
「はいはい。んじゃ、店番頼むよ。」
一時間くらいで戻るから、と後ろ手に手を降りながらタバコをふかしでかけていく鏡子。
見送りながらふと、カナタは驚いた。
ーーーー居心地がいい
素直にそう思った。
ーーーーずっとここにいたっていいかもしれない
そう考えた。
そう考えて、思いを巡らせて、乾いた喉を横に置いたラムネで潤してから決意した。



お昼ご飯は素麺と浅漬けだった。
「残り物を消費しておかないと」
鏡子の献立はある程度決まっていたようだ。
この辺りは水が美味しい。
山から流れる湧き水が豊富なミネラルを溶かしているのだろう。
いつものように美味しく食事をいただいて、片付けを手伝いながらカナタは鏡子に尋ねた。
「この辺りに肝試しをするような所とかってある?」
「ん?んー・・・それなら山の上にある寺なんてどうだい?ここいらの仏はあそこにいくし、夕暮れ時のあの辺は結構雰囲気あるよ。」
鏡子は答える。
「そか。夕刊配り終わったらちょっと見てきてもいい?」
「あぁ、いいよ。あまり遅くならないようにね。今日はいい胸肉が手に入ったから。」
「うん!」
満面の笑みで鏡子に答えるカナタ。
「さて、そろそろ近所の子供たちが顔を見せに来る頃だ。」
午後からの仕事に気怠そうにやる気を出す鏡子。
「鏡子さんって子供好きだよねぇ。」
大柄で、少し猫背の背中を嬉しそうに眺めながらカナタは呟く。
「それはどうかな」
軽く笑いながら、鏡子はタバコに火をつけた。



つづく
妄想垂れ流しシリーズ。続きを書きます。
以下の文章は同人サークル「向こう側」様のオリジナルストーリー「空とあるゅう先生」シリーズの二次創作になります。
カナタちゃんが空ちゃんと別れてから様々な世界を旅したという設定から妄想を膨らませたものです。

















それでは、書きます。

















「ただいまー」
カナタが日比野商店に戻ったときには日も沈み、辺りはコウロギや鈴虫の鳴き声で満ちていた。
「お、帰ってきたか」
居間でテレビを眺めながらタバコの煙を吐いていた鏡子がよっこらせ、と立ち上がり出迎える。
「どうだった?出来そうな仕事かい?」
カナタの姿を見れば大体のことは察することが出来るが、やはり口にして聞いておいた方がいい。鏡子はカナタに今日の仕事の成果を聞いてみた。
「んー、問題なさそうだよ。紹介してくれてありがとー。明日からは朝刊もあるから、少し早いけどここで寝泊まりさせてもらって良いのかな?」
「あぁ、かまわないよ。そう言うだろうと思って布団は敷いてある。」
鏡子は上の階を指差してニカッと笑った。
「ありがとー。なんだか、重ね重ね申し訳ないよ。」
カナタは照れくさそうに頬を指でかいた。
「まぁ、その分の代金はいただくよ。」
「あー、やっぱりー」
二人は笑った。





ーーーーー日比野宅三階寝床

鏡子の手料理と入浴を済ませたカナタは明日からの勤労に備えて早目に横になることにした。
それに合わせて鏡子も寝床に就く。
「ホントに、ありがとね?」
横になりながら今日一日の鏡子にもらった施しの数々を思い、例を言う。
「ん?んー、そうだね。その分貰うものはあるから良いんだよ。」
鏡子は問題ないと目を細めた。
「ここに来て、一番最初に会ったのが鏡子さんで良かったよー」
満面の笑みで感謝を口にしつつ微睡んでいくカナタ。
それを眺めながら灯りを消して鏡子も目を閉じる。
「おやすみ・・・」





思えば沢山の出来事があった。
元いた世界で生きていけないと踏んで、可能性の境界線を越えて、別の世界に行こうとした。
もちろんそれは権限を持たないものには許されない行為で、当然のように追手に殺されかけた。
死に物狂いで境界線を越えて、この世界に辿り着いて。
何にもない私に手を貸してくれた。この初老の女性は何なのだろう、何か目的があるのだろうか。
でも、とりあえずは生きている。
まだ、先がある。


しばらくここでお世話になって、ある程度の準備が出来たら旅を再開しよう。
長居をして、もしこの人達に迷惑がかかるようなことになっても嫌だし。




そんなことを思いながら、一日の疲れに体を引かれて眠りに落ちていくカナタだった。





つづく