大腿骨骨幹部骨折
[はじめに]
大腿骨は人体の中で最大の骨であり、通常大骨骨幹部骨折は強大な外力によって生じる。また、生じる機能障害も著しい。
[解剖]
大腿骨は通常軽度な前方凸に弓状を呈している。従って、直線状の髄内釘やガイドワイヤーを挿入する場合、前方の骨皮質を穿破しやすいので注意する必要がある。また、大腿骨は各種の大きな筋力が加わってくるので、骨折部位によって転位の仕方は変わってくる。
中枢1/3の骨折は、中枢骨片が大転子の外転筋群・小転子の腸腰筋により、外転・外旋する。
末梢骨片は内転筋により短縮・内反変形を生じる。
中央1/3の骨折は、中枢骨片は軽度屈曲位
末梢骨片は短縮して後方へ転位する。
末梢1/3の骨折は、末梢骨片が腓腹筋により後方へ牽引されて、後方凸変形をきたす。この場合は膝窩動脈損傷にも留意すべきである。
[分類]
◍大腿骨骨幹部骨折のAO分類
A型:単純骨折―A1:単純螺旋骨折
A2:単純斜骨折(水平面から30°以上)
A3:単純横骨折(水平面から30°以内)
B型:楔状骨折―B1:楔状螺旋骨折
B2:楔状屈曲骨折
B3:楔状粉砕骨折
C型:複合骨折―C1:複合螺旋骨折
C2:複合分節骨折
C3:その他の複合
◍Gustiloの分類(開放創)
TypeⅠ:1cm以下の開放創
TypeⅡ:1cm以上ではあるが広範囲の軟部組織損傷のない開放創
TypeⅢ:1cm以上の広範の軟部組織損傷を伴う開放創
[症状・病態]
◍疼痛
◍腫張
◍圧痛
◍変形
◍貧血・出血性ショック(一般に大腿骨骨幹部骨折の局所出血量は1000~1200ml以上と推測されている。)
[合併症]
◍脂肪塞栓症
◍成人呼吸窮迫症候群(ARDS)
◍膝関節の半月版や靭帯損傷(膝関節血腫を認める場合は注意)
◍股関節脱臼
◍大腿骨頸部骨折
[検査・診断]
◍X線正面・側面像
[治療]
大腿骨骨幹部骨折の保存療法は、周囲の強力な筋力により、整復・固定の保持が困難であるため、手術的療法を第一に
考える。
1、保存療法
a.鋼線牽引
脛骨上端・大腿骨下端にキルシュナー鋼線を挿入し、これを緊張させる器具をつけて重錘で持続的に牽引する方法。
b.ギブス、装具
膝関節の拘縮を少しでも軽減する目的で、整復位を得ながら鋼線牽引を6~8週施行し、X線上仮骨が少し出現した時
点で膝関節部にジョイントをつけた機能装具を装着して、後療法を骨癒合が得られるまで行うことを勧める。
2、手術療法
a.創外固定法
GustiloのTypeⅢ、特に一次的創閉鎖が不能な開放骨折や骨髄炎合併した場合に適応である。本骨折は骨癒合を得られるまでに長期間を要する上、軟部組織が厚く周囲から強大な筋力が加わる部位であるので、整復位を保持し続けることが困難な場合が多い。従って、創の閉鎖が得られ感染も鎮静化すれば二次的に髄内釘固定を行うことが多い。
b.プレート
外側アプローチで行う。
外側アプローチは、外側広筋は前方に避けて、10~12穴のAOダイナミック・コンプレッションなどを使用して内固定する。整復の際には骨折癒合には必要な血流を確保する目的で、可能な限り骨膜などの軟部組織の温存に努め、また、固定性をより高めるために第3骨片に至るまでできる限り正確な整復位を得るよう努めて慎重に行う。加えて、骨欠損、特に内側骨皮質に欠損をきたした場合には、海面骨による骨移植を同時に追加する。
また、術後広範囲に軟部組織を剥離して展開するため、閉鎖性髄内釘法に比べて骨癒合が遷延しやすい。膝関節拘縮も生じやすい。
c.髄内釘固定法
この方法はküntscherによって開発されたもので、長管骨、特に大腿骨中央部1/3あるいは脛骨中央部1/3の横骨折、斜骨折に適応。クローバー型をした断面のロッドを髄内釘に打ち込んで、クローバー型形状の広がろうとする力で長管骨の髄内から骨片をしっかりと保持して固定する。この方法は、外骨膜を損傷しないで、外骨膜性の血行と造血機能を損傷しない大きな利点がある。
これはプレート固定に比べ骨折部を開放せずに手術が施行できるため、骨折部周囲の骨膜、血行を傷害せず骨折治癒に有利であり、感染率も少ない。また、強固に固定できるため術後に外固定を必要とせず、早期に関節可動域訓練、筋力増強訓練が可能である。
しかし、プレート固定ほど強固な固定性を求めず、骨片間の可動性をある程度許している。
1)küntscher法
骨髄腔を削り(reaming)釘を打ち込むため長軸方向の可動性をわずかに許す固定法である。
大腿骨骨幹部横骨折、短斜骨折に対して、特に髄腔の狭い若年者に適応である。牽引手術台を使用してX等透視下に閉鎖性手技で整復し、大腿骨大転子上方より順行性十分にリーミングして11~12mm以上の太さのクローバー型釘を打ち込めば骨癒合も良好に得られる。
粉砕骨折に対する本法は短縮・回旋などの変形癒合きたす可能性があるために適応は慎重にする。クローバー型形状の広がろうとする力で長管骨の髄内から骨片をしっかりと保持して固定する。この方法は、外骨膜を損傷しないで、外骨膜性の血行と造血機能を損傷しない大きな利点がある。
2)Ender法
背臥位で牽引手術台を使用して、X投透視下に閉鎖性手技で整復、骨折部位に応じて大腿顆上内外側部または大転子上下部の4ヵ所から、できるだけ骨折部の遠位より3~5本のEnder
pinを閉鎖的に先端を可能な限り分散させつつ軟骨下骨付近なで十分な深部で打ち込み、内固定する。手術器材の準備が容易で、侵襲が少なく、骨髄血行の損傷も最小限にとどめることができ、固定性が弾力性であるために大量の仮骨形成とともに癒合する。AO分類A型骨折ではEnderpinを3本入らない恐れがあるので、2本のEnderpinを分散して打ち込む場合もある。
3)横止め髄内釘法
各釘ともに大腿骨の形状に合わせて直径110mm前後の前弯がついていて、原則として閉鎖性手技で整復、リーミング施行後大転子上部より順行性に挿入する。Ender法と同じく高度の粉砕骨折に対しても閉鎖性に主骨片同士を固定できれば、第3以下の骨片を整復しなくても架橋性化骨により良好に癒合する。
3、後治療
固定力が不足すると、荷重や周囲の強大な筋力のため遷延治癒や偽関節をきたすことがあり、開放骨折やプレート固定など手術的に骨折部を展開した場合には注意を要する。骨折部を展開した場合や開放骨折ではX線上仮骨が出現するまで、荷重などの積極的な後治療を慎重に進める。開放骨折の場合は、初期治療の善し悪しでその後の治療が決定されるので、十分なデブリドマンが重要。
閉鎖性髄内釘固定法を行う際には、特に回旋変形に留意して施行する必要があり、そのためには仰臥位で手術を行ったほうが対処しやすい。
[荷重時期]
◍主骨片同士が噛み合い、固定性が良好であれば術後早期より荷重可能であり、疼痛の耐えられる範囲で荷重を許可できる。
◍筋力が保たれ安定型の骨折で固定性がよければ術後1~2週間で全荷重が可能である。
◍第3骨片を介しての荷重では、髄内釘や螺子への負担が大きく、折損の危険性がある。
◍粉砕骨折では一般に骨折部周囲の仮骨形成を待ってから(術後3~4週)、徐々に荷重を増やし、X線写真像に
て経過をみながら全体重負荷としていく。
◍仮骨形成が不良だからといって免荷期間を長くすると廃用症候群になり、骨萎縮、周囲関節機能低下をきたし、長期にわたって荷重可能な下肢機能が再現できず、健側の下肢痛、腰痛をきたすことがある。
[はじめに]
大腿骨は人体の中で最大の骨であり、通常大骨骨幹部骨折は強大な外力によって生じる。また、生じる機能障害も著しい。
[解剖]
大腿骨は通常軽度な前方凸に弓状を呈している。従って、直線状の髄内釘やガイドワイヤーを挿入する場合、前方の骨皮質を穿破しやすいので注意する必要がある。また、大腿骨は各種の大きな筋力が加わってくるので、骨折部位によって転位の仕方は変わってくる。
中枢1/3の骨折は、中枢骨片が大転子の外転筋群・小転子の腸腰筋により、外転・外旋する。
末梢骨片は内転筋により短縮・内反変形を生じる。
中央1/3の骨折は、中枢骨片は軽度屈曲位
末梢骨片は短縮して後方へ転位する。
末梢1/3の骨折は、末梢骨片が腓腹筋により後方へ牽引されて、後方凸変形をきたす。この場合は膝窩動脈損傷にも留意すべきである。
[分類]
◍大腿骨骨幹部骨折のAO分類
A型:単純骨折―A1:単純螺旋骨折
A2:単純斜骨折(水平面から30°以上)
A3:単純横骨折(水平面から30°以内)
B型:楔状骨折―B1:楔状螺旋骨折
B2:楔状屈曲骨折
B3:楔状粉砕骨折
C型:複合骨折―C1:複合螺旋骨折
C2:複合分節骨折
C3:その他の複合
◍Gustiloの分類(開放創)
TypeⅠ:1cm以下の開放創
TypeⅡ:1cm以上ではあるが広範囲の軟部組織損傷のない開放創
TypeⅢ:1cm以上の広範の軟部組織損傷を伴う開放創
[症状・病態]
◍疼痛
◍腫張
◍圧痛
◍変形
◍貧血・出血性ショック(一般に大腿骨骨幹部骨折の局所出血量は1000~1200ml以上と推測されている。)
[合併症]
◍脂肪塞栓症
◍成人呼吸窮迫症候群(ARDS)
◍膝関節の半月版や靭帯損傷(膝関節血腫を認める場合は注意)
◍股関節脱臼
◍大腿骨頸部骨折
[検査・診断]
◍X線正面・側面像
[治療]
大腿骨骨幹部骨折の保存療法は、周囲の強力な筋力により、整復・固定の保持が困難であるため、手術的療法を第一に
考える。
1、保存療法
a.鋼線牽引
脛骨上端・大腿骨下端にキルシュナー鋼線を挿入し、これを緊張させる器具をつけて重錘で持続的に牽引する方法。
b.ギブス、装具
膝関節の拘縮を少しでも軽減する目的で、整復位を得ながら鋼線牽引を6~8週施行し、X線上仮骨が少し出現した時
点で膝関節部にジョイントをつけた機能装具を装着して、後療法を骨癒合が得られるまで行うことを勧める。
2、手術療法
a.創外固定法
GustiloのTypeⅢ、特に一次的創閉鎖が不能な開放骨折や骨髄炎合併した場合に適応である。本骨折は骨癒合を得られるまでに長期間を要する上、軟部組織が厚く周囲から強大な筋力が加わる部位であるので、整復位を保持し続けることが困難な場合が多い。従って、創の閉鎖が得られ感染も鎮静化すれば二次的に髄内釘固定を行うことが多い。
b.プレート
外側アプローチで行う。
外側アプローチは、外側広筋は前方に避けて、10~12穴のAOダイナミック・コンプレッションなどを使用して内固定する。整復の際には骨折癒合には必要な血流を確保する目的で、可能な限り骨膜などの軟部組織の温存に努め、また、固定性をより高めるために第3骨片に至るまでできる限り正確な整復位を得るよう努めて慎重に行う。加えて、骨欠損、特に内側骨皮質に欠損をきたした場合には、海面骨による骨移植を同時に追加する。
また、術後広範囲に軟部組織を剥離して展開するため、閉鎖性髄内釘法に比べて骨癒合が遷延しやすい。膝関節拘縮も生じやすい。
c.髄内釘固定法
この方法はküntscherによって開発されたもので、長管骨、特に大腿骨中央部1/3あるいは脛骨中央部1/3の横骨折、斜骨折に適応。クローバー型をした断面のロッドを髄内釘に打ち込んで、クローバー型形状の広がろうとする力で長管骨の髄内から骨片をしっかりと保持して固定する。この方法は、外骨膜を損傷しないで、外骨膜性の血行と造血機能を損傷しない大きな利点がある。
これはプレート固定に比べ骨折部を開放せずに手術が施行できるため、骨折部周囲の骨膜、血行を傷害せず骨折治癒に有利であり、感染率も少ない。また、強固に固定できるため術後に外固定を必要とせず、早期に関節可動域訓練、筋力増強訓練が可能である。
しかし、プレート固定ほど強固な固定性を求めず、骨片間の可動性をある程度許している。
1)küntscher法
骨髄腔を削り(reaming)釘を打ち込むため長軸方向の可動性をわずかに許す固定法である。
大腿骨骨幹部横骨折、短斜骨折に対して、特に髄腔の狭い若年者に適応である。牽引手術台を使用してX等透視下に閉鎖性手技で整復し、大腿骨大転子上方より順行性十分にリーミングして11~12mm以上の太さのクローバー型釘を打ち込めば骨癒合も良好に得られる。
粉砕骨折に対する本法は短縮・回旋などの変形癒合きたす可能性があるために適応は慎重にする。クローバー型形状の広がろうとする力で長管骨の髄内から骨片をしっかりと保持して固定する。この方法は、外骨膜を損傷しないで、外骨膜性の血行と造血機能を損傷しない大きな利点がある。
2)Ender法
背臥位で牽引手術台を使用して、X投透視下に閉鎖性手技で整復、骨折部位に応じて大腿顆上内外側部または大転子上下部の4ヵ所から、できるだけ骨折部の遠位より3~5本のEnder
pinを閉鎖的に先端を可能な限り分散させつつ軟骨下骨付近なで十分な深部で打ち込み、内固定する。手術器材の準備が容易で、侵襲が少なく、骨髄血行の損傷も最小限にとどめることができ、固定性が弾力性であるために大量の仮骨形成とともに癒合する。AO分類A型骨折ではEnderpinを3本入らない恐れがあるので、2本のEnderpinを分散して打ち込む場合もある。
3)横止め髄内釘法
各釘ともに大腿骨の形状に合わせて直径110mm前後の前弯がついていて、原則として閉鎖性手技で整復、リーミング施行後大転子上部より順行性に挿入する。Ender法と同じく高度の粉砕骨折に対しても閉鎖性に主骨片同士を固定できれば、第3以下の骨片を整復しなくても架橋性化骨により良好に癒合する。
3、後治療
固定力が不足すると、荷重や周囲の強大な筋力のため遷延治癒や偽関節をきたすことがあり、開放骨折やプレート固定など手術的に骨折部を展開した場合には注意を要する。骨折部を展開した場合や開放骨折ではX線上仮骨が出現するまで、荷重などの積極的な後治療を慎重に進める。開放骨折の場合は、初期治療の善し悪しでその後の治療が決定されるので、十分なデブリドマンが重要。
閉鎖性髄内釘固定法を行う際には、特に回旋変形に留意して施行する必要があり、そのためには仰臥位で手術を行ったほうが対処しやすい。
[荷重時期]
◍主骨片同士が噛み合い、固定性が良好であれば術後早期より荷重可能であり、疼痛の耐えられる範囲で荷重を許可できる。
◍筋力が保たれ安定型の骨折で固定性がよければ術後1~2週間で全荷重が可能である。
◍第3骨片を介しての荷重では、髄内釘や螺子への負担が大きく、折損の危険性がある。
◍粉砕骨折では一般に骨折部周囲の仮骨形成を待ってから(術後3~4週)、徐々に荷重を増やし、X線写真像に
て経過をみながら全体重負荷としていく。
◍仮骨形成が不良だからといって免荷期間を長くすると廃用症候群になり、骨萎縮、周囲関節機能低下をきたし、長期にわたって荷重可能な下肢機能が再現できず、健側の下肢痛、腰痛をきたすことがある。