私が融雪槽なるものに出会ったのは、56才の9月。雪国生れの人には極当たり前の装置であると思うが、半世紀の間見た事もなかった私にとっては、珍しく興味深い代物であった。雪国生れの人と言っても2mも3mも積もる雪深い地域にはその存在は目にする事もないが、私の住んでるような積雪住宅地には欠かせない縁の下の力持ちである。
今でこそ私自身も当たり前になって来てはいるが、都度ありがたみを感じつつせっせとほおり込んでいる。
話はその穴と出会った時の事。町を歩いていると家々のアプローチ脇に何やら円盤状の蓋が鈍銀の光りを放っている。よく見るとそれはどぶ漬のチェッカープレートで作られた蓋であった。半円二枚が蝶番で留められ、丸鋼の持ち手がそれぞれ付いている。開ける為であろうが、その中に何が入っているのか?その時は興味津々で眺めていたのを覚えている。
その後暫くは忘れていたのだが(住んでいた家には無かった為)、引っ越しを期にその存在が自分の一部となった。
家の引っ越しの最中、どうも気になるのでその銀の円盤を開けて中を覗いてやろうと駐車場脇に降りて行く。思った通りの丸鋼の引手、むんずと掴み90度、いや
180度開いた。そこには、これも頑丈そうな半円形の粗い格子状の内蓋。それを今度は90度開き見ると、浅い井戸その物だった。すでに呼名は聞いていたので、察しは付いていたのだが、これが融雪槽なのかと感じ入ったものだ。しかし、さてどう使ったら良いものか?
好き放題に雪を放り込めばいいのか?
よくよく中を観察すると深さ2m弱の水面から箱の様なものがあり、内壁に4箇所程ノズルらしき部品が付いている。当然ここから水(はたまたお湯)を出して雪を融かす仕組みになっているとはわかる。
ではあの箱の様なものはいったい?
暫く繁々と覗きこんでいると、後ろから声が・・お向かえのご主人の声だった。今まで使った事がないのでと言うと親切に教えてくれた。
「あの箱の中に水中ポンプが入っているんですよ」
何と水中ポンプ!となると
「ではポンプで水を吸い上げてノズルから・・」
「そうです」となると
「地下水ですか?」
「その通り」
やっぱり!「ありがとうございます」お礼を言うと、親切なご主人はニコニコしながら帰って行った。
ポンプを動かす為に、壁面にあるスイッチボックスを開けてみると、ブレーカータイプのスイッチが三つ。上に一つ、その下に並んで二つ。上のスイッチは主電源スイッチと分かるが、下の二つが解らない。悩んでも仕方ないので、スイッチを入れてみると、勢い良く水が噴射される音が聞こえたので覗き込むと、イメージ通りの様子があった。早速雪を投入しようかとも思ったが、先ほどのご主人宅の融雪槽はまだ稼働させていない様なので、この位の積雪ではまだ使用には至らないのだなと判断。後日降雪の状況と周囲のお宅の動きを見てウチも稼働させようと思い、円盤を閉じた。
数日後、思いもかけぬ大雪で融雪槽の出番が来た。雪はねは疲れるが、こいつのお陰で疲れも半分。ママさんダンプ(これもこちらに来て初めて知った)で周囲から雪を押し集め、半開きになってる融雪槽に向かって一気に放り込む。これが意外と気持ちの良いものである。半分程入れた所でスイッチをON(このタイミングで良いか解らないが)。その後次から次へと雪を放り込む。格子状の内蓋一杯に溜まると水音が全く聞こえなくなり、少々不安になってシャベルで突っついてみたりする。すると向かえから
「大丈夫ですよぉ!」
天の声である。その声に安心して、入り切らない雪を横に山積みにして終了。
しかし、まだ解らない事が、何時間稼働しておけばいいのか?
振り返るとあの笑顔がこちらを向いていたので、今度はこちらから寄らせてもらう。
「あのぉ」
言うが早いか、
「結構時間かかりますよ」
流石、融雪名人!読んでましたね。
「うちのは時間がかかるからぁ」
うちのは・・?
うちのはうちのと違うのか?
その違いは後日に判明した。