目次
1、変形性膝関節症による膝関節伸展制限のメカニズム
2、脛骨外骨腫の病態
3、静脈血栓によるリスク
4、TKAの適応とリスク管理
5、疼痛のメカニズム
6、頚部椎間板症候群
7、高血圧によってのリハへの影響
①変形性膝関節症による膝関節伸展制限のメカニズム
変形性膝関節症(Osteoarthritis of the Knee)
1.概要
関節を構成する組織の慢性的な退行変性と増殖が起こり、関節の変形をきたす疾患を変形性関節症という。1次性(老化現象、機械的ストレス)と、2次性(外傷、代謝異常、先天的、後天的な関節疾患が原因)に分けられるが、厳密には分離できない。変形性膝関節症は肥満と関係が深いことは明確になっているが、具体的な発症メカニズムは解明されていない。しかし、肥満でなくても本症が発症することを考慮すると、姿勢や動作による機械的ストレスが本症の発生に関与していると考えられる。
脊柱は老化により構造的にも形態的にも大きく変化し姿勢に影響を及ぼす。脊柱の姿勢変化は、体幹を支持している下肢への負担度も変化させる。脊柱全体の後彎増強により、重心は後方化し、下肢伸展機構での負担増加が余儀なくされる。さらに、老化によって生じる骨性因子(下肢骨の形態変化:前捻角、頚体角、骨幹部彎曲など)、代謝・内分泌系因子も変形の引き金となりうる。
2.病態
(1)主症状
疼痛、運動制限、筋萎縮、跛行が主症状である。疼痛は動作開始時に訴える場合が多い。疼痛部位は膝関節の裂隙あるいは裂隙直下で、特に内側に多い。また関節水腫や炎症症状などもみられる。膝関節のみならず股関節、足関節、足部、腰部にも疼痛を訴える場合も多い。腰痛は脊椎の後彎変形を有するものに多い。運動制限は屈曲拘縮による伸展可動性減が多いが、屈曲可動域の制限もみられる。筋萎縮は大腿四頭筋、特に内側広筋にみられる場合が多く、mechanoreceptorからの抑制が作用していると考えられる。
歩行では、立脚期にthrustとよばれる膝関節の動揺現象が観察され、体幹の側方動揺(Duchenne跛行)を伴う場合もある。膝関節に関する変形は内反変形が多く、外反変形あるいは膝蓋大腿関節に生じ、脛骨の内捻増加などが見られる場合がある。足部では外反母趾、扁平足などを有する場合も少なくない。
<高齢者の膝関節の構造と機能>
●正常膝関節の構造と膝OAにおける変化
・正常膝関節は、大腿骨・脛骨間の適合性は乏しい。
・内的安定性は、筋肉、靱帯、半月板などの軟部組織が大きい。
・筋肉や諸靱帯は安定性、半月板は荷重分散の役割を果たす。
●高齢者の膝OAの疫学
膝OAの発生頻度は高齢に伴って増加するが、加齢に伴う軟骨の性状の変化と膝OAにみられる軟骨の変化とは異なっており、膝OAは加齢現象そのものではない。しかし、関節軟骨の質的変化に加えて、加齢に伴う下肢アライメント、下肢筋量・筋力、骨密度、関節動揺性や神経系の変化は、膝関節にかかる力学的負荷を変化させることで膝OAの発症要因となり得ることが報告されている。
●加齢に伴う関節軟骨の変化
軟骨細胞数が減少・プロテオグリカンの合成能低下・コラーゲン線維径が増大・架橋が密・軟骨の弾力性が低下⇒軟骨の修復能低下・衝撃吸収能低下。
加齢に伴う軟骨の変化は、加齢に伴う膝OAの増加に関与している可能性が考えられる。
●関節軟骨以外の加齢に伴う変化
1)下肢アライメント
大腿四頭筋の発生する外反モーメントが体重により発生する内反モーメントを弱める作用を持つ。橋村らは、健常若年群の大腿骨骨幹部は内彎を呈するが、加齢とともに内彎の減少と外彎傾向が進み、初期膝OA群では(FTA180°未満)では大腿骨は女性で優位に外彎変形を生じていること、さらに初期膝OA群においては、まず大腿骨軸に対する大腿骨遠位関節面の内反が進むことを報告した。これにより脛骨の形態が変化することなく下肢機能軸は内側に移動することから、大腿骨骨幹部の外彎変形や大腿骨遠位関節の内反は膝OA発症の一因となり得ると述べている。
2)下肢筋力
女性において、膝伸展筋力の低下は膝OAの発症要因になり得ると述べている。膝伸展筋力が低下すると、歩行周期の踵接地時において膝の関節軟骨に加わる衝撃が増大し、軟骨損傷を招きやすいとされている。
3)下肢筋量
加齢に伴って筋力の低下を引き起こす最大の原因は筋量の減少である。また、筋量の減少をもたらす主要な因子は筋線維の減少と筋線維萎縮である。Lexellらは15~83歳の男性の筋量について、外側広筋の中央部の断面積は24歳でピークに達したあと徐々に減少し、50歳から減少率が増大し、20歳代の筋断面積に比べ60歳で18%、80歳で40%減少すると述べている。筋線維数についても同様の推移を示す。この加齢に伴う筋断面積の減少は筋力の低下と類似している。
さらに筋繊維は加齢に伴い遅筋線維よりも速筋線維に選択的に萎縮が起こる。
Tomlinsonらは13~95歳の腰仙髄レベルの前角細胞の数を組織学的に調べた結果、60歳まではその数は変わらず、60歳以降急激に減少し、95歳では10~60歳と比べて32%減少すると報告している。この加齢に伴い脱落する運動ニューロンは、主に速筋を支配するニューロンである。以上より、筋線維の萎縮や消滅は概ね25歳の早期より始まり、その後、加齢とともに加速して筋量の減少と筋力の低下を招くと考えられる。
筋力同様、加齢に伴う大腿四頭筋優位の筋量低下は膝OAの発症要因になる可能性がある。
4)関節動揺性
大森らは、歩行中、立脚初期の膝の急激な内反運動は健常人の歩行解析においても女性の15%程度に認められるが、膝OA患者ではOAの進行とともにその出現率が高くなることを報告し、下肢の内反アライメントや膝関節の動揺性が原因となって生ずるlateral thrust運動は、膝関節内側面への繰り返しの機械的負荷となり関節軟骨の磨耗変性を惹起し、膝OAの発症・進行の要因になると述べている。
5)proprioception(固有感覚)
生体が関節運動を行う際、その制御機構は筋紡錘、腱紡錘をはじめとする関節内外がmechanoreceptorからの情報のフィードバックにより成立している。これまでに、膝OAや外傷例におけるmechanoreceptorの破壊、変性とそれによるproprioceptionの低下が報告され、注目されている。Paiらは若年者と高齢者と膝OA例の3群で、装置に座らせて膝を角速度0.3°/秒で動かし、膝のproprioception(関節位置覚.knee joint position sense)を観察した。proprioceptionは加齢に伴って低下し、また膝OA例は高齢者コントロール群より低いという結果であった。
加齢に伴うproprioceptionの低下は膝OAの低下は膝OAの原因になり得ると考えられる。
Barrettらは、膝OA患者と人工膝関節置換術後の患者のproprioceptionは健常者と優位な差があるが、これらの患者の関節周辺部に弾力包帯を巻くことで誤差が有意に減少すると述べている。このことは、proprioceptionに影響しているものはmechanoreceptorのみならず、皮膚からの感覚情報も重要であることを示唆しており、治療を考える上で興味深い。
6)骨密度
加齢に伴う骨密度の減少、つまり骨粗鬆症と膝OAとの関連についてはさまざまな報告があるが、意見の一致をみたとは言い難い。一般的には、膝OAと骨粗鬆症は逆相関する。
古くはRadinらが、軟骨下骨が硬いと関節軟骨への衝撃が吸収できず膝OAが生じやすいと仮説を述べており、高骨量と硬い軟骨下骨との関係が示唆される。その一方でTerauchiらは、骨密度が低い者では、荷重負荷によって脛骨内側顆の軟骨下骨に微小骨折が生じ、脛骨近位関節面の内反変形が増強することで膝OAに至るとしており、低い骨密度が膝のOA変化を抑制するわけではないと主張している。
●後期高齢者の膝の特徴
・75歳未満が前期高齢者、75歳以上が後期高齢者と呼ばれる。
・膝OAにみられる疼痛や関節水症は膝屈曲反射亢進による大腿四頭筋活動抑制とハムストリングスの過緊張ならびに短縮を生じ、加齢に伴う大腿四頭筋萎縮・筋力低下も手伝って膝関節は屈曲拘縮へと向かう。また、高齢者に特徴的な円背姿勢(胸椎の後彎増強)も膝屈曲拘縮を来たす要因になり、70歳代の男性76.9%、女性の100%が立位時に膝屈曲位をとるとの報告がある。このような姿勢変化や膝OAの存在は高齢者における歩行能力の低下を招き、転倒の要因となる。後期高齢者では大腿骨頚部骨折の発生率が著しく増加し、その予後については受傷後1年の死亡率が健常老人の約3倍と言われていることから、転倒の予防に努めることは重要である。
●膝関節支持機構の加齢変化
高齢者の関節可動域は、ほとんどすべての関節において減少する。これは、関節周囲組織の硬直性の増加や滑液粘度の低下といった組織学的な変化が一次要因として考えられる。そのほかに、靱帯の緊張バランスが崩れることによって生じる関節の回転中心軸の形成不全といった運動学的な変化も関節可動域を減少させる原因となり得る。
1)十字靱帯と側副靱帯
十字靱帯と側副靱帯は、関節の回転軸を形成して「適度なrollingとsliding」を誘導しており、関節回転中心の形成に果す役割が大きい。
内外旋運動における回転中心の形成にも、十字靱帯と側副靱帯が重要な役割を有している。成人における膝関節回旋運動の中心は膝関節中央付近に存在し、内側顆間隆起のやや内方に位置する。ただし、屈伸軸同様に回旋中心軸も、周辺靱帯の緊張によって移動する。回旋中心軸が適切な位置に形成されなくなると、関節包や関節周辺組織に偏った機械的ストレスが負荷されることになる。
2)脛骨と大腿骨の相対的位置関係
内反位にある場合は内側側副靱帯の緊張減弱させるため、回旋中心軸の外側変位を助長する結果となる。回線中心軸の外側変位は内側コンパートメントの可動性を増大させ、内側半月や軟骨組織に対する剪断力を増大させることになる。高齢者の半月剖検所見によれば、外側半月内縁中央部と内側半月前角部に亀裂が認められ、軟骨細胞の集落形成が存在する場合が多いと報告されており、変形性膝関節症の進行と回旋中心軸の変形との関連性が推測される。
3)下肢筋群の加齢変化
重位における下肢筋群の活動パターンは、加齢変化ととも二関節筋優位の筋活動になるといわれている。膝関節筋優位の筋活動では、膝のスタビライザーである大腿広筋群に代わって、ハムストリングスと大腿直筋が動作中に持続的活動を示すようになり、筋放電量も増加するという特徴を示す。これら拮抗二関節筋ペアの筋活動の増加は、1つの関節に対して拮抗筋を同時収縮させることによって、関節の剛性を高めようとする反応であると指摘されている。一方、大殿筋や大腿広筋群の活動は著しく減弱する。
②脛骨外骨腫の病態
骨軟骨腫(外骨腫)
良性骨腫瘍中最も頻度が高く骨皮質から連続し骨外へ突出する隆起性病変であり,その表面に軟骨帽を有する.単発性と多発性があり,多発性の場合,多くは遺伝性が認められ単発性よりも悪性化の頻度が高い.
◆治療方針
治療の原則は経過観察であるが,疼痛や関節機能障害を有する場合,美容上問題となる場合などに手術適応となり軟骨帽の残存がないよう切除する.特殊型である爪下外骨腫では手術適応となることが多い.なお,急速な増大傾向を認めたり,MRIなどにより軟骨帽が通常よりも厚く(2cm以上)不規則な分葉状増殖を示す場合は二次性軟骨肉腫を疑い,組織学的確定診断の後,広範切除が必要となる.
多発性外骨腫
〔概念〕
頻度の高い原発性骨腫瘍である外骨腫 exostosis(骨軟骨腫osteochondroma)が,全身性に多発性に生じる疾患である。7:3で男子に多く遺伝形式は常染色体優性遺伝であるが,症例の約 40% が新突然変異である。長管骨の骨幹端部に好発し,幼少期に骨性隆起として発見され,時に四肢の変形を来す。
〔臨床症状と病態〕
幼少期に骨性の隆起として発見され,多くは無痛性である。骨端線に近接して発生し,好発部位は長管骨骨幹端部で,その他肩甲骨,肋骨,腸骨,脊椎などにも発生する。外骨腫の表面は軟骨帽cartilage capと呼ばれる骨端線類似の軟骨により覆われ,腫瘍は内軟骨性骨化により増大し,成人に達するとともに増大は停止する。
臨床的に問題となるのは,外骨腫による
①周辺組織の圧迫症状(痛み,関節可動域制限,神経血管圧迫など)
②長管骨の成長障害に基づく四肢の変形
特に四肢の変形は2本の長管骨が存在する前腕や下腿で著明となる。
悪性化の頻度は報告により一定しないが,本疾患では単発性の外骨腫に比して明らかに高く,10% 前後との報告もある。悪性化しなければ予後は良好である。
〔問診で聞くべきこと〕
(1)骨性隆起や痛み,機能障害を自覚する部位について。
(2)家族や親類に同様の症状を持つ人がいるかどうか
(3)特に成人例では腫瘤の増大の程度について聴取する。
〔必要な検査とその所見〕
(1)単純 X 線撮影において母床の骨皮質と連続する骨性隆起または突起として認められる。腫瘍部には時に石灰化を認め,基部の骨はこん棒様に腫大する。
(2)病変の局在や拡がりを把握する上で CT や MRI が有用となる。
診断のポイント
全身性・多発性の骨性隆起によりほぼ診断可能であり,特徴的な X 線像から確定できる。
治療方針
(1)一般には無症状であり経過観察のみでよいが,外骨腫が原因で痛みや機能障害を生じている場合や高度の変形を呈する(特に前腕・下腿)場合には,外科的治療(腫瘍摘出・変形矯正術)の対象となる。
(2)腫瘍の摘出に際しては軟骨帽を基部の骨膜を含め完全に切除することが大切であり,そうすれば再発はほとんどない。成人例での強い痛みや急激な腫瘤の増大の際には二次性軟骨肉腫などの発生(悪性化)を疑う必要がある。
(3)成長期における変形矯正手術には,複数回手術を要することも少なくない。
患者説明のポイント
①無症状で変形が軽度であれば経過観察のみでよいこと,
②成長期における腫瘍増大に伴う疼痛・機能障害・変形の進行の可能性,さらには腫瘍切除術や変形矯正術を施行する際の多数回手術の可能性,
③腫瘍の増大や変形の増強は成人すれば停止すること,
④本疾患の遺伝性,について説明する。
③静脈血栓によるリスク
〔静脈血栓症〕
●基本原則
1.静脈血栓症とは
静脈内に血栓が発生し、多くは静脈弁の拡張部で血流が緩徐となる部位に発生しやすく、血栓が付着した部位では炎症が起こり、完全に静脈が閉塞されることがある。好発部位としては、骨盤・下肢の静脈である。
生活様式の欧米化により、最近わが国でも増加の傾向にあるといわれている。欧米では術後合併症として、本邦では特発性が最も多いといわれているが、術後や外傷患者では致命的合併症(肺塞栓)となる場合がある。
血管内での血液が流動性を保って流れるためには、Virchowの三原則を満たす必要がある。
①血管壁が連続性を保つ。
②血流がうっ帯なく流れている。
③血小板・凝固系・線溶系が動的平衡を保つ。
すなわち静脈血栓症の発生には、外傷などにより血流のうっ帯や、凝固亢進による血液反応が関与していることがわかる。主として赤色血栓からなり、細かいフィブリン網の中に捉えられた赤血球と、少量の血小板からなる。しかし、動脈血栓ではフィブリン網の中に大きな血小板と、ごく少量の赤血球で構成された白色血栓であり、全く形成メカニズムがことなる。
また上田らによると廃用症候群の中の、安静による2次的合併症の局所症状の一つ捉えられている。今後高齢者のリハビリテーションを進めるうえで、その対策として早期リハにより、常に予防することが大切な疾患である。
2.症状・好発部位
多くの場合腓腹部や大腿部に痛み・不快感・絞扼感があり、腫脹が下肢全体や足部に著明出現する。血栓形成の高頻度にみられるのは、深・浅大腿静脈とヒラメ筋静脈洞・後脛骨静脈・腓骨静脈である。長期臥床により腸管静脈は、骨盤腔の最も後方に位置し、背臥位では圧迫を受けやすい。左腸骨静脈は右側に比べ下大静脈への流入角度は鈍角で、右腸骨動脈・S状結腸がその前面で交差するという解剖学的特徴のため、血流のうっ帯を生じ血栓形成が起こりやすい。最近では下肢の深在静脈系に生じる血栓を、深部静脈血栓症(deep venous thrombosis DVT)と呼んでいる。
3.診 断
①腫脹・疼痛・紅斑・熱感・腓腹部圧痛・Homans徴候(足を強度に背屈すると腓腹筋に疼痛あり)・Lowenberg徴候(腓腹筋の圧痛)が存在することがある。
②発熱・頻脈・血沈亢進
③合併症として肺塞栓を起こし、死に至る。
④全く臨床症状がない場合もある。
4.浮腫の鑑別診断
静脈性浮腫は最初は軟らかく、圧痕性であるが後には硬くなる。これは局所組織の不可逆性な線維化(コラーゲン繊維の沈着)によるためである。片麻痺患者の肩手症候群にみられる浮腫にも、患肢皮下組織が線維化により肥厚することをよく観察できる。
●基本方針
① 表在性血栓症では、対称的な治療を行い、鎮痛・局所加温・弾性包帯圧迫により歩行させる。
② 深部静脈血栓症になると、抗凝固剤(ヘパリン・ウロキナーゼ・プロスタグランディン)を投与して安静臥床を行う必要がある。
③ 血栓が血管壁に器質化されるまでは、少なくても1週間程度かかるため、この間は血栓が遊離し肺塞栓を起こさないように注意する(この時にマッサージや波動マッサージ器の使用は禁忌)。
④ 臥床する体位としては下肢を高くし(ベッドを20cm上げる)、弾性包帯を巻いておく必要がある。
⑤手術適応のある急性期(発症後48時間以内)に血栓摘除術を行う場合がある。
⑥静脈血栓症が発症して10日が過ぎれば、保存的治療が中心となる。すなわち理学療法もこのことから適応となる。
●手技の実際
1.評価
浮腫肢の判定には指圧痕での確認や、メジャーによる周径測定。排出水量による容量測定などがある。浮腫の判定には通常肉眼的な観察で十分であるが、治療効果の判定のためには、定量的な評価が必要である。そのためメジャーにより、細かい周径の判定をしておく。またセル洗浄機を使って、排出水量を経時的に測定すれば、治療効果の判定にも利用できる。
2.治療プログラム
a 患肢の挙上、エアースプレントの使用
b.弾性包帯または弾性ストッキングの使用
c.紐ラッピング法
d.低周波刺激
e.温熱療法(ホットパック、渦流浴)
f.マッサージ治療
g.運動療法
●日常生活指導
①長期臥床を避け、自動運動を促し、予防することが最も大切である。
②1日数回他動運動により、静脈血の骨盤内のうっ血を予防する。
③就寝時は下肢を挙上する。
④椅子に座るときは、足を組まないで挙上しておく。
⑤和室では足を投げ出す。
⑥どうして立っているときは、軽く足を動かしておく。
⑦立ち仕事を避ける。
⑧傷を作らないように、皮膚を清潔に保つ。
⑨昼間はできるだけ弾性ストッキングをつけておく。
⑩肥満にならないように減量する。
⑪定期的な診察を受け、再発予防に努める。
④TKAの適応とリスク管理
<変形性膝関節症に対する人工関節置換術の目的>
①除 痛
②膝関節の可動域の維持・改善
③膝の安定性の確保
④膝のアライメントの修正
<手術選択時の考慮点>
①術後早期荷重・歩行を可能とする
(術後早期に可動性を高める)
②合併症
高血圧
糖尿病
心不全
骨粗鬆症
腰部脊柱管狭窄症
術後感染症
深部静脈血栓(DTV)
③治療目標の設定
⑤疼痛のメカニズム
膝関節周辺の痛みのとらえ方
【1】 診察手順
患者が診察室に入った時点から診察は始まる。歩容や姿勢の評価を行い,機能障害と痛みの程度を把握する。続いて,問診,視診,触診を順に行う。そして,X 線写真を基本とした画像検査の必要性を判断し,その部位と方向を決める。
[1] 問診とそのポイント
痛みを訴えて受診する患者が最も多い。痛みの種類(安静時痛,初動時痛,運動時痛,夜間痛など)と程度(激痛,鈍痛など)を客観的に評価する。次に,発症の時期,誘因の有無,経過,既往症,スポーツ歴,職業歴,家族歴を聴取する。この過程で,いくつかの該当する疾患が浮かぶが,いずれかの診断にこじつけるような問診はすべきでない。嵌頓症状lockingやひっかかり感catching,膝くずれgiving wayなどは平易な言葉で聞く必要がある。次に,患者に立位を促し立位での視診に移るが,この際の痛みの有無を尋ねる。
[2] 視診とそのポイント
診察に際しては下着のみとする。女性ではミニスカート様(または半ズボン型)の診察着を準備し,両下肢全体の視診を可能とする。立位での下肢アライメント(内外反変形,屈曲・過伸展の有無),Q 角を判断する。続いて,しゃがみ動作の可否を調べ,その際の痛みの有無を聴取する。次いで,歩容を評価した後,ベッド上背臥位で再びアライメントを調べ,膝部の腫脹,皮膚の異常・発赤,筋肉萎縮などの有無を健側と比較して判断する。長期の疼痛性疾患では大腿四頭筋の萎縮,なかでも内側広筋の萎縮を来しやすいので注意深く観察する。膝窩部の腫脹や下腿静脈瘤など,後面の所見も見落としてはならない。
[3] 触診とそのポイント
触診にあたっては解剖学的ランドマークを見定める必要がある。膝蓋骨,膝蓋腱,脛骨粗面,大腿脛骨関節裂隙,大腿骨内側・外側顆部,脛骨Gerdy結節,腓骨頭,大腿四頭筋,腸脛靱帯,大腿二頭筋腱,半膜様筋腱,半腱様筋腱などが基本的な指標である。これらの指標から訴えに応じた局所を触診し,腫脹や腫瘤,膝蓋跳動の有無,圧痛の局在を調べる。局所の構成組織のいずれの腫脹ないしは腫瘤か,そして圧痛はいずれの組織に存在するかを検討する。膝の屈曲角度を変えて触れると,陽性所見がいずれの組織に由来するものか判断することができる。 さらに,推定疾患に応じて,膝蓋骨テスト(apprehension徴候),半月板テスト(McMurray test, Apley test),靱帯テスト(Lachman test,内・外反ストレステスト,前方・後方引き出しテスト,jerk testなど),を調べる。
小児の膝痛に対しては,股関節の関連痛(Perthes病,大腿骨頭すべり症,股関節炎など)を考慮し,股関節の診察を行う。
訴えが両側性であったり,多関節性の場合には,若年性関節リウマチや慢性関節リウマチ( RA ), RA 類縁疾患も想定し,全身の滑膜関節の所見をとる。腰椎病変による神経根症や,脊髄癆,脊髄空洞症,糖尿病性末梢神経障害などによって発生する神経病性骨関節症もまれではないので,下肢筋力,知覚,腱反射などの神経学的診察も欠かしてはならない。
【2】 計測と検査
[1] 計測
両側の脚長, ROM ,大腿周囲径,下腿周囲径,Q角を計測する。長期の経過であれば, ROM や周囲径(特に大腿周囲径)に差がみられる。
[2] 画像検査
診察を行った後,推定疾患に応じて単純 X 線の部位と方向を決定する。基本は,膝の
臥位での前後像・側面像・軸写像である。問診と診察所見から推定した病態に応じて追加の画像診断を行う。関節軟骨の破壊や変性による菲薄化を推測した場合には,立位荷重時の前後像や下肢全体の前後像,軸写像を追加する。離断性骨軟骨炎などを疑った場合には,顆間窩撮影を追加する。靱帯損傷を疑った場合には,患側のみならず健側のストレス撮影を行う。小児では,比較のため健側の撮影も有用である。
[3] 疾患に応じて外来ですべき検査
<1>関節液検査
感染性関節炎,結晶性関節炎,関節血腫を疑った場合には,関節穿刺は必ず実行されなければならない。関節液の定量を行い,色調・混濁度そして曳糸性試験によって粘稠度を判定する。関節液が混濁している場合には,白血球数の算定と湿潤標本wet preparationの検鏡を行う。無染色標本であるため観察には偏光顕微鏡や位相差顕微鏡が適当である。しかし,普通光学顕微鏡でも絞りと光量の調節によって,赤血球,白血球,尿酸結晶, CPPD結晶,軟骨・滑膜の細片を同定することができる。
外傷,関節内骨折・腫瘍,色素性絨毛結節性滑膜炎,血液凝固障害性疾患(血友病,von Willebrand病など)では関節血腫となる。関節内骨折では血腫に骨髄内脂肪滴が混じる。
塗抹標本synovial smearsはMay-Giemsa染色またはWright-Giemsa染色を施して白血球の形態分類を行い,好中球の割合を求める。非炎症性・炎症性・感染性疾患の順にその割合が増加する。細菌の有無はGram染色を,結核性を疑う時にはZiehl-Neelsen染色を行う。併せて細菌培養検査を行う。
<2>血液生化学検査
診断の確定や重症度の判定のために,病態に応じて検査項目を選択する。血液一般と検尿は必須で,骨関節感染症(白血球分画,赤沈, CRP ),骨・軟部腫瘍( ALP , LDH ),慢性関節リウマチ(リウマトイド因子, CRP ,赤沈),痛風(尿酸, CRP ,赤沈)では,少なくとも括弧内の項目を追加する。関節血腫や筋肉内血腫のある場合には血液凝固障害性疾患が潜んでいることがあるので,血液凝固・線溶検査を忘れてはならない。
<3>関節造影, CT , MRI ,シンチグラフィ
推定疾患に応じて,診断の確定と病変の部位や広がりの判定のため画像検査を追加する。最近は膝関節周辺の骨折に対して三次元 CT を利用することが多い。
【3】 膝関節痛の鑑別診断
外傷性と非外傷性疾患の判別は病歴からほぼ可能である。
非外傷性疾患では,はじめに痛みの種類から病態を推定する。安静時痛があれば,感染性疾患(骨髄炎,化膿性関節炎など)や非感染性炎症性疾患(痛風,偽痛風,慢性関節リウマチなど),悪性骨腫瘍(骨肉腫,Ewing肉腫など),骨壊死などを考える。安静時痛はなく,運動時痛の場合には,変性疾患(変形性関節症など)やスポーツ障害(筋腱付着部炎,骨端症など)を推定する。次いで,痛みの部位から各種疾患を想定し,触診や特殊テストによって痛みの原因となる障害組織を判別し,診断に至る。画像検査や関節液検査などの補助的診断法によって,診断の妥当性の確認と詳細なデータを得て治療を開始する。
5-1〔運動時痛の解釈〕
1)非荷重時状態での運動時痛
非荷重状態での運動時痛は、膝関節内に起きている異常な状態を推測するのにかなり有用である。疼痛が発生するのは、膝関節包内運動(滑り、転がり、回旋)が障害され、一軸性の蝶番関節様の運動が起こり、軟部組織に伸張ストレスが生じることによるとわれわれは推測している。
2)膝屈曲運動時痛
3)膝伸展運動時痛
膝伸展運動時に伸展可動域制限と疼痛が生じていることがある。最終伸展域の終末感覚がロッキング様である場合、膝の伸展運動と回旋運動の同時によって生じるscrew home movemetが障害されていると判断できる。われわれの研究では、膝のOAの膝伸展運動に伴う回旋運動を測定した結果、健常人に比較して回旋運動が少ないことが示唆された。このような状態では無理な膝伸展を行っても改善は困難な場合が多く、むしろ疼痛や防御的筋収縮を高めてしまう。
⇒大腿骨と脛骨の水平面のアライメントを整えることと大腿骨外側顆での腸脛靭帯の滑走性を得ることで、疼痛軽減と伸展可動域改善が得られることが多い。
最終伸展域の終末感覚が弾性感覚である場合、ハムストリングスと腓腹筋の筋緊張の高まりが原因となっていることがある。ハムストリングスと腓腹筋を徒手的に圧迫して筋緊張を低下させ、前脛骨筋と広筋群の筋収縮を促通することで膝の伸展可動域の改善と疼痛軽減が得られることが多い。
5-2〔痛みの分類〕
痛みは触ったり、圧迫されたときに作用する神経系と同じ感覚神経系に支配される。痛みは生体の防御機構を維持するうえで重要な感覚であり、生体の警告信号としての役割を持つ。痛みは生体の警告信号として、呼吸・循環器系、筋・骨格系、神経系において種々の反応を惹起するが、その多くは生命維持に不可欠なものである。
痛みはその発生機序によって、
①侵害受容性疼痛 ②神経因性疼痛 ③精神心因性疼痛
に分類される。侵害性疼痛はさらに体性痛と内蔵痛に分類され、体性痛は皮膚や粘膜の痛みである表面痛と骨膜、靱帯、関節包、腱、筋膜、骨格筋の痛みである深部痛とに区分される。
1.侵害受容性疼痛
生体を傷つけるような刺激を侵害刺激といい、侵害刺激により発生する痛みを侵害受容性疼痛という。侵害刺激は、
①機械的刺激
機械的刺激はドアで指を挟まれたり、転倒や捻挫したときなどに痛みを引き起こす刺激。
②熱刺激
火傷を起こすような、熱いお湯のなかに手を入れたときに引き起こされる感覚が生じる刺激。
③化学的的刺激
主に生体内に存在する科学物質の作用により痛みを発生させる刺激。
2、神経因性疼痛
神経因性疼痛は末梢神経や中枢神経の損傷や機能不全によって、侵害刺激が存在しなくても出現する痛みである。神経因性疼痛に属する痛みは視床痛、幻肢痛、カウザルギー、脊髄損傷後の麻痺性疼痛などが挙げられる。神経因性疼痛に対する特効的な治療法はなく、抗痙攣剤、交感神経遮断薬、副腎皮質ホルモン、サブスタンスP枯渇物質などが投与され、理学用法では経皮的刺激療法などが施行されている。
3、精神心因性疼痛
痛みの原因が身体的には存在せず、精神心理的な要因によって生じる痛みを精神心因性疼痛という。うつ性疼痛、ストレス、精神心理的葛藤などがこの範疇に入るが、有効な治療法が確立されていない。
5-3〔痛覚受容器〕
侵害刺激に関係する痛覚受容器は、高閾値機械的受容器、熱受容器さらにはポリモーダル受容器の3種類である。
1、高閾値機械的受容器
高閾値機械的受容器は強力な機械的侵害刺激に主に反応し、刺激が強度になるほどその興奮性が高まる。いったん痛みを引き起こす侵害刺激が消失すると、この受容器は興奮しなくなる。高閾値機械的受容器は熱刺激を繰り返し加えると反応を示すようになるので、この受容器が火傷後の痛みの増強に関与している可能性も考えられる。高閾値機械的受容器からの情報は有髄で伝導速度が毎秒6~30mのAδ神経線維により脊髄後角まで伝達される。
2、ポリモーダル受容器
ポリモーダル受容器からの情報は皮膚では無髄で、伝導速度が毎秒3m以下のC線維により伝達されるが、深部組織ではAδ線維より伝達される場合もある。ポリモーダル受容器は機械的刺激、化学的刺激されには熱刺激のいずれにも反応する特徴をもつ。また、ポリモーダル受容器は痛みを感じさせない非侵害的刺激から侵害的刺激までの幅広い刺激強度に応じ、他の受容器にはない特殊性をもっている。ポリモーダル受容器は皮膚、筋膜、靱帯、腱、関節包、内臓、血管など広く全身に分布し、組織の異常を知らせる警告系として重要な働きをしている。ポリモーダル受容器の特筆すべき特徴は、侵害的な刺激を同じ強度で同じ部位(受容野)に繰り返すと、①閾値の低下、②刺激に対する反応性の増大、③受容野の拡大、④自発放電の増大などの現象を示す。このことを感作という。たとえば、捻挫では受傷直後はまだ体重が負荷できる程度の痛みでも、時間の経過とともに自発痛も大きくなり、荷重できないほどの痛みに変化する。
5-4〔痛みの種類〕
1、急性痛と慢性痛
急性痛および慢性痛は臨床的な分類方法であり、痛みが3週間異常も続くとき、これを慢性痛という。一般に、急性痛では交感神経系の活動が優位となり、心拍数や心拍出量の増加、瞳孔拡大、手掌部の発汗などの症状が出現する。これに対し、慢性痛では不眠が続き、食欲減退、便秘、精神機能の低下、運動の減退、痛みに対する体性の低下などがみられ、社会生活への参加も制約される。
2、一次痛と二次痛
一次痛はAδ神経線維によって、二次痛はAδおよびC線維ポリモーダル受容器によって脊髄後角まで侵害情報が伝達される。一次痛は判別性感覚に優れ、鋭い刺すような痛みであるのに対して、二次痛は原始性感覚といわれ、鈍い、うずくような痛みである。一次痛が発生した部位は指先で示すことができるぐらい詳細に判断できるのに対し、二次痛は慢性腰痛症などのように、痛みが長期化するほどその部位は手掌全体でしか示すことが出来なくなり、情報の精度は鈍くなる。
⑥頚部椎間板症候群
頚部椎間板症候群とは,椎間板ヘルニア(soft disk)や椎間板に隣接した椎体の変形,骨棘形成(hard disk)によって脊髄や神経根が圧迫され,運動知覚機能障害を呈する状態である.後者は正確には変形性頚椎症と称される.椎間板突出や骨棘形成により脊柱管の中央部付近で脊髄を圧迫するだけでなく,側方に骨棘が伸びると神経根の出口である椎間孔の狭窄を起こし,純粋に神経根のみの圧迫を引き起こすこともある.変形性頚椎症,椎間板症ともに後縦靱帯の肥厚を伴うことも多い.また一般人口の約12%にみられる成長性脊柱管狭窄の存在下では,これらの突出要素が症候性脊髄圧迫になりやすい.65歳以上の一般人に無作為にMRI検査を施行すると,約20%に有為な脊髄圧迫を認めるとの報告もあり,成熟型の社会では頻度の高い深刻な問題である.
A.症状と理学的所見
椎間板病変にしろ,変形性頚椎症にしろ,頚椎の第5,第6頚椎の椎間が最も侵されやすく,それについで第6第7椎間,第4第5椎間の病変が多い.病変の分節高位を反映して,運動症状としては手指の巧緻運動障害が最も出現しやすい.ボタン(特に袖や襟元)がかけにくい,ペンを持続的に使えないなどの表現をとることが多く,質問されてはじめて機能障害を認識することも多い.知覚症状としては,非特異的な頚部痛,肩甲骨下部の痛み,肩の痛みに加えて,腕に投射する痛みやしびれ感をきたす.脊髄症(myelopathy)の所見としては,手の骨間筋の萎縮,上肢ならびに下肢の深部腱反射亢進,病的反射(殊に腕橈骨筋反射を誘発する際にみられる手指の屈曲反射など),手指の反復開閉速度の低下(巧緻運動機能の指標,10秒間に30回程度が正常)がみられ,進行例では痙性歩行がみられる.また根症状,もしくは分節性脊髄障害によるものとして,指伸筋群,上腕三頭筋の筋力低下,C6やC7の分節に一致した知覚低下(pinprick)をしばしばみる.
B.検査方法
頚椎単純写真は「6方向」すなわち側面,前屈位後屈位,左右両斜位,前後像を撮影する.前彎アライメント(前方に凸)が失われていないか,脊柱管狭窄(前後径13mm以下)や後縦靱帯骨化,可動性の病的増大の有無をみる.また,側面像だけでなく斜位像でも骨棘変形の椎間孔への突出をチェックする.MRIでは矢状断T1,T2強調に加えて,軸状断T2強調画像も必ず撮る.矢状断画像だけでは正中線から外れた脊髄の圧迫変形,病変の突出の様子がよく描出されにくいからである.術前検査としては必要に応じて,その他に断層撮影,単純CTならびにミエログラフィCTを行う.椎間板造影(discography)は筆者らは行っていない.
◆治療方針
外科治療と保存的治療がある.神経学的に脊髄症所見に乏しく,画像的にも脊髄圧迫が軽度であれば安静をはかり保存的にみる.頚椎カラーなどを装着させてもよいし,牽引を試みることも一般的に行われている.脊髄圧迫変形が明瞭であるときには,保存療法が一時的に奏効しても,長期的には循環障害による神経細胞死-脊髄障害が進行すると予測される.また転倒などによる過度の屈曲伸展による急性脊髄損傷の危険がある.それを念頭において説明指導,経過追跡すべきである.軽症患者でも外傷機転による急性増悪,麻痺発症のリスクは高く,診断がつけば事前に脊髄脊椎の専門医のコンサルテーションを仰ぐべきである.
手術は大別して前方からと後方から行う方法がある.患者ごとに複数の生体力学的因子を検討考慮して決定する.どちらにせよ2日後に離床,数日後には社会復帰可能である.手術による減圧効果は疼痛,運動障害には直後より著明であって,しびれ感は遅れて数か月の経過で減弱していくことが多い.脊髄脊椎を専門とする脳神経外科医あるいは整形外科医であれば,優れた有効性と高い安全性を実証,提示しうる.
⑦高血圧によってのリハへの影響
血圧とは?
血液が血管壁に及ぼす圧。通常は動脈の血圧のことをいい、水銀柱の高さ(mmHg)で表す。心拍出量と血管抵抗によって決まる。心収縮の最大時の圧に相当するものを最高血圧(収縮期血圧)、心拡張期の最低の内圧に相当するものを最低血圧(拡張期血圧)といい、この両者の差を脈圧という。:リハビリテーション医学辞典
WHO/ISH(世界保健機関/国際高血圧学会)の1999年の基準によれば、血圧の正常値は、収縮期血圧が130mmHg未満、拡張期血圧が85mmHg未満とされ、高血圧は境界型を含めた4つに分類されている。血圧は白衣性高血圧のような精神的な要因のほか、測定肢位など状況によっても値の変動がみられやすく、病棟での測定値やその変動も把握したうえで値を判断することが必要である。
また高血圧は、頭痛、めまい、肩こり、動悸、息切れなどの自覚症状を伴う場合、なんらかの臓器障害を生じているともいわれ、また腎機能障害や内分泌障害による二次性高血圧症の疑いも考慮するべきである。低血圧の自覚症状は、易疲労性、脱力感、不眠、集中力低下などの精神的なものが多く、循環器症状としては、徐脈、不整脈、四肢冷感などがある。
中~軽症の高血圧に運動が有用であることは知られているが、等尺性の筋収縮を伴うような動作では血圧が急激に上昇するため、治療や評価の際にも十分留意して行う。また、降圧薬として用いられるβ遮断薬の投与で徐脈となることがあり、心拍数が疲労の目安とならない場合があるので注意を要する。
血圧の変動要因と注意点
基準値 変動要因 注意点
血圧 収縮期<130
拡張期<85
(mmHg) 精神面
(例:白衣性高血圧)
日内変動
その他 ・高血圧に等尺性運動は不適
・β遮断薬による徐脈
・よくみられる自覚症状
高血圧:動悸、めまい、頭痛など
低血圧:易疲労性、脱力感、四肢冷感など
高血圧とは?
WHOの基準では、成人の高血圧は140/90mmHg以上(いずれか一方または両方)とされる。特定疾患によって生じる2次性高血圧症と原因不明の本態性高血圧症(90~95%)がある。

1、変形性膝関節症による膝関節伸展制限のメカニズム
2、脛骨外骨腫の病態
3、静脈血栓によるリスク
4、TKAの適応とリスク管理
5、疼痛のメカニズム
6、頚部椎間板症候群
7、高血圧によってのリハへの影響
①変形性膝関節症による膝関節伸展制限のメカニズム
変形性膝関節症(Osteoarthritis of the Knee)
1.概要
関節を構成する組織の慢性的な退行変性と増殖が起こり、関節の変形をきたす疾患を変形性関節症という。1次性(老化現象、機械的ストレス)と、2次性(外傷、代謝異常、先天的、後天的な関節疾患が原因)に分けられるが、厳密には分離できない。変形性膝関節症は肥満と関係が深いことは明確になっているが、具体的な発症メカニズムは解明されていない。しかし、肥満でなくても本症が発症することを考慮すると、姿勢や動作による機械的ストレスが本症の発生に関与していると考えられる。
脊柱は老化により構造的にも形態的にも大きく変化し姿勢に影響を及ぼす。脊柱の姿勢変化は、体幹を支持している下肢への負担度も変化させる。脊柱全体の後彎増強により、重心は後方化し、下肢伸展機構での負担増加が余儀なくされる。さらに、老化によって生じる骨性因子(下肢骨の形態変化:前捻角、頚体角、骨幹部彎曲など)、代謝・内分泌系因子も変形の引き金となりうる。
2.病態
(1)主症状
疼痛、運動制限、筋萎縮、跛行が主症状である。疼痛は動作開始時に訴える場合が多い。疼痛部位は膝関節の裂隙あるいは裂隙直下で、特に内側に多い。また関節水腫や炎症症状などもみられる。膝関節のみならず股関節、足関節、足部、腰部にも疼痛を訴える場合も多い。腰痛は脊椎の後彎変形を有するものに多い。運動制限は屈曲拘縮による伸展可動性減が多いが、屈曲可動域の制限もみられる。筋萎縮は大腿四頭筋、特に内側広筋にみられる場合が多く、mechanoreceptorからの抑制が作用していると考えられる。
歩行では、立脚期にthrustとよばれる膝関節の動揺現象が観察され、体幹の側方動揺(Duchenne跛行)を伴う場合もある。膝関節に関する変形は内反変形が多く、外反変形あるいは膝蓋大腿関節に生じ、脛骨の内捻増加などが見られる場合がある。足部では外反母趾、扁平足などを有する場合も少なくない。
<高齢者の膝関節の構造と機能>
●正常膝関節の構造と膝OAにおける変化
・正常膝関節は、大腿骨・脛骨間の適合性は乏しい。
・内的安定性は、筋肉、靱帯、半月板などの軟部組織が大きい。
・筋肉や諸靱帯は安定性、半月板は荷重分散の役割を果たす。
●高齢者の膝OAの疫学
膝OAの発生頻度は高齢に伴って増加するが、加齢に伴う軟骨の性状の変化と膝OAにみられる軟骨の変化とは異なっており、膝OAは加齢現象そのものではない。しかし、関節軟骨の質的変化に加えて、加齢に伴う下肢アライメント、下肢筋量・筋力、骨密度、関節動揺性や神経系の変化は、膝関節にかかる力学的負荷を変化させることで膝OAの発症要因となり得ることが報告されている。
●加齢に伴う関節軟骨の変化
軟骨細胞数が減少・プロテオグリカンの合成能低下・コラーゲン線維径が増大・架橋が密・軟骨の弾力性が低下⇒軟骨の修復能低下・衝撃吸収能低下。
加齢に伴う軟骨の変化は、加齢に伴う膝OAの増加に関与している可能性が考えられる。
●関節軟骨以外の加齢に伴う変化
1)下肢アライメント
大腿四頭筋の発生する外反モーメントが体重により発生する内反モーメントを弱める作用を持つ。橋村らは、健常若年群の大腿骨骨幹部は内彎を呈するが、加齢とともに内彎の減少と外彎傾向が進み、初期膝OA群では(FTA180°未満)では大腿骨は女性で優位に外彎変形を生じていること、さらに初期膝OA群においては、まず大腿骨軸に対する大腿骨遠位関節面の内反が進むことを報告した。これにより脛骨の形態が変化することなく下肢機能軸は内側に移動することから、大腿骨骨幹部の外彎変形や大腿骨遠位関節の内反は膝OA発症の一因となり得ると述べている。
2)下肢筋力
女性において、膝伸展筋力の低下は膝OAの発症要因になり得ると述べている。膝伸展筋力が低下すると、歩行周期の踵接地時において膝の関節軟骨に加わる衝撃が増大し、軟骨損傷を招きやすいとされている。
3)下肢筋量
加齢に伴って筋力の低下を引き起こす最大の原因は筋量の減少である。また、筋量の減少をもたらす主要な因子は筋線維の減少と筋線維萎縮である。Lexellらは15~83歳の男性の筋量について、外側広筋の中央部の断面積は24歳でピークに達したあと徐々に減少し、50歳から減少率が増大し、20歳代の筋断面積に比べ60歳で18%、80歳で40%減少すると述べている。筋線維数についても同様の推移を示す。この加齢に伴う筋断面積の減少は筋力の低下と類似している。
さらに筋繊維は加齢に伴い遅筋線維よりも速筋線維に選択的に萎縮が起こる。
Tomlinsonらは13~95歳の腰仙髄レベルの前角細胞の数を組織学的に調べた結果、60歳まではその数は変わらず、60歳以降急激に減少し、95歳では10~60歳と比べて32%減少すると報告している。この加齢に伴い脱落する運動ニューロンは、主に速筋を支配するニューロンである。以上より、筋線維の萎縮や消滅は概ね25歳の早期より始まり、その後、加齢とともに加速して筋量の減少と筋力の低下を招くと考えられる。
筋力同様、加齢に伴う大腿四頭筋優位の筋量低下は膝OAの発症要因になる可能性がある。
4)関節動揺性
大森らは、歩行中、立脚初期の膝の急激な内反運動は健常人の歩行解析においても女性の15%程度に認められるが、膝OA患者ではOAの進行とともにその出現率が高くなることを報告し、下肢の内反アライメントや膝関節の動揺性が原因となって生ずるlateral thrust運動は、膝関節内側面への繰り返しの機械的負荷となり関節軟骨の磨耗変性を惹起し、膝OAの発症・進行の要因になると述べている。
5)proprioception(固有感覚)
生体が関節運動を行う際、その制御機構は筋紡錘、腱紡錘をはじめとする関節内外がmechanoreceptorからの情報のフィードバックにより成立している。これまでに、膝OAや外傷例におけるmechanoreceptorの破壊、変性とそれによるproprioceptionの低下が報告され、注目されている。Paiらは若年者と高齢者と膝OA例の3群で、装置に座らせて膝を角速度0.3°/秒で動かし、膝のproprioception(関節位置覚.knee joint position sense)を観察した。proprioceptionは加齢に伴って低下し、また膝OA例は高齢者コントロール群より低いという結果であった。
加齢に伴うproprioceptionの低下は膝OAの低下は膝OAの原因になり得ると考えられる。
Barrettらは、膝OA患者と人工膝関節置換術後の患者のproprioceptionは健常者と優位な差があるが、これらの患者の関節周辺部に弾力包帯を巻くことで誤差が有意に減少すると述べている。このことは、proprioceptionに影響しているものはmechanoreceptorのみならず、皮膚からの感覚情報も重要であることを示唆しており、治療を考える上で興味深い。
6)骨密度
加齢に伴う骨密度の減少、つまり骨粗鬆症と膝OAとの関連についてはさまざまな報告があるが、意見の一致をみたとは言い難い。一般的には、膝OAと骨粗鬆症は逆相関する。
古くはRadinらが、軟骨下骨が硬いと関節軟骨への衝撃が吸収できず膝OAが生じやすいと仮説を述べており、高骨量と硬い軟骨下骨との関係が示唆される。その一方でTerauchiらは、骨密度が低い者では、荷重負荷によって脛骨内側顆の軟骨下骨に微小骨折が生じ、脛骨近位関節面の内反変形が増強することで膝OAに至るとしており、低い骨密度が膝のOA変化を抑制するわけではないと主張している。
●後期高齢者の膝の特徴
・75歳未満が前期高齢者、75歳以上が後期高齢者と呼ばれる。
・膝OAにみられる疼痛や関節水症は膝屈曲反射亢進による大腿四頭筋活動抑制とハムストリングスの過緊張ならびに短縮を生じ、加齢に伴う大腿四頭筋萎縮・筋力低下も手伝って膝関節は屈曲拘縮へと向かう。また、高齢者に特徴的な円背姿勢(胸椎の後彎増強)も膝屈曲拘縮を来たす要因になり、70歳代の男性76.9%、女性の100%が立位時に膝屈曲位をとるとの報告がある。このような姿勢変化や膝OAの存在は高齢者における歩行能力の低下を招き、転倒の要因となる。後期高齢者では大腿骨頚部骨折の発生率が著しく増加し、その予後については受傷後1年の死亡率が健常老人の約3倍と言われていることから、転倒の予防に努めることは重要である。
●膝関節支持機構の加齢変化
高齢者の関節可動域は、ほとんどすべての関節において減少する。これは、関節周囲組織の硬直性の増加や滑液粘度の低下といった組織学的な変化が一次要因として考えられる。そのほかに、靱帯の緊張バランスが崩れることによって生じる関節の回転中心軸の形成不全といった運動学的な変化も関節可動域を減少させる原因となり得る。
1)十字靱帯と側副靱帯
十字靱帯と側副靱帯は、関節の回転軸を形成して「適度なrollingとsliding」を誘導しており、関節回転中心の形成に果す役割が大きい。
内外旋運動における回転中心の形成にも、十字靱帯と側副靱帯が重要な役割を有している。成人における膝関節回旋運動の中心は膝関節中央付近に存在し、内側顆間隆起のやや内方に位置する。ただし、屈伸軸同様に回旋中心軸も、周辺靱帯の緊張によって移動する。回旋中心軸が適切な位置に形成されなくなると、関節包や関節周辺組織に偏った機械的ストレスが負荷されることになる。
2)脛骨と大腿骨の相対的位置関係
内反位にある場合は内側側副靱帯の緊張減弱させるため、回旋中心軸の外側変位を助長する結果となる。回線中心軸の外側変位は内側コンパートメントの可動性を増大させ、内側半月や軟骨組織に対する剪断力を増大させることになる。高齢者の半月剖検所見によれば、外側半月内縁中央部と内側半月前角部に亀裂が認められ、軟骨細胞の集落形成が存在する場合が多いと報告されており、変形性膝関節症の進行と回旋中心軸の変形との関連性が推測される。
3)下肢筋群の加齢変化
重位における下肢筋群の活動パターンは、加齢変化ととも二関節筋優位の筋活動になるといわれている。膝関節筋優位の筋活動では、膝のスタビライザーである大腿広筋群に代わって、ハムストリングスと大腿直筋が動作中に持続的活動を示すようになり、筋放電量も増加するという特徴を示す。これら拮抗二関節筋ペアの筋活動の増加は、1つの関節に対して拮抗筋を同時収縮させることによって、関節の剛性を高めようとする反応であると指摘されている。一方、大殿筋や大腿広筋群の活動は著しく減弱する。
②脛骨外骨腫の病態
骨軟骨腫(外骨腫)
良性骨腫瘍中最も頻度が高く骨皮質から連続し骨外へ突出する隆起性病変であり,その表面に軟骨帽を有する.単発性と多発性があり,多発性の場合,多くは遺伝性が認められ単発性よりも悪性化の頻度が高い.
◆治療方針
治療の原則は経過観察であるが,疼痛や関節機能障害を有する場合,美容上問題となる場合などに手術適応となり軟骨帽の残存がないよう切除する.特殊型である爪下外骨腫では手術適応となることが多い.なお,急速な増大傾向を認めたり,MRIなどにより軟骨帽が通常よりも厚く(2cm以上)不規則な分葉状増殖を示す場合は二次性軟骨肉腫を疑い,組織学的確定診断の後,広範切除が必要となる.
多発性外骨腫
〔概念〕
頻度の高い原発性骨腫瘍である外骨腫 exostosis(骨軟骨腫osteochondroma)が,全身性に多発性に生じる疾患である。7:3で男子に多く遺伝形式は常染色体優性遺伝であるが,症例の約 40% が新突然変異である。長管骨の骨幹端部に好発し,幼少期に骨性隆起として発見され,時に四肢の変形を来す。
〔臨床症状と病態〕
幼少期に骨性の隆起として発見され,多くは無痛性である。骨端線に近接して発生し,好発部位は長管骨骨幹端部で,その他肩甲骨,肋骨,腸骨,脊椎などにも発生する。外骨腫の表面は軟骨帽cartilage capと呼ばれる骨端線類似の軟骨により覆われ,腫瘍は内軟骨性骨化により増大し,成人に達するとともに増大は停止する。
臨床的に問題となるのは,外骨腫による
①周辺組織の圧迫症状(痛み,関節可動域制限,神経血管圧迫など)
②長管骨の成長障害に基づく四肢の変形
特に四肢の変形は2本の長管骨が存在する前腕や下腿で著明となる。
悪性化の頻度は報告により一定しないが,本疾患では単発性の外骨腫に比して明らかに高く,10% 前後との報告もある。悪性化しなければ予後は良好である。
〔問診で聞くべきこと〕
(1)骨性隆起や痛み,機能障害を自覚する部位について。
(2)家族や親類に同様の症状を持つ人がいるかどうか
(3)特に成人例では腫瘤の増大の程度について聴取する。
〔必要な検査とその所見〕
(1)単純 X 線撮影において母床の骨皮質と連続する骨性隆起または突起として認められる。腫瘍部には時に石灰化を認め,基部の骨はこん棒様に腫大する。
(2)病変の局在や拡がりを把握する上で CT や MRI が有用となる。
診断のポイント
全身性・多発性の骨性隆起によりほぼ診断可能であり,特徴的な X 線像から確定できる。
治療方針
(1)一般には無症状であり経過観察のみでよいが,外骨腫が原因で痛みや機能障害を生じている場合や高度の変形を呈する(特に前腕・下腿)場合には,外科的治療(腫瘍摘出・変形矯正術)の対象となる。
(2)腫瘍の摘出に際しては軟骨帽を基部の骨膜を含め完全に切除することが大切であり,そうすれば再発はほとんどない。成人例での強い痛みや急激な腫瘤の増大の際には二次性軟骨肉腫などの発生(悪性化)を疑う必要がある。
(3)成長期における変形矯正手術には,複数回手術を要することも少なくない。
患者説明のポイント
①無症状で変形が軽度であれば経過観察のみでよいこと,
②成長期における腫瘍増大に伴う疼痛・機能障害・変形の進行の可能性,さらには腫瘍切除術や変形矯正術を施行する際の多数回手術の可能性,
③腫瘍の増大や変形の増強は成人すれば停止すること,
④本疾患の遺伝性,について説明する。
③静脈血栓によるリスク
〔静脈血栓症〕
●基本原則
1.静脈血栓症とは
静脈内に血栓が発生し、多くは静脈弁の拡張部で血流が緩徐となる部位に発生しやすく、血栓が付着した部位では炎症が起こり、完全に静脈が閉塞されることがある。好発部位としては、骨盤・下肢の静脈である。
生活様式の欧米化により、最近わが国でも増加の傾向にあるといわれている。欧米では術後合併症として、本邦では特発性が最も多いといわれているが、術後や外傷患者では致命的合併症(肺塞栓)となる場合がある。
血管内での血液が流動性を保って流れるためには、Virchowの三原則を満たす必要がある。
①血管壁が連続性を保つ。
②血流がうっ帯なく流れている。
③血小板・凝固系・線溶系が動的平衡を保つ。
すなわち静脈血栓症の発生には、外傷などにより血流のうっ帯や、凝固亢進による血液反応が関与していることがわかる。主として赤色血栓からなり、細かいフィブリン網の中に捉えられた赤血球と、少量の血小板からなる。しかし、動脈血栓ではフィブリン網の中に大きな血小板と、ごく少量の赤血球で構成された白色血栓であり、全く形成メカニズムがことなる。
また上田らによると廃用症候群の中の、安静による2次的合併症の局所症状の一つ捉えられている。今後高齢者のリハビリテーションを進めるうえで、その対策として早期リハにより、常に予防することが大切な疾患である。
2.症状・好発部位
多くの場合腓腹部や大腿部に痛み・不快感・絞扼感があり、腫脹が下肢全体や足部に著明出現する。血栓形成の高頻度にみられるのは、深・浅大腿静脈とヒラメ筋静脈洞・後脛骨静脈・腓骨静脈である。長期臥床により腸管静脈は、骨盤腔の最も後方に位置し、背臥位では圧迫を受けやすい。左腸骨静脈は右側に比べ下大静脈への流入角度は鈍角で、右腸骨動脈・S状結腸がその前面で交差するという解剖学的特徴のため、血流のうっ帯を生じ血栓形成が起こりやすい。最近では下肢の深在静脈系に生じる血栓を、深部静脈血栓症(deep venous thrombosis DVT)と呼んでいる。
3.診 断
①腫脹・疼痛・紅斑・熱感・腓腹部圧痛・Homans徴候(足を強度に背屈すると腓腹筋に疼痛あり)・Lowenberg徴候(腓腹筋の圧痛)が存在することがある。
②発熱・頻脈・血沈亢進
③合併症として肺塞栓を起こし、死に至る。
④全く臨床症状がない場合もある。
4.浮腫の鑑別診断
静脈性浮腫は最初は軟らかく、圧痕性であるが後には硬くなる。これは局所組織の不可逆性な線維化(コラーゲン繊維の沈着)によるためである。片麻痺患者の肩手症候群にみられる浮腫にも、患肢皮下組織が線維化により肥厚することをよく観察できる。
●基本方針
① 表在性血栓症では、対称的な治療を行い、鎮痛・局所加温・弾性包帯圧迫により歩行させる。
② 深部静脈血栓症になると、抗凝固剤(ヘパリン・ウロキナーゼ・プロスタグランディン)を投与して安静臥床を行う必要がある。
③ 血栓が血管壁に器質化されるまでは、少なくても1週間程度かかるため、この間は血栓が遊離し肺塞栓を起こさないように注意する(この時にマッサージや波動マッサージ器の使用は禁忌)。
④ 臥床する体位としては下肢を高くし(ベッドを20cm上げる)、弾性包帯を巻いておく必要がある。
⑤手術適応のある急性期(発症後48時間以内)に血栓摘除術を行う場合がある。
⑥静脈血栓症が発症して10日が過ぎれば、保存的治療が中心となる。すなわち理学療法もこのことから適応となる。
●手技の実際
1.評価
浮腫肢の判定には指圧痕での確認や、メジャーによる周径測定。排出水量による容量測定などがある。浮腫の判定には通常肉眼的な観察で十分であるが、治療効果の判定のためには、定量的な評価が必要である。そのためメジャーにより、細かい周径の判定をしておく。またセル洗浄機を使って、排出水量を経時的に測定すれば、治療効果の判定にも利用できる。
2.治療プログラム
a 患肢の挙上、エアースプレントの使用
b.弾性包帯または弾性ストッキングの使用
c.紐ラッピング法
d.低周波刺激
e.温熱療法(ホットパック、渦流浴)
f.マッサージ治療
g.運動療法
●日常生活指導
①長期臥床を避け、自動運動を促し、予防することが最も大切である。
②1日数回他動運動により、静脈血の骨盤内のうっ血を予防する。
③就寝時は下肢を挙上する。
④椅子に座るときは、足を組まないで挙上しておく。
⑤和室では足を投げ出す。
⑥どうして立っているときは、軽く足を動かしておく。
⑦立ち仕事を避ける。
⑧傷を作らないように、皮膚を清潔に保つ。
⑨昼間はできるだけ弾性ストッキングをつけておく。
⑩肥満にならないように減量する。
⑪定期的な診察を受け、再発予防に努める。
④TKAの適応とリスク管理
<変形性膝関節症に対する人工関節置換術の目的>
①除 痛
②膝関節の可動域の維持・改善
③膝の安定性の確保
④膝のアライメントの修正
<手術選択時の考慮点>
①術後早期荷重・歩行を可能とする
(術後早期に可動性を高める)
②合併症
高血圧
糖尿病
心不全
骨粗鬆症
腰部脊柱管狭窄症
術後感染症
深部静脈血栓(DTV)
③治療目標の設定
⑤疼痛のメカニズム
膝関節周辺の痛みのとらえ方
【1】 診察手順
患者が診察室に入った時点から診察は始まる。歩容や姿勢の評価を行い,機能障害と痛みの程度を把握する。続いて,問診,視診,触診を順に行う。そして,X 線写真を基本とした画像検査の必要性を判断し,その部位と方向を決める。
[1] 問診とそのポイント
痛みを訴えて受診する患者が最も多い。痛みの種類(安静時痛,初動時痛,運動時痛,夜間痛など)と程度(激痛,鈍痛など)を客観的に評価する。次に,発症の時期,誘因の有無,経過,既往症,スポーツ歴,職業歴,家族歴を聴取する。この過程で,いくつかの該当する疾患が浮かぶが,いずれかの診断にこじつけるような問診はすべきでない。嵌頓症状lockingやひっかかり感catching,膝くずれgiving wayなどは平易な言葉で聞く必要がある。次に,患者に立位を促し立位での視診に移るが,この際の痛みの有無を尋ねる。
[2] 視診とそのポイント
診察に際しては下着のみとする。女性ではミニスカート様(または半ズボン型)の診察着を準備し,両下肢全体の視診を可能とする。立位での下肢アライメント(内外反変形,屈曲・過伸展の有無),Q 角を判断する。続いて,しゃがみ動作の可否を調べ,その際の痛みの有無を聴取する。次いで,歩容を評価した後,ベッド上背臥位で再びアライメントを調べ,膝部の腫脹,皮膚の異常・発赤,筋肉萎縮などの有無を健側と比較して判断する。長期の疼痛性疾患では大腿四頭筋の萎縮,なかでも内側広筋の萎縮を来しやすいので注意深く観察する。膝窩部の腫脹や下腿静脈瘤など,後面の所見も見落としてはならない。
[3] 触診とそのポイント
触診にあたっては解剖学的ランドマークを見定める必要がある。膝蓋骨,膝蓋腱,脛骨粗面,大腿脛骨関節裂隙,大腿骨内側・外側顆部,脛骨Gerdy結節,腓骨頭,大腿四頭筋,腸脛靱帯,大腿二頭筋腱,半膜様筋腱,半腱様筋腱などが基本的な指標である。これらの指標から訴えに応じた局所を触診し,腫脹や腫瘤,膝蓋跳動の有無,圧痛の局在を調べる。局所の構成組織のいずれの腫脹ないしは腫瘤か,そして圧痛はいずれの組織に存在するかを検討する。膝の屈曲角度を変えて触れると,陽性所見がいずれの組織に由来するものか判断することができる。 さらに,推定疾患に応じて,膝蓋骨テスト(apprehension徴候),半月板テスト(McMurray test, Apley test),靱帯テスト(Lachman test,内・外反ストレステスト,前方・後方引き出しテスト,jerk testなど),を調べる。
小児の膝痛に対しては,股関節の関連痛(Perthes病,大腿骨頭すべり症,股関節炎など)を考慮し,股関節の診察を行う。
訴えが両側性であったり,多関節性の場合には,若年性関節リウマチや慢性関節リウマチ( RA ), RA 類縁疾患も想定し,全身の滑膜関節の所見をとる。腰椎病変による神経根症や,脊髄癆,脊髄空洞症,糖尿病性末梢神経障害などによって発生する神経病性骨関節症もまれではないので,下肢筋力,知覚,腱反射などの神経学的診察も欠かしてはならない。
【2】 計測と検査
[1] 計測
両側の脚長, ROM ,大腿周囲径,下腿周囲径,Q角を計測する。長期の経過であれば, ROM や周囲径(特に大腿周囲径)に差がみられる。
[2] 画像検査
診察を行った後,推定疾患に応じて単純 X 線の部位と方向を決定する。基本は,膝の
臥位での前後像・側面像・軸写像である。問診と診察所見から推定した病態に応じて追加の画像診断を行う。関節軟骨の破壊や変性による菲薄化を推測した場合には,立位荷重時の前後像や下肢全体の前後像,軸写像を追加する。離断性骨軟骨炎などを疑った場合には,顆間窩撮影を追加する。靱帯損傷を疑った場合には,患側のみならず健側のストレス撮影を行う。小児では,比較のため健側の撮影も有用である。
[3] 疾患に応じて外来ですべき検査
<1>関節液検査
感染性関節炎,結晶性関節炎,関節血腫を疑った場合には,関節穿刺は必ず実行されなければならない。関節液の定量を行い,色調・混濁度そして曳糸性試験によって粘稠度を判定する。関節液が混濁している場合には,白血球数の算定と湿潤標本wet preparationの検鏡を行う。無染色標本であるため観察には偏光顕微鏡や位相差顕微鏡が適当である。しかし,普通光学顕微鏡でも絞りと光量の調節によって,赤血球,白血球,尿酸結晶, CPPD結晶,軟骨・滑膜の細片を同定することができる。
外傷,関節内骨折・腫瘍,色素性絨毛結節性滑膜炎,血液凝固障害性疾患(血友病,von Willebrand病など)では関節血腫となる。関節内骨折では血腫に骨髄内脂肪滴が混じる。
塗抹標本synovial smearsはMay-Giemsa染色またはWright-Giemsa染色を施して白血球の形態分類を行い,好中球の割合を求める。非炎症性・炎症性・感染性疾患の順にその割合が増加する。細菌の有無はGram染色を,結核性を疑う時にはZiehl-Neelsen染色を行う。併せて細菌培養検査を行う。
<2>血液生化学検査
診断の確定や重症度の判定のために,病態に応じて検査項目を選択する。血液一般と検尿は必須で,骨関節感染症(白血球分画,赤沈, CRP ),骨・軟部腫瘍( ALP , LDH ),慢性関節リウマチ(リウマトイド因子, CRP ,赤沈),痛風(尿酸, CRP ,赤沈)では,少なくとも括弧内の項目を追加する。関節血腫や筋肉内血腫のある場合には血液凝固障害性疾患が潜んでいることがあるので,血液凝固・線溶検査を忘れてはならない。
<3>関節造影, CT , MRI ,シンチグラフィ
推定疾患に応じて,診断の確定と病変の部位や広がりの判定のため画像検査を追加する。最近は膝関節周辺の骨折に対して三次元 CT を利用することが多い。
【3】 膝関節痛の鑑別診断
外傷性と非外傷性疾患の判別は病歴からほぼ可能である。
非外傷性疾患では,はじめに痛みの種類から病態を推定する。安静時痛があれば,感染性疾患(骨髄炎,化膿性関節炎など)や非感染性炎症性疾患(痛風,偽痛風,慢性関節リウマチなど),悪性骨腫瘍(骨肉腫,Ewing肉腫など),骨壊死などを考える。安静時痛はなく,運動時痛の場合には,変性疾患(変形性関節症など)やスポーツ障害(筋腱付着部炎,骨端症など)を推定する。次いで,痛みの部位から各種疾患を想定し,触診や特殊テストによって痛みの原因となる障害組織を判別し,診断に至る。画像検査や関節液検査などの補助的診断法によって,診断の妥当性の確認と詳細なデータを得て治療を開始する。
5-1〔運動時痛の解釈〕
1)非荷重時状態での運動時痛
非荷重状態での運動時痛は、膝関節内に起きている異常な状態を推測するのにかなり有用である。疼痛が発生するのは、膝関節包内運動(滑り、転がり、回旋)が障害され、一軸性の蝶番関節様の運動が起こり、軟部組織に伸張ストレスが生じることによるとわれわれは推測している。
2)膝屈曲運動時痛
3)膝伸展運動時痛
膝伸展運動時に伸展可動域制限と疼痛が生じていることがある。最終伸展域の終末感覚がロッキング様である場合、膝の伸展運動と回旋運動の同時によって生じるscrew home movemetが障害されていると判断できる。われわれの研究では、膝のOAの膝伸展運動に伴う回旋運動を測定した結果、健常人に比較して回旋運動が少ないことが示唆された。このような状態では無理な膝伸展を行っても改善は困難な場合が多く、むしろ疼痛や防御的筋収縮を高めてしまう。
⇒大腿骨と脛骨の水平面のアライメントを整えることと大腿骨外側顆での腸脛靭帯の滑走性を得ることで、疼痛軽減と伸展可動域改善が得られることが多い。
最終伸展域の終末感覚が弾性感覚である場合、ハムストリングスと腓腹筋の筋緊張の高まりが原因となっていることがある。ハムストリングスと腓腹筋を徒手的に圧迫して筋緊張を低下させ、前脛骨筋と広筋群の筋収縮を促通することで膝の伸展可動域の改善と疼痛軽減が得られることが多い。
5-2〔痛みの分類〕
痛みは触ったり、圧迫されたときに作用する神経系と同じ感覚神経系に支配される。痛みは生体の防御機構を維持するうえで重要な感覚であり、生体の警告信号としての役割を持つ。痛みは生体の警告信号として、呼吸・循環器系、筋・骨格系、神経系において種々の反応を惹起するが、その多くは生命維持に不可欠なものである。
痛みはその発生機序によって、
①侵害受容性疼痛 ②神経因性疼痛 ③精神心因性疼痛
に分類される。侵害性疼痛はさらに体性痛と内蔵痛に分類され、体性痛は皮膚や粘膜の痛みである表面痛と骨膜、靱帯、関節包、腱、筋膜、骨格筋の痛みである深部痛とに区分される。
1.侵害受容性疼痛
生体を傷つけるような刺激を侵害刺激といい、侵害刺激により発生する痛みを侵害受容性疼痛という。侵害刺激は、
①機械的刺激
機械的刺激はドアで指を挟まれたり、転倒や捻挫したときなどに痛みを引き起こす刺激。
②熱刺激
火傷を起こすような、熱いお湯のなかに手を入れたときに引き起こされる感覚が生じる刺激。
③化学的的刺激
主に生体内に存在する科学物質の作用により痛みを発生させる刺激。
2、神経因性疼痛
神経因性疼痛は末梢神経や中枢神経の損傷や機能不全によって、侵害刺激が存在しなくても出現する痛みである。神経因性疼痛に属する痛みは視床痛、幻肢痛、カウザルギー、脊髄損傷後の麻痺性疼痛などが挙げられる。神経因性疼痛に対する特効的な治療法はなく、抗痙攣剤、交感神経遮断薬、副腎皮質ホルモン、サブスタンスP枯渇物質などが投与され、理学用法では経皮的刺激療法などが施行されている。
3、精神心因性疼痛
痛みの原因が身体的には存在せず、精神心理的な要因によって生じる痛みを精神心因性疼痛という。うつ性疼痛、ストレス、精神心理的葛藤などがこの範疇に入るが、有効な治療法が確立されていない。
5-3〔痛覚受容器〕
侵害刺激に関係する痛覚受容器は、高閾値機械的受容器、熱受容器さらにはポリモーダル受容器の3種類である。
1、高閾値機械的受容器
高閾値機械的受容器は強力な機械的侵害刺激に主に反応し、刺激が強度になるほどその興奮性が高まる。いったん痛みを引き起こす侵害刺激が消失すると、この受容器は興奮しなくなる。高閾値機械的受容器は熱刺激を繰り返し加えると反応を示すようになるので、この受容器が火傷後の痛みの増強に関与している可能性も考えられる。高閾値機械的受容器からの情報は有髄で伝導速度が毎秒6~30mのAδ神経線維により脊髄後角まで伝達される。
2、ポリモーダル受容器
ポリモーダル受容器からの情報は皮膚では無髄で、伝導速度が毎秒3m以下のC線維により伝達されるが、深部組織ではAδ線維より伝達される場合もある。ポリモーダル受容器は機械的刺激、化学的刺激されには熱刺激のいずれにも反応する特徴をもつ。また、ポリモーダル受容器は痛みを感じさせない非侵害的刺激から侵害的刺激までの幅広い刺激強度に応じ、他の受容器にはない特殊性をもっている。ポリモーダル受容器は皮膚、筋膜、靱帯、腱、関節包、内臓、血管など広く全身に分布し、組織の異常を知らせる警告系として重要な働きをしている。ポリモーダル受容器の特筆すべき特徴は、侵害的な刺激を同じ強度で同じ部位(受容野)に繰り返すと、①閾値の低下、②刺激に対する反応性の増大、③受容野の拡大、④自発放電の増大などの現象を示す。このことを感作という。たとえば、捻挫では受傷直後はまだ体重が負荷できる程度の痛みでも、時間の経過とともに自発痛も大きくなり、荷重できないほどの痛みに変化する。
5-4〔痛みの種類〕
1、急性痛と慢性痛
急性痛および慢性痛は臨床的な分類方法であり、痛みが3週間異常も続くとき、これを慢性痛という。一般に、急性痛では交感神経系の活動が優位となり、心拍数や心拍出量の増加、瞳孔拡大、手掌部の発汗などの症状が出現する。これに対し、慢性痛では不眠が続き、食欲減退、便秘、精神機能の低下、運動の減退、痛みに対する体性の低下などがみられ、社会生活への参加も制約される。
2、一次痛と二次痛
一次痛はAδ神経線維によって、二次痛はAδおよびC線維ポリモーダル受容器によって脊髄後角まで侵害情報が伝達される。一次痛は判別性感覚に優れ、鋭い刺すような痛みであるのに対して、二次痛は原始性感覚といわれ、鈍い、うずくような痛みである。一次痛が発生した部位は指先で示すことができるぐらい詳細に判断できるのに対し、二次痛は慢性腰痛症などのように、痛みが長期化するほどその部位は手掌全体でしか示すことが出来なくなり、情報の精度は鈍くなる。
⑥頚部椎間板症候群
頚部椎間板症候群とは,椎間板ヘルニア(soft disk)や椎間板に隣接した椎体の変形,骨棘形成(hard disk)によって脊髄や神経根が圧迫され,運動知覚機能障害を呈する状態である.後者は正確には変形性頚椎症と称される.椎間板突出や骨棘形成により脊柱管の中央部付近で脊髄を圧迫するだけでなく,側方に骨棘が伸びると神経根の出口である椎間孔の狭窄を起こし,純粋に神経根のみの圧迫を引き起こすこともある.変形性頚椎症,椎間板症ともに後縦靱帯の肥厚を伴うことも多い.また一般人口の約12%にみられる成長性脊柱管狭窄の存在下では,これらの突出要素が症候性脊髄圧迫になりやすい.65歳以上の一般人に無作為にMRI検査を施行すると,約20%に有為な脊髄圧迫を認めるとの報告もあり,成熟型の社会では頻度の高い深刻な問題である.
A.症状と理学的所見
椎間板病変にしろ,変形性頚椎症にしろ,頚椎の第5,第6頚椎の椎間が最も侵されやすく,それについで第6第7椎間,第4第5椎間の病変が多い.病変の分節高位を反映して,運動症状としては手指の巧緻運動障害が最も出現しやすい.ボタン(特に袖や襟元)がかけにくい,ペンを持続的に使えないなどの表現をとることが多く,質問されてはじめて機能障害を認識することも多い.知覚症状としては,非特異的な頚部痛,肩甲骨下部の痛み,肩の痛みに加えて,腕に投射する痛みやしびれ感をきたす.脊髄症(myelopathy)の所見としては,手の骨間筋の萎縮,上肢ならびに下肢の深部腱反射亢進,病的反射(殊に腕橈骨筋反射を誘発する際にみられる手指の屈曲反射など),手指の反復開閉速度の低下(巧緻運動機能の指標,10秒間に30回程度が正常)がみられ,進行例では痙性歩行がみられる.また根症状,もしくは分節性脊髄障害によるものとして,指伸筋群,上腕三頭筋の筋力低下,C6やC7の分節に一致した知覚低下(pinprick)をしばしばみる.
B.検査方法
頚椎単純写真は「6方向」すなわち側面,前屈位後屈位,左右両斜位,前後像を撮影する.前彎アライメント(前方に凸)が失われていないか,脊柱管狭窄(前後径13mm以下)や後縦靱帯骨化,可動性の病的増大の有無をみる.また,側面像だけでなく斜位像でも骨棘変形の椎間孔への突出をチェックする.MRIでは矢状断T1,T2強調に加えて,軸状断T2強調画像も必ず撮る.矢状断画像だけでは正中線から外れた脊髄の圧迫変形,病変の突出の様子がよく描出されにくいからである.術前検査としては必要に応じて,その他に断層撮影,単純CTならびにミエログラフィCTを行う.椎間板造影(discography)は筆者らは行っていない.
◆治療方針
外科治療と保存的治療がある.神経学的に脊髄症所見に乏しく,画像的にも脊髄圧迫が軽度であれば安静をはかり保存的にみる.頚椎カラーなどを装着させてもよいし,牽引を試みることも一般的に行われている.脊髄圧迫変形が明瞭であるときには,保存療法が一時的に奏効しても,長期的には循環障害による神経細胞死-脊髄障害が進行すると予測される.また転倒などによる過度の屈曲伸展による急性脊髄損傷の危険がある.それを念頭において説明指導,経過追跡すべきである.軽症患者でも外傷機転による急性増悪,麻痺発症のリスクは高く,診断がつけば事前に脊髄脊椎の専門医のコンサルテーションを仰ぐべきである.
手術は大別して前方からと後方から行う方法がある.患者ごとに複数の生体力学的因子を検討考慮して決定する.どちらにせよ2日後に離床,数日後には社会復帰可能である.手術による減圧効果は疼痛,運動障害には直後より著明であって,しびれ感は遅れて数か月の経過で減弱していくことが多い.脊髄脊椎を専門とする脳神経外科医あるいは整形外科医であれば,優れた有効性と高い安全性を実証,提示しうる.
⑦高血圧によってのリハへの影響
血圧とは?
血液が血管壁に及ぼす圧。通常は動脈の血圧のことをいい、水銀柱の高さ(mmHg)で表す。心拍出量と血管抵抗によって決まる。心収縮の最大時の圧に相当するものを最高血圧(収縮期血圧)、心拡張期の最低の内圧に相当するものを最低血圧(拡張期血圧)といい、この両者の差を脈圧という。:リハビリテーション医学辞典
WHO/ISH(世界保健機関/国際高血圧学会)の1999年の基準によれば、血圧の正常値は、収縮期血圧が130mmHg未満、拡張期血圧が85mmHg未満とされ、高血圧は境界型を含めた4つに分類されている。血圧は白衣性高血圧のような精神的な要因のほか、測定肢位など状況によっても値の変動がみられやすく、病棟での測定値やその変動も把握したうえで値を判断することが必要である。
また高血圧は、頭痛、めまい、肩こり、動悸、息切れなどの自覚症状を伴う場合、なんらかの臓器障害を生じているともいわれ、また腎機能障害や内分泌障害による二次性高血圧症の疑いも考慮するべきである。低血圧の自覚症状は、易疲労性、脱力感、不眠、集中力低下などの精神的なものが多く、循環器症状としては、徐脈、不整脈、四肢冷感などがある。
中~軽症の高血圧に運動が有用であることは知られているが、等尺性の筋収縮を伴うような動作では血圧が急激に上昇するため、治療や評価の際にも十分留意して行う。また、降圧薬として用いられるβ遮断薬の投与で徐脈となることがあり、心拍数が疲労の目安とならない場合があるので注意を要する。
血圧の変動要因と注意点
基準値 変動要因 注意点
血圧 収縮期<130
拡張期<85
(mmHg) 精神面
(例:白衣性高血圧)
日内変動
その他 ・高血圧に等尺性運動は不適
・β遮断薬による徐脈
・よくみられる自覚症状
高血圧:動悸、めまい、頭痛など
低血圧:易疲労性、脱力感、四肢冷感など
高血圧とは?
WHOの基準では、成人の高血圧は140/90mmHg以上(いずれか一方または両方)とされる。特定疾患によって生じる2次性高血圧症と原因不明の本態性高血圧症(90~95%)がある。

