【臨床症候に対する薬物療法の動向】
臨床で使用されている抗パーキンソン病薬は種々あるが、大きく分けると、L-DOPA薬、ドーパミン受容体アゴニスト、アマンタジン、中枢性抗コリン作用薬、L-threo-DOPSの5群に分類される。
1)L-DOPA薬
最近、種々のドーパミン受容体アゴニスト、MAO-B阻害剤、COMT阻害剤などが開発されつつあるが、最も卓越した治療効果を示すのはL-DOPAであり、これを凌ぐ薬は今なお発見されてはいない。しかし、患者の脳内に入ったL-DOPAの生理作用については未だ十分明らかにされてはいない。実験動物モデルを用いた研究や放射線同位体で標識されたDOPAを用いた研究の結果から、まず取り込まれたL-DOPAは残存黒質線条体ドーパミン神経に取り込まれる。次にその神経終末に存在する貯蔵され神経細胞の活動に応じてシナプス間隙に放出されて、線条体神経細胞上のドーパミンD2受容体と結合することにより作用を発現すると考えられている。患者では大部分の黒質線条体ドーパミン神経は消失しているが、残存ドーパミン神経ではドーパミンの生産および放出能の促進や脱神経性過敏によるD2受容体結合部位が増加するなどの代償減少に助けられて機能を発揮すると推定さている。
L-DOPA療法の問題点として知られているものの中で主なものはL-DOPA療法開始数年後に、薬効の低下、効果不安定による日内動揺(wearnin-off現象、on-of現象)、幻覚・妄想などの分裂病様精神症状といった問題症状が生じることが少なくないが、大部分は脳病変の進行に加齢現象が加わることによって出現すると推定さている。このため、運動機能の低下を是正するのに必要な抗パーキンソン病薬を減量するか、ドーパミン受容体遮断作用のある薬物の併用が必要となり、いずれの場合も結果としてパーキンソン病症状の悪化をきたすことになる。進行期患者の臥床状態への二大誘因として、転倒による骨折とともに今後解決されねばならない課題である。また、突然死については不整脈や起立性低血圧出現例が多く、循環器系の疾病の合併や薬物投与との関連が推定されている。
2)ドーパミン受容体アゴニスト
遺伝子クローニング技法の発展により、ドーパミン受容体はD1からD5まで複数の受容体の存在が知られるようになった。この受容体に神経伝達部室のドーパミンと同じように結合し、細胞内二次伝達系の活性化を生じる化学物質をドーパミン受容体アゴニストという。すでに市販されているブロモクリプチン、ペルゴリド、タリペキソールや治験中のカベルゴリンなどのアゴニストの抗パーキンソン病作用は基本的には同じであるが、作用時間や副作用などに相違があって薬剤選択の幅の広がりをもたらし、個々の患者により最適な治療を行うことが可能になりつつある。
3)アマンタジン
抗ウイルス剤として開発されたアマンタジンは偶然にも抗パーキンソン病作用を合わせ持つことが発見されたユニークな物質である。ドーパミンの放出を促すことが抗パーキンソン病作用の由来と考えられているが、抗コリン作用やNMDA受容体拮抗作用を持つことが明らかにされており、真の薬理作用は未だ十分解明されてはいない。
4)中枢性抗コリン作用薬
健常者では線条体でのドーパミン系はアセチルコリン系と薬理学的に均衡を保っている。患者脳内ではドーパミン減少のため、この均衡がアセチルコリン側に傾いている。これに対し、抗コリン剤を投与してこの不均衡を回復させる療法はパーキンソン病の治療法として最も古く、1980年代後半にベラドンナアルカロイドが最初に抗パーキンソン薬として用いられて以来L-DOPAが発見されるまでは、殆ど唯一のパーキンソン病治療薬であったが、L-DOPA出現以後は第一選択薬としての地位をゆずり、現在ではL-DOPAの補助薬と位置づけられている。しかし、振戦や流涎の目立つ患者ではL-DOPAを凌ぐ効果を示すことがあり、今日においても重要な薬の一つである。短所は高齢者では排尿困難や一過性の記憶障害を生じやすいことである。
5)ドロキシドパ
L-DOPA抵抗性のすくみ現象、姿勢反射障害、無動症などにドロキシドパを投与すると有効なことがある。軽症ではL-DOPA由来のドーパミンからドーパミンβ水酸化酵素(DBH)の作用によりノルアドレナリンが生産されるが、病変が進行しDBH欠乏が顕在化するとノルアドレナリンも欠乏し上記の諸症状を生ずる。そこでノルアドレナリンの前駆体であるドロキシドパの投与が試みられ有効と報告されている。通常は300~600mg/日を用いる。この薬は末梢では昇圧作用を示すためL-DOPAやドーパミンアゴニストの投与により起立性低血圧を示す患者では利点となる。
6)MAB-B阻害薬
MPTPの投与によりパーキンソン病類似の病態を生じることから、本症の病因にも外因性もしくは内因性の毒性物質が関与している可能性が論議さているが、モノアミンB阻害剤が動物実験でMPTPの毒性を抑制したことから、パーキンソン病の黒質病変の進行を抑制する可能性が示唆されている。大規模な治験を行い、1996年の最終報告ではMAO-B阻害薬の疾患抑制効果については否定された。今後なお十分な論議を要するものと思われる。
7)COMT阻害薬
COMT阻害薬については、DOPA脱炭酸酵素阻害剤と同様に、末梢では投与されたL-DOPAから3-OMDへの代謝を抑制して血液脳関門を通過するL-DOPA量を増加させ、されに中枢ではドーパミンの代謝を抑制し、L-DOPAの作用時間を延長させることを目的としており、臨床での治験が開始されている。
臨床で使用されている抗パーキンソン病薬は種々あるが、大きく分けると、L-DOPA薬、ドーパミン受容体アゴニスト、アマンタジン、中枢性抗コリン作用薬、L-threo-DOPSの5群に分類される。
1)L-DOPA薬
最近、種々のドーパミン受容体アゴニスト、MAO-B阻害剤、COMT阻害剤などが開発されつつあるが、最も卓越した治療効果を示すのはL-DOPAであり、これを凌ぐ薬は今なお発見されてはいない。しかし、患者の脳内に入ったL-DOPAの生理作用については未だ十分明らかにされてはいない。実験動物モデルを用いた研究や放射線同位体で標識されたDOPAを用いた研究の結果から、まず取り込まれたL-DOPAは残存黒質線条体ドーパミン神経に取り込まれる。次にその神経終末に存在する貯蔵され神経細胞の活動に応じてシナプス間隙に放出されて、線条体神経細胞上のドーパミンD2受容体と結合することにより作用を発現すると考えられている。患者では大部分の黒質線条体ドーパミン神経は消失しているが、残存ドーパミン神経ではドーパミンの生産および放出能の促進や脱神経性過敏によるD2受容体結合部位が増加するなどの代償減少に助けられて機能を発揮すると推定さている。
L-DOPA療法の問題点として知られているものの中で主なものはL-DOPA療法開始数年後に、薬効の低下、効果不安定による日内動揺(wearnin-off現象、on-of現象)、幻覚・妄想などの分裂病様精神症状といった問題症状が生じることが少なくないが、大部分は脳病変の進行に加齢現象が加わることによって出現すると推定さている。このため、運動機能の低下を是正するのに必要な抗パーキンソン病薬を減量するか、ドーパミン受容体遮断作用のある薬物の併用が必要となり、いずれの場合も結果としてパーキンソン病症状の悪化をきたすことになる。進行期患者の臥床状態への二大誘因として、転倒による骨折とともに今後解決されねばならない課題である。また、突然死については不整脈や起立性低血圧出現例が多く、循環器系の疾病の合併や薬物投与との関連が推定されている。
2)ドーパミン受容体アゴニスト
遺伝子クローニング技法の発展により、ドーパミン受容体はD1からD5まで複数の受容体の存在が知られるようになった。この受容体に神経伝達部室のドーパミンと同じように結合し、細胞内二次伝達系の活性化を生じる化学物質をドーパミン受容体アゴニストという。すでに市販されているブロモクリプチン、ペルゴリド、タリペキソールや治験中のカベルゴリンなどのアゴニストの抗パーキンソン病作用は基本的には同じであるが、作用時間や副作用などに相違があって薬剤選択の幅の広がりをもたらし、個々の患者により最適な治療を行うことが可能になりつつある。
3)アマンタジン
抗ウイルス剤として開発されたアマンタジンは偶然にも抗パーキンソン病作用を合わせ持つことが発見されたユニークな物質である。ドーパミンの放出を促すことが抗パーキンソン病作用の由来と考えられているが、抗コリン作用やNMDA受容体拮抗作用を持つことが明らかにされており、真の薬理作用は未だ十分解明されてはいない。
4)中枢性抗コリン作用薬
健常者では線条体でのドーパミン系はアセチルコリン系と薬理学的に均衡を保っている。患者脳内ではドーパミン減少のため、この均衡がアセチルコリン側に傾いている。これに対し、抗コリン剤を投与してこの不均衡を回復させる療法はパーキンソン病の治療法として最も古く、1980年代後半にベラドンナアルカロイドが最初に抗パーキンソン薬として用いられて以来L-DOPAが発見されるまでは、殆ど唯一のパーキンソン病治療薬であったが、L-DOPA出現以後は第一選択薬としての地位をゆずり、現在ではL-DOPAの補助薬と位置づけられている。しかし、振戦や流涎の目立つ患者ではL-DOPAを凌ぐ効果を示すことがあり、今日においても重要な薬の一つである。短所は高齢者では排尿困難や一過性の記憶障害を生じやすいことである。
5)ドロキシドパ
L-DOPA抵抗性のすくみ現象、姿勢反射障害、無動症などにドロキシドパを投与すると有効なことがある。軽症ではL-DOPA由来のドーパミンからドーパミンβ水酸化酵素(DBH)の作用によりノルアドレナリンが生産されるが、病変が進行しDBH欠乏が顕在化するとノルアドレナリンも欠乏し上記の諸症状を生ずる。そこでノルアドレナリンの前駆体であるドロキシドパの投与が試みられ有効と報告されている。通常は300~600mg/日を用いる。この薬は末梢では昇圧作用を示すためL-DOPAやドーパミンアゴニストの投与により起立性低血圧を示す患者では利点となる。
6)MAB-B阻害薬
MPTPの投与によりパーキンソン病類似の病態を生じることから、本症の病因にも外因性もしくは内因性の毒性物質が関与している可能性が論議さているが、モノアミンB阻害剤が動物実験でMPTPの毒性を抑制したことから、パーキンソン病の黒質病変の進行を抑制する可能性が示唆されている。大規模な治験を行い、1996年の最終報告ではMAO-B阻害薬の疾患抑制効果については否定された。今後なお十分な論議を要するものと思われる。
7)COMT阻害薬
COMT阻害薬については、DOPA脱炭酸酵素阻害剤と同様に、末梢では投与されたL-DOPAから3-OMDへの代謝を抑制して血液脳関門を通過するL-DOPA量を増加させ、されに中枢ではドーパミンの代謝を抑制し、L-DOPAの作用時間を延長させることを目的としており、臨床での治験が開始されている。