去る3月24日にオンライで開催された「豊崎由美の書評道場」に提出した課題の書評を、一部加筆の上で以下に転載します。

ありがたいことに、二ヶ月連続で「書評王」に選んでいただきました!

 

 

「理数系が苦手な中高生におすすめする三冊」

 

◯『ロウソクの科学』ファラデー(岩波文庫、角川文庫、角川つばさ文庫、他)

◯『数学する身体』森田真生(新潮文庫)

◯『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー 小野田和子訳(早川書房)

 

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ新学期。四月からの新しい学校、新しいクラスに期待と不安いっぱいでドキドキしてるんじゃないかな。進路を考えなきゃいけない人も多いはず。文系か理系か、どっちに進むかもう決めたかな? えっ?「理系はムズいし、文系一択」だって?

 いや、ちょっと待って! 数学も理科も確かに難しそうに思える。けれど、一度足を踏み入れてみれば、そこにはめっちゃ面白くて刺激的で奥深い世界が広がってるんだ。

 というわけで「理科や数学なんて苦手!」っていう人にこそ読んで欲しい本を、三冊紹介しよう。

 まずは超定番というか古典中の古典。ファラデー『ロウソクの科学』(岩波文庫、角川文庫、角川つばさ文庫、他)。一九世紀イギリスの化学者で物理学者のファラデーが、英国王立研究所で行なった青少年向け「クリスマス講演」をまとめた本。米村でんじろう先生の「世界一受けたい授業」みたいと言えばわかりやすいかな。授業の入口は「ロウソクが燃えるとどうなるの?」という身近な疑問。燃えながら消えたロウはどこへ行ったの? 燃えるロウソクから出る黒い煙や白い煙の正体は? さあ、ちゃんと説明できる? 私たちの身の回りはたくさんの「不思議」や「謎」に満ちている。それらを解き明かすのが「科学」なんだ。めっちゃワクワクするじゃん! 百年以上も昔のファラデー先生が、私たちに「科学ってスゴイ!」って教えてくれる。

 さて「理系ムリ!」って人の多くが数学嫌いなのかもしれないね。でもまさか「数学なんて勉強したって役に立たない」なんて思ってないよね? 時々、エライ政治家とかお笑い芸人なんかが「サイン・コサインなんて要らない」なんて発言して炎上してるけど、いやいやとんでもない!

 方程式を解いたり、三角形の面積を求めたりすることだけが数学じゃない。それを教えてくれるのが、森田真生『数学する身体』(新潮文庫)だ。タイトルにビビらないで大丈夫。数式は一個も出てこない。xもyも三角関数も登場しない。数字を見ただけでジンマシンが出る人だって、興味深く読めるはず。本書は、人間がいかに「数」と向き合い、どう認識して思考を深めてきたのかを描く「哲学エッセイ」だ。著者は〈数学は身体的な営みであり、歴史を背負った営為である〉と語る。数式や記号が発明される以前から「数学」は存在してたっていう当たり前のことにハッとさせられる。「=(イコール)」の記号が発明されたのなんて、なんと一六世紀になってからだ。人間は数千年前、手の指を折り曲げて数えることを始めた。それ以来ずーっと、私たちの身体を通して脳で〈数学する〉ことを続けてきたんだ。数学って、やっぱ面白いよね!

 最後は「科学って超クール!」と思えるエンタメだ。アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(早川書房)は上下巻の長いSF小説だけど、イッキ読み必至! 主人公は宇宙船内で冷凍睡眠から目覚める。が、彼は記憶を失っていて、他の乗組員たちは全員死亡。自分は何者で、何のために宇宙船で旅しているのか……という冒頭だけでもうワクワクドキドキ。けど、その先の展開が予測不能なトンデモないサプライズの連続! ページをめくる手を止められない。そして何より、主人公が科学的な知識や手法を駆使して様々な難関と格闘する姿に、きっと「理系ってカッコいい!」と痛感するはずだ。著者の前作で映画化もされた『火星の人』(映画邦題「オデッセイ」)も絶対オススメ!

 これら三冊以外にも、マンガなら、今年アニメ化予定の魚豊『チ。地球の運動について』(小学館BIG SPIRITS COMICS)とか、第69回小学館漫画賞受賞の絹田村子『数字であそぼ。』(小学館フラワーコミックスα)など、オススメ本はたくさんある。ぜひ一冊でも読んでみて、数学も理科も実はエキサイティングで超絶楽しいってことを、ちょっとでも感じてもらえたらうれしいな。

(想定媒体・高校生新聞ONLINE)