1.はじめに
今後、私たちが出会う対象者様の疾患・障害は様々であり、また複数の症状が重なることも多いと思われる。その疾患一つ一つに沿った特有の評価項目を準備しておくことはもちろん大切である。しかし現在、廃用症候群もまた多く存在することも事実である。廃用症候群とは、「安静臥床、運動不足によって生じる心身の病的状態の総称」である1)。今回は、その廃用症候群の症状別に理学療法士の立場に立った評価項目を挙げ、私個人的に今後有効に使用していきたいと思われる評価項目について詳しく説明していきたい。また各症状において、理学療法士として注意しなければならない点ついては、留意点として述べるが、各症状の基本的な説明や関節可動域測定、徒手筋力検査等の基本的な評価については教科書等を参考にして頂き、ここでの詳細な説明は省略する。
2.原因別にみた廃用症候群の諸症候2)と評価項目
原因 症状 主な評価項目
局所性廃用によるもの 関節拘縮 関節可動域測定、関節可動域の制限因子評価 ①
筋廃用萎縮 筋力低下 握力検査、徒手筋力検査、徒手筋力検査と関係深い臨床徴候 ②
筋耐久性低下 エルゴグラム、自転車エルゴメータ、走行板、筋トルク曲線による疲労曲線、全身持久力 ③
骨粗鬆症-高カルシウム尿-尿路結石 MD法、SPA法、QCT法、DXA法 ④
皮膚萎縮 ⑤
褥瘡 発生予測スケール(ブルーデンスケール、K式スケール、大浦式スケール)、創の評価(DESIGN、PSST、大浦分類(A-PUHP-Ohura)、PUSH) ⑥
静脈血栓症 ⑦
全身性廃用によるもの 心肺機能低下 一回心拍出量の減少 スパイロメトリー(換気機能評価)、息切れの評価、呼吸困難評価(息切れ測定用に修正されたVASまたはBorg Scale) ⑧
頻脈
肺活量減少
最大換気量減少
消化器機能低下 食欲不振 検体検査、生体検査 ⑨
便秘 ⑩
易疲労性 自覚症状調べ、自覚的運動強度、心拍数(HR)、酸素摂取量(V(・)O2)、無酸素的作業閾値(AT)、換気量、疲労曲線、電気刺激に対する応答、積分筋電図(IEMG)、筋電図周波数 ⑪
臥位・低重力によるもの 起立性低血圧 ⑫
利尿
ナトリウム利尿
血液量減少(脱水) ⑬
感覚・運動刺激の欠乏によるもの 知的活動低下 改訂長谷川式簡易知能評価スケール、Japan coma scale(JCS) ⑭
うつ傾向 Hospital Anxiety and Depression(HADS) ⑮
自律神経不安定 問診・視診・触診 ⑯
姿勢・運動調節機能低下
3.理学療法を行う際の症状別評価および留意点等
①関節拘縮
【評価】
(1)関節可動域の制限因子と評価8)
A.関節可動域制限因子の分類
制限因子 内容
1.神経性・筋性 脳卒中、脊髄損傷、脳性麻痺、末梢神経損傷、進行性筋ジスなど神経系、筋における病変が原因となるものであり、一次的な可動域制限としては自動的にのみみられるもので、二次的障害としての拘縮がない限り、神経・筋に対する治療が主。
2.骨・関節軟骨性 骨折、変形性関節症、慢性リウマチなど硬部組織である骨の病変によるもので、X線写真などによって証明できるが、理学療法の治療過程は制限される。
3.関節包内の原因
a.外傷
b.関節包・靭帯の短縮・癒着
c.関節機能異常 関節を構成する軟部組織である関節包、靭帯などの病変あるいは疼痛に起因するもので、これらの伸張法が適応となる。
4.関節包外の原因
a.筋・腱の短縮・癒着
b.脊椎椎間関節・仙腸関節
機能異常由来の放散痛 関節を取り巻く軟部組織である筋、腱、皮膚などの一次性、二次性の病変によるもので、伸張法は適応となる。また、脊椎椎間関節、仙腸関節などにおける機能異常由来の放散痛が当該関節周囲に及び、筋のスパズムを招来した結果可動域を制限するものでは、関節運動学的アプローチのみが適応となる。後者の原因は臨床においては80%以上の高頻度でみられることがわかってきた。
B.関節可動域制限因子の評価手順
1.X線で関節面の変化の有無を確認
明らかに可動域を制限するような異常が骨性に見られたら分類2となり、理学療法の適応はほとんどない。X線では骨以外の部位が明確になりにくいため、これのみで制限の程度がわかるものではない。
2.自動的可動域の計測
正常な運動パターンおよび正常可動域との比較をして、筋力の低下、疼痛の有無などを明確にする。
3.他動的可動域の計測
自動で制限を有した関節において実施し、結果が正常であれば分類1となる。これらには筋力の低下の他に、生理学的弾性の喪失があり、痙縮、強剛などがそれで、他動的可動域の制限とはならない。これらには筋スパズムも含まれるが、通常疼痛を伴い他動的可動域も制限される。この疼痛の原因には分類4-bが多く、関節運動学的アプローチによって直ちに消失あるいは軽減し、同時に筋スパズムもなくなる。それでも他動的可動域に制限があれば筋か関節包かの拘縮であるということになる。治療はこれらの伸張法を行なう。痙縮では、他動的な伸張に伴いジャックナイフ現象が、また強剛では歯車様現象がみられる。
中枢神経疾患の四肢の関節においては、筋群に痙縮とスパズム、さらには廃用性の拘縮が同時に重なり合っていることが多く、痙縮の程度を純粋に評価するためには、筋スパズム、拘縮の影響をなくすることで初めて可能となる。
②筋力低下
【評価】
(1)徒手筋力検査と関係深い臨床徴候3)
A.ビーバー徴候(Beevor’s sign)
第10~12胸髄節での脊髄損傷では、患者を背臥位にして頭を起こすように命じ腹筋を収縮させると、上部腹筋が働くのに対して下部腹筋が働かないため、筋の収縮に伴って臍が上方に引き上げられる。
B.バレー徴候(Barre’s sign)
軽い麻痺を発見するのに有用な徴候である。上肢では、患者を立位または座位として、両側の上肢を手掌を上向きにして前方90°にて挙上させ、そのまま保持させると、麻痺のある側の上肢は回内して徐々に落下していく。下肢では、患者を腹臥位として、両側の膝を約45°屈曲させ、下腿をそのまま保持させると、麻痺のある側の下腿は自然に落下していく。
C.フローマン徴候(Froment’s sign)
尺骨神経麻痺の際に認められるもので、麻痺した母指内転筋を代償する長母指屈筋が働くために起こる。患者の左右の母子と示指を伸展させて厚めの紙を握らせ、それを左右に引っ張らせる。母指のIP関節が屈曲すれば、そちら側の尺骨神経の麻痺が疑われる。
【実習で指導されたこと】
(1)MMTの「抵抗を加えなければ(重力に抗して)運動範囲全体(全関節可動域)にわたり動かせる」の判定について
例えば、股関節屈曲の関節可動域が125°あった場合の股関節屈曲のMMTで、坐位にて抵抗を加えると動かすことが出来ないが、自動運動では股関節屈曲が100°程度動かすことができる場合があった時、本来は全可動域にわたって動かせていないために判定は「3」ではなく、私は「2」と評価した。しかし、SVの先生からは「教科書的には、細かく記載されているが、対象者様の動作や全体的なバランスから見て「2」ではなく、「3」とした方が良い」と指導を受けた。もちろん基本はあるが、このような臨床での臨機応変な判断も大切と考える。
(2)MMTでの抵抗について
ある対象者において私のMMTの評価では、全身的に「3」が大半を占めていた。しかし、SVによる評価では「4」が大半を占めていた。SVからのご指導では、「抵抗を加える場合、相手の年齢を考慮する必要がある」とのことだった。私たちは学校において同級生を相手にMMTの練習をしてきた。今回の実習では、私が対象者様に抵抗をかける際、同級生にかける抵抗と同等の抵抗をかけ、それに打ち勝つことが出来ないためにMMTで「4」はないと判断してしまった。本来は、相手の年齢相応の抵抗をかけて評価しなければならず、それには経験が必要と思われる。
③筋耐久性低下
【評価】
(1)全身持久力評価10)
運動能力別に負荷方式を変えて、測定項目は循環器系の運動負荷テストとして用いられている心電図、心拍数、代謝量、血圧などが一般的であり、必要に応じ血液生化学の検査項目を追加する。
実習中では負荷項目を何にしたら良いか戸惑ったため、今後は以下の項目などを参考に考えたい。
運動能力別にみた負荷方式
第1段階:臥床期に実施可能なもの
①背臥位における上下肢の自動・自己介助・抵抗運動
(プーリーを用いて健上肢による患下肢の挙上を行う運動、健脚の介助による患脚の膝伸展挙上運動、患脚の股膝関節同時屈曲・伸展の自動運動、健側の同運動に対する抵抗運動など)
②ブリッジング
(立膝位の保持を介助することにより、運動可動域の差こそあるが、多くの例で実施可能)
③その他
(Jonathanらが背臥位で実施できるエルゴメータを用い、片麻痺患者に運動負荷テストを行っている)
第2段階:前歩行期に実施可能なもの
①健手支持による椅子座位からの立ち上がり運動
②健上下肢による車椅子駆動
(健上肢によるハンド・リムの回転と健下肢による蹴りとの協調動作により行われ、大多数の片麻痺例で実施可能)
③自転車エルゴメータによるペダリング
(騎坐位の自転車エルゴメータによるペダリングは、装置の改良と工夫、例えば背部支持付の椅子坐位で行えること、患脚の円滑な伸展運動が期待できない場合、健脚の屈曲運動をサポートする工夫などを行えば、合併頻度の高い変形性膝関節症例を含め、適応の範囲が広がる)
第3段階:歩行期に実施可能なもの
①平地歩行
(屋内または屋外の直線歩行路(20m位が望ましい)の往復歩行)
②斜面歩行
(屋内スロープまたは天然地形の斜面などの往復歩行)
③トレッドミル歩行
(平地歩行の平常の歩行スピードよりも大幅に減速した値を初期値とし、健手支持の条件でスピードを漸増していけば、平地歩行が自立した症例の大多数が実施可能、角度調節可能な斜面歩行を行える利点もある)
④踏台昇降
④骨粗鬆症5)-高カルシウム尿-尿路結石
【評価】
単純X線写真で骨量の減少を確認するには、熟練した医師でも20~30%以上の減少が必要といわれる。前腕骨などの長管骨量の評価にはmicrodensitometry(MD)法、single photon absorptiometry(SPA)法、椎体骨量の測定法には、quantitative computed tomography(QCT)法、dual energy X-ray absorptiometry(DXA)法などがある。
【留意点】
(1)臨床所見
特異的な症状はなく、骨折およびそれに伴う腰痛、骨痛などが主症状となる。閉経後骨粗鬆症では椎体骨圧迫骨折や前腕骨遠位部骨折(Colles骨折)が多く、老人性骨粗鬆症では大腿骨頸部、脛骨および椎体骨の骨折が多い。これらの骨折は軽度の外力で生ずる。椎体骨圧迫骨折では急激な疼痛を伴わないこともあり、身長の低下、腰の曲がり、持続的腰痛などを主訴として受診することが多い。
⑤皮膚萎縮
【留意点】6)
軽微な外傷でも損傷を受けやすい。通常ではまったく問題のない程度の温熱治療でも火傷を起こし、難治性の潰瘍となることがある。抵抗力の弱い皮膚として愛護的に取り扱う必要がある。
⑥褥瘡9)
【評価】
(1)発生予測スケール
・ブレーデンスケール
看護師が日常生活の中で観察できる6項目、すなわち、知覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦とずれをスコア化し、6~23点の範囲で点数化したものであり、点数が低いほど褥瘡発生の危険が高いとされる。
褥瘡発生予測スケールとして広く普及しており、その信頼性も高い。しかし、病的骨突出が危険因子に入っておらず、採点に熟練を要することや採点の煩雑などの欠点があげられる。また、急性期患者や手術後患者での予測妥当性が低いことも指摘されている。
・K式スケール
金沢大学医学部保健学科の真田らが考案したスケールである。また、前段階要因(自力体位変換不可、骨突出、栄養状態悪いの3項目)と引き金要因(体圧、湿潤、ずれの3項目)の2段階方式で構成されており、項目にYes、Noで答える簡便性がある。
毎週の採点により高齢者の褥瘡発生予測が可能と考えられている。急性期の患者の場合は、引き金要因の項目から予測が可能とされ、また、熟練度に関係なく同一対象に同様な評価が得られる。
・大浦式スケール
危険因子として、意識状態、病的骨突出、関節拘縮、浮腫の4項目をあげてスコア化すると共に、危険因子を持つか持たないかによって起因性(尋常性)褥瘡と偶発性(突発性)褥瘡に分けている。
本邦の高齢者の褥瘡は起因性褥瘡が多く、日常的に危険因子をもつことから高齢者が多い施設の発生予測スケールに適する。
(2)創の評価
・DESIGN
創評価を、深さ(D)、浸出液(E)、大きさ(S)、炎症/感染(I)、肉芽組織(G)、壊死組織(N)の6項目で行なうもので、各項目の頭文字を組み合わせDESIGNと命名した。また、ポケットが存在する褥瘡には末尾-Pを付記する。
重症度分類では、各項目を軽症と重症に区分し、軽症は小文字で、重症は大文字で表した。また、経過評価では各項目を細分化してスコア化し、最高点は28点、完治すれば0点となる。
・PSST
寸法、深さ、創辺縁部、ポケット、壊死組織のタイプと量、浸出液のタイプと量、創周囲の皮膚の色、周辺組織の浮腫と硬結、肉芽組織、上皮形成の13項目で評価するものであるが、項目が多すぎ、日常的に用いるのには不向きである。
・A-PUHP-Ohura
PSSTを基にしており、浸出液の量、感染炎症、壊死組織、深さ、肉芽組織、創辺縁、上皮形成、ポケット、潰瘍の表面積の9項目で評価するもの。
・PUSH
創の面積、浸出液の量、創底の主たる組織の3項目で評価するものであるが、PSSTとは反対に簡便すぎる。
⑦静脈血栓症
【留意点】7)
静脈壁に炎症や静脈瘤などの損傷があったり、あるいは心疾患、心不全、全身衰弱、手術後、高齢などで血流が緩徐となるとそこに血栓を生じる。血栓の生成は脱水、ショック、赤血球増加症、下痢、嘔吐などによる血液濃縮、血液疾患などで、血液凝固能が亢進する場合に促進される。女性では経口避妊薬の服用中に血栓を生じる危険性が大となる。血栓は時に剥離し肺塞栓症をおこす。
予防は不必要な長期臥床を避け、体位の変換、四肢のマッサージ、体操などを行なって血流を促進する。弾力ストッキングの装着も有効。抗凝血薬の使用、血液濃縮を防ぐための輸液などを行なう。時に血栓の外科的摘除を試みることがある。
⑧心肺機能低下
【評価】
(1)息切れの評価11)
Hugh-Jonesの溝呂木変法、6分間歩行などから、ある程度、目安をつけることができる。しかし、息切れそのものは飽くまでも主観的なものであり、複雑である。何らかの形で、自覚的な強度をある程度量的に分析できる方法の開発が望まれる。
また、臨床検査値と自覚症状としての息切れの訴えとは必ずしも一致しない場合があるので注意を要する。肺胞低換気になった場合、息切れがあっても、血液ガス所見が正常であれば、換気量の増大によってカバーしているし、慢性になってくると、循環系や腎臓などの代償によって安静時の息切れが軽減することがある。通常、理学療法の施行中は患者の自覚症状を重視するが、息切れの改善を即、治療効果と考えるのは早計である。逆に、このような場合は全体としての機能は悪化したと考えられるので、注意を要する。
(2)呼吸困難の評価17)
運動耐容能の検査中、または呼吸リハプログラムでの身体活動時の呼吸困難は、息切れ測定用に修正されたVAS(Visual Analogue Scale)またはBorg Scaleを用いて測定するのが標準的である。VASは縦または横の線で、両端が感覚の両極端を表す。被検者には運動中に起こった呼吸困難の強度を、線の上に印をつけて示してもらう。Borg Scaleは、息切れなどの症状を測定するように修正され、反応を言葉で説明した非線形の10点尺度がよく用いられる。慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)患者でのVASとBorg Scale、運動中のV(・)EおよびV(・)O2との間には有意な相関があることが報告されている。
【留意点】11)
(1)臨床症状
・息切れ
これは肺機能障害の主体的な症状であるといえる。また初発の症状として重要である。主婦であれば家事動作が思うようにできず、特に重い物(時には買い物篭)を持つことができないようになる。また男性の場合、通勤で駅の階段を昇る際、休みを入れないと昇れないほどの訴えが多い。それに加えて咳・痰の喀出頻度が増加してくる。
・チアノーゼ
SaO2が85%になると出現するといわれている。チアノーゼの有無のポイントとしては、爪甲(そうこう)や口唇を理学療法士自身のものと比較してみるとよい。患者の血液検査値、血液ガスを訓練前に調べておくと参考になる。
・頭痛、肩凝り
頭痛または頭重感はPaCO2上昇により、神経症状の1つとして出現する。PaO2がかなり低下して起こるので、頭痛などの訴えがある時は要注意である。
肩凝りの訴えは結構多いが、これは呼吸補助筋の永続的な使用により出てくるものと考えられる。しかし、肩凝りなどの場合は患者の年齢が高く、五十肩、頸椎症などの整形外科的疾患に由来していることも多いので、評価に際しては神経学的な検査・測定も必要となる。
・体型
ほとんどの患者が痩型であり、食欲不振、睡眠障害、易疲労性、活動性低下、呼吸補助筋の使用などにより栄養状態が不良である。したがって臨床検査値では低蛋白であることが多い。なお、末梢の浮腫、静脈の怒張、腹水または腹部膨満感、食欲不振、動悸は右心不全の症状でもある。
・心理傾向
慢性で長期化してくると、一種の諦めが出てくる.また死への恐怖の念を抱いている患者も多い。喘息発作時の苦痛は想像を絶するものである。苦痛を回避するために、自殺まで考える患者もいる。さらに家族の受け入れがない。復職の可能性がない。内部疾患であり外見的・形態的変化が伴わないことから、一層患者自身および周囲の障害の受容を困難にしている。
⑨食欲不振5)
【評価】
(1)検体検査
末梢血検査・・・貧血の有無(ヘモグロビン)
尿検査・・・腎機能障害はないか(尿蛋白)
糞便検査・・・消化管出血はないか、消化吸収障害はないか
血液生化学・免疫学検査・・・栄養状態の把握、肝機能障害の有無、肝炎ウイルスはないか、腎機能障害の有無、胆膵疾患の有無
腫瘍マーカー・・・肝細胞癌はないか、胆膵大腸の癌はないか
(2)生体検査
消化管腫瘍はないか(消化管内視鏡検査、消化管造影検査)
腹部腫瘍はないか(腹部超音波検査、腹部CT検査)
【留意点】
(1)随伴症状
食欲不振の原因の確定には、消化器系疾患か非消化器系疾患かの見分けが必要である。腹部膨満、嚥下困難、悪心、嘔吐、腹痛、背部痛、下痢、便秘、下血、黄疸を随伴している場合には消化器系疾患が示唆される。無月経があれば妊娠やAddison病を、月経過多があれば甲状腺機能低下症を考慮する。悪性腫瘍は必ずしも特定の臓器の症状を現すとは限らないので、常に悪性腫瘍の存在を念頭におく。発熱があれば感染症、代謝性疾患、腫瘍性疾患などを考慮する。動悸、息切れ、咳嗽(がいそう)、浮腫、全身倦怠感などがあれば、心、腎、肺、甲状腺などどの関連を考え、これまでの病歴の有無も確認する。神経性食欲不振症患者は病を自覚せず、訴えもほとんどない。むしろ活発に身体を動かそうとすることが特徴的。
⑩便秘
【留意点】
正常な便通は1日1回ないし2回の有形便で、臨床的には排便が3~4日以上にわたって見られないことをいう。症状として排便時の苦痛、下腹部膨満感、糞便の残留感を訴える4)。
⑪易疲労性(15
【評価】
(1)自覚症状調べ
作業を続けている時、大脳活動の集中力は3時間程度が精一杯で、いわゆる精神疲労が起きてくる。
(2)自覚的運動強度
全身性作業がどの程度の難易を感じさせているかを評価する尺度として、BorgのRPEがある。6から20までの15段階が設けられている。ある作業により感じた難度のスケールが、同じ程度の作業にによりもたらされるであろう心拍数のほぼ10分の1に相当するように配分されている。
Borg’s RPE scale
6
7 Very、very light(非常に楽)
8
9 Very light(かなり楽)
10
11 Fairly light(楽)
12
13 Somewhat hard(ややきつい)
14
15 Hard(きつい)
16
17 Very hard(かなりきつい)
18
19 Very、very hard(非常にきつい)
20
(3)心拍数(HR)
運動強度にほぼ比例して増加するので、ある負荷の、ある時点での全身への影響をHRそのままで大まかに把握することができる。
(4)酸素摂取量(V(・)O2)
全身性、持続性の定常的な運動中、1分間当りの酸素摂取量(V(・)O2)を測定し、その時の運動強度を表すことができる。
(5)無酸素的作業閾値(AT)
(6)換気量
(7)疲労曲線
(8)電気刺激に対する応答
(9)積分筋電図(IEMG)
(10)筋電図周波数
1912年Piperにより疲労を来す運動中筋電図周波数が減少することが発表された。
⑫起立性低血圧16)
【留意点】
臥位から坐位、立位に急激に体位をかえると、体幹下部の静脈の拡張、心臓への還流静脈血量の減少、心拍出量の減少が生じる。その結果として動脈圧の下降や脳血流量の減少が起こるため、めまいや意識低下を生じる。長期間臥床を強いられた場合や、脳血管障害による片麻痺患者、脊髄損傷患者に多く見られるが、中でも頸髄損傷による完全四肢麻痺患者では、必発といってよいほど著明である。
⑬血液量減少(脱水)5)
【評価】
検査所見上の特徴は、低心拍出と中心静脈圧、肺動脈楔入圧の著明な低値
【留意点】
出血、熱症、嘔吐、脱水などの病歴が重要。臨床所見としては、低血圧、頻脈、欠尿、チアノーゼ、意識混濁などを呈する。
⑭知的活動低下12)
【留意点】
(1)精神機能低下の原因と症状
・過度の生理的老化による精神機能低下
高齢になるに従い、身体機能の低下とともに一般的に精神機能の低下もみられ、学習能力の低下や記銘力の低下が認められるが、日常生活には支障がない。ところが、その程度がひどくなると、いわゆる「痴呆」や「ボケ」と呼ばれる症状が起きてくる。
・脳損傷による精神機能低下
脳血管障害や頭部外傷、CO中毒などによる脳実質へのダメージにより精神機能低下が起こる。「痴呆」や「意識障害」で代表される。
・長期臥床によって起こる精神機能低下
老人の特に骨折後の保存療法による長期臥床によって、一時的に精神機能低下(痴呆症状)が出現する場合がある。
・環境によっておこる精神機能低下
長期入院により、病院や医療従事者への依存を強める「ホスピタリズム」や、現実への飽きによる「マンネリズム」が生じ、さらに現実との「ずれ」が起きてくる。これら3つについては精神機能低下と呼ぶには議論のあるところであるが、いずれも精神活動の退行および弱化ととらえることができるため、精神機能低下の中に入れることができると考える。
⑮うつ傾向
【評価】
(1)Hospital Anxiety and Depression Scale(HAZDS)13)
ZigmondとSnaithによって、一般外来患者の不安・抑うつを評価する目的で開発された尺度である。この尺度は、身体症状を持つ患者用に開発されていること、臨床経験に基づく内容から構成されていることなどが特徴として挙げられる。項目数も不安と抑うつを合わせて14と少ないために、ほかの尺度との併用や、時間的制約のある外来診療場面での利用に適している。HADSは日本語に翻訳され、信頼性、妥当性などの計量心理学的特性も確認されている。諸外国では心リハ患者の不安・抑うつの評価にHADSを応用した研究が見られるが、本邦の心リハにはこれまで応用されてこなかった。岡らは、HADS日本語版を用いて回復期心リハに参加した心筋梗塞患者の不安・抑うつを評価している。その結果、心筋梗塞発症後1ヶ月時点で、HADS得点によって疑診(8~10点)および確診(11点以上)と判断された高不安群は24%、高抑うつ群は42%存在していると報告している。最近の研究では、うつ症状が自律神経機能(心拍変動の低下)に影響を与え、心筋梗塞後死亡率上昇に関連していることが指摘されている。回復期心リハプログラムには、患者の不安・抑うつを積極的に改善させるためのストレスマネジメント教育を導入することが必要と考えられる。
⑯自律神経不安定14)
【評価】
自律神経機能障害と理学療法評価
(1)急性期および亜急性期
全身状態の把握
①来院時の患者の観察
顔色・・・蒼白、化粧なし、髪が整ってない、顔面紅潮
姿勢・・・うつむき状態、椅子などにもたれかかっている状態
会話・・・声が小さい、言葉が少ない、イライラしている
動作分析・・・起立~歩行~着席時の動作の連合障害、動作時のふらつき
服装・・・着衣の乱れ、異常な厚着
②問診
病歴
愁訴の聴取
全身状態の把握・・・睡眠時間、食事の摂取
自覚症状・・・安静時痛の有無、疼痛部位、異常知覚の有無と部位
③他覚的所見
皮膚血流・・・増加、減少
皮膚温度・・・顔、手、足の温度の比較、
皮膚性状・・・浮腫、蒼白、チアノーゼ、皮膚萎縮
毛・・・増生、減少、脱毛
爪・・・増生、脆い、ひび割れ、黒くて厚い
汗・・・増加、べた汗、減少、皮膚乾き、ふけ増加
④関節運動所見
運動制限、関節の機能不全および遊び運動の中心位からの偏位、嵌頓などを把握する。
⑤X線像所見
斑状の骨萎縮、骨の脱灰像などの有無を把握する。
(2)慢性期
参考文献参照
【留意点】
長期臥床後の起立性低血圧、疼痛、睡眠障害などによる立ちくらみ、顔面蒼白、失神などの心・血管系障害による発作が発生することがある。セラピストは診療室内だけで評価するのではなく、待機中、診療中、待合室、院外を問わず対象者の様子に気を配る。
今後、私たちが出会う対象者様の疾患・障害は様々であり、また複数の症状が重なることも多いと思われる。その疾患一つ一つに沿った特有の評価項目を準備しておくことはもちろん大切である。しかし現在、廃用症候群もまた多く存在することも事実である。廃用症候群とは、「安静臥床、運動不足によって生じる心身の病的状態の総称」である1)。今回は、その廃用症候群の症状別に理学療法士の立場に立った評価項目を挙げ、私個人的に今後有効に使用していきたいと思われる評価項目について詳しく説明していきたい。また各症状において、理学療法士として注意しなければならない点ついては、留意点として述べるが、各症状の基本的な説明や関節可動域測定、徒手筋力検査等の基本的な評価については教科書等を参考にして頂き、ここでの詳細な説明は省略する。
2.原因別にみた廃用症候群の諸症候2)と評価項目
原因 症状 主な評価項目
局所性廃用によるもの 関節拘縮 関節可動域測定、関節可動域の制限因子評価 ①
筋廃用萎縮 筋力低下 握力検査、徒手筋力検査、徒手筋力検査と関係深い臨床徴候 ②
筋耐久性低下 エルゴグラム、自転車エルゴメータ、走行板、筋トルク曲線による疲労曲線、全身持久力 ③
骨粗鬆症-高カルシウム尿-尿路結石 MD法、SPA法、QCT法、DXA法 ④
皮膚萎縮 ⑤
褥瘡 発生予測スケール(ブルーデンスケール、K式スケール、大浦式スケール)、創の評価(DESIGN、PSST、大浦分類(A-PUHP-Ohura)、PUSH) ⑥
静脈血栓症 ⑦
全身性廃用によるもの 心肺機能低下 一回心拍出量の減少 スパイロメトリー(換気機能評価)、息切れの評価、呼吸困難評価(息切れ測定用に修正されたVASまたはBorg Scale) ⑧
頻脈
肺活量減少
最大換気量減少
消化器機能低下 食欲不振 検体検査、生体検査 ⑨
便秘 ⑩
易疲労性 自覚症状調べ、自覚的運動強度、心拍数(HR)、酸素摂取量(V(・)O2)、無酸素的作業閾値(AT)、換気量、疲労曲線、電気刺激に対する応答、積分筋電図(IEMG)、筋電図周波数 ⑪
臥位・低重力によるもの 起立性低血圧 ⑫
利尿
ナトリウム利尿
血液量減少(脱水) ⑬
感覚・運動刺激の欠乏によるもの 知的活動低下 改訂長谷川式簡易知能評価スケール、Japan coma scale(JCS) ⑭
うつ傾向 Hospital Anxiety and Depression(HADS) ⑮
自律神経不安定 問診・視診・触診 ⑯
姿勢・運動調節機能低下
3.理学療法を行う際の症状別評価および留意点等
①関節拘縮
【評価】
(1)関節可動域の制限因子と評価8)
A.関節可動域制限因子の分類
制限因子 内容
1.神経性・筋性 脳卒中、脊髄損傷、脳性麻痺、末梢神経損傷、進行性筋ジスなど神経系、筋における病変が原因となるものであり、一次的な可動域制限としては自動的にのみみられるもので、二次的障害としての拘縮がない限り、神経・筋に対する治療が主。
2.骨・関節軟骨性 骨折、変形性関節症、慢性リウマチなど硬部組織である骨の病変によるもので、X線写真などによって証明できるが、理学療法の治療過程は制限される。
3.関節包内の原因
a.外傷
b.関節包・靭帯の短縮・癒着
c.関節機能異常 関節を構成する軟部組織である関節包、靭帯などの病変あるいは疼痛に起因するもので、これらの伸張法が適応となる。
4.関節包外の原因
a.筋・腱の短縮・癒着
b.脊椎椎間関節・仙腸関節
機能異常由来の放散痛 関節を取り巻く軟部組織である筋、腱、皮膚などの一次性、二次性の病変によるもので、伸張法は適応となる。また、脊椎椎間関節、仙腸関節などにおける機能異常由来の放散痛が当該関節周囲に及び、筋のスパズムを招来した結果可動域を制限するものでは、関節運動学的アプローチのみが適応となる。後者の原因は臨床においては80%以上の高頻度でみられることがわかってきた。
B.関節可動域制限因子の評価手順
1.X線で関節面の変化の有無を確認
明らかに可動域を制限するような異常が骨性に見られたら分類2となり、理学療法の適応はほとんどない。X線では骨以外の部位が明確になりにくいため、これのみで制限の程度がわかるものではない。
2.自動的可動域の計測
正常な運動パターンおよび正常可動域との比較をして、筋力の低下、疼痛の有無などを明確にする。
3.他動的可動域の計測
自動で制限を有した関節において実施し、結果が正常であれば分類1となる。これらには筋力の低下の他に、生理学的弾性の喪失があり、痙縮、強剛などがそれで、他動的可動域の制限とはならない。これらには筋スパズムも含まれるが、通常疼痛を伴い他動的可動域も制限される。この疼痛の原因には分類4-bが多く、関節運動学的アプローチによって直ちに消失あるいは軽減し、同時に筋スパズムもなくなる。それでも他動的可動域に制限があれば筋か関節包かの拘縮であるということになる。治療はこれらの伸張法を行なう。痙縮では、他動的な伸張に伴いジャックナイフ現象が、また強剛では歯車様現象がみられる。
中枢神経疾患の四肢の関節においては、筋群に痙縮とスパズム、さらには廃用性の拘縮が同時に重なり合っていることが多く、痙縮の程度を純粋に評価するためには、筋スパズム、拘縮の影響をなくすることで初めて可能となる。
②筋力低下
【評価】
(1)徒手筋力検査と関係深い臨床徴候3)
A.ビーバー徴候(Beevor’s sign)
第10~12胸髄節での脊髄損傷では、患者を背臥位にして頭を起こすように命じ腹筋を収縮させると、上部腹筋が働くのに対して下部腹筋が働かないため、筋の収縮に伴って臍が上方に引き上げられる。
B.バレー徴候(Barre’s sign)
軽い麻痺を発見するのに有用な徴候である。上肢では、患者を立位または座位として、両側の上肢を手掌を上向きにして前方90°にて挙上させ、そのまま保持させると、麻痺のある側の上肢は回内して徐々に落下していく。下肢では、患者を腹臥位として、両側の膝を約45°屈曲させ、下腿をそのまま保持させると、麻痺のある側の下腿は自然に落下していく。
C.フローマン徴候(Froment’s sign)
尺骨神経麻痺の際に認められるもので、麻痺した母指内転筋を代償する長母指屈筋が働くために起こる。患者の左右の母子と示指を伸展させて厚めの紙を握らせ、それを左右に引っ張らせる。母指のIP関節が屈曲すれば、そちら側の尺骨神経の麻痺が疑われる。
【実習で指導されたこと】
(1)MMTの「抵抗を加えなければ(重力に抗して)運動範囲全体(全関節可動域)にわたり動かせる」の判定について
例えば、股関節屈曲の関節可動域が125°あった場合の股関節屈曲のMMTで、坐位にて抵抗を加えると動かすことが出来ないが、自動運動では股関節屈曲が100°程度動かすことができる場合があった時、本来は全可動域にわたって動かせていないために判定は「3」ではなく、私は「2」と評価した。しかし、SVの先生からは「教科書的には、細かく記載されているが、対象者様の動作や全体的なバランスから見て「2」ではなく、「3」とした方が良い」と指導を受けた。もちろん基本はあるが、このような臨床での臨機応変な判断も大切と考える。
(2)MMTでの抵抗について
ある対象者において私のMMTの評価では、全身的に「3」が大半を占めていた。しかし、SVによる評価では「4」が大半を占めていた。SVからのご指導では、「抵抗を加える場合、相手の年齢を考慮する必要がある」とのことだった。私たちは学校において同級生を相手にMMTの練習をしてきた。今回の実習では、私が対象者様に抵抗をかける際、同級生にかける抵抗と同等の抵抗をかけ、それに打ち勝つことが出来ないためにMMTで「4」はないと判断してしまった。本来は、相手の年齢相応の抵抗をかけて評価しなければならず、それには経験が必要と思われる。
③筋耐久性低下
【評価】
(1)全身持久力評価10)
運動能力別に負荷方式を変えて、測定項目は循環器系の運動負荷テストとして用いられている心電図、心拍数、代謝量、血圧などが一般的であり、必要に応じ血液生化学の検査項目を追加する。
実習中では負荷項目を何にしたら良いか戸惑ったため、今後は以下の項目などを参考に考えたい。
運動能力別にみた負荷方式
第1段階:臥床期に実施可能なもの
①背臥位における上下肢の自動・自己介助・抵抗運動
(プーリーを用いて健上肢による患下肢の挙上を行う運動、健脚の介助による患脚の膝伸展挙上運動、患脚の股膝関節同時屈曲・伸展の自動運動、健側の同運動に対する抵抗運動など)
②ブリッジング
(立膝位の保持を介助することにより、運動可動域の差こそあるが、多くの例で実施可能)
③その他
(Jonathanらが背臥位で実施できるエルゴメータを用い、片麻痺患者に運動負荷テストを行っている)
第2段階:前歩行期に実施可能なもの
①健手支持による椅子座位からの立ち上がり運動
②健上下肢による車椅子駆動
(健上肢によるハンド・リムの回転と健下肢による蹴りとの協調動作により行われ、大多数の片麻痺例で実施可能)
③自転車エルゴメータによるペダリング
(騎坐位の自転車エルゴメータによるペダリングは、装置の改良と工夫、例えば背部支持付の椅子坐位で行えること、患脚の円滑な伸展運動が期待できない場合、健脚の屈曲運動をサポートする工夫などを行えば、合併頻度の高い変形性膝関節症例を含め、適応の範囲が広がる)
第3段階:歩行期に実施可能なもの
①平地歩行
(屋内または屋外の直線歩行路(20m位が望ましい)の往復歩行)
②斜面歩行
(屋内スロープまたは天然地形の斜面などの往復歩行)
③トレッドミル歩行
(平地歩行の平常の歩行スピードよりも大幅に減速した値を初期値とし、健手支持の条件でスピードを漸増していけば、平地歩行が自立した症例の大多数が実施可能、角度調節可能な斜面歩行を行える利点もある)
④踏台昇降
④骨粗鬆症5)-高カルシウム尿-尿路結石
【評価】
単純X線写真で骨量の減少を確認するには、熟練した医師でも20~30%以上の減少が必要といわれる。前腕骨などの長管骨量の評価にはmicrodensitometry(MD)法、single photon absorptiometry(SPA)法、椎体骨量の測定法には、quantitative computed tomography(QCT)法、dual energy X-ray absorptiometry(DXA)法などがある。
【留意点】
(1)臨床所見
特異的な症状はなく、骨折およびそれに伴う腰痛、骨痛などが主症状となる。閉経後骨粗鬆症では椎体骨圧迫骨折や前腕骨遠位部骨折(Colles骨折)が多く、老人性骨粗鬆症では大腿骨頸部、脛骨および椎体骨の骨折が多い。これらの骨折は軽度の外力で生ずる。椎体骨圧迫骨折では急激な疼痛を伴わないこともあり、身長の低下、腰の曲がり、持続的腰痛などを主訴として受診することが多い。
⑤皮膚萎縮
【留意点】6)
軽微な外傷でも損傷を受けやすい。通常ではまったく問題のない程度の温熱治療でも火傷を起こし、難治性の潰瘍となることがある。抵抗力の弱い皮膚として愛護的に取り扱う必要がある。
⑥褥瘡9)
【評価】
(1)発生予測スケール
・ブレーデンスケール
看護師が日常生活の中で観察できる6項目、すなわち、知覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦とずれをスコア化し、6~23点の範囲で点数化したものであり、点数が低いほど褥瘡発生の危険が高いとされる。
褥瘡発生予測スケールとして広く普及しており、その信頼性も高い。しかし、病的骨突出が危険因子に入っておらず、採点に熟練を要することや採点の煩雑などの欠点があげられる。また、急性期患者や手術後患者での予測妥当性が低いことも指摘されている。
・K式スケール
金沢大学医学部保健学科の真田らが考案したスケールである。また、前段階要因(自力体位変換不可、骨突出、栄養状態悪いの3項目)と引き金要因(体圧、湿潤、ずれの3項目)の2段階方式で構成されており、項目にYes、Noで答える簡便性がある。
毎週の採点により高齢者の褥瘡発生予測が可能と考えられている。急性期の患者の場合は、引き金要因の項目から予測が可能とされ、また、熟練度に関係なく同一対象に同様な評価が得られる。
・大浦式スケール
危険因子として、意識状態、病的骨突出、関節拘縮、浮腫の4項目をあげてスコア化すると共に、危険因子を持つか持たないかによって起因性(尋常性)褥瘡と偶発性(突発性)褥瘡に分けている。
本邦の高齢者の褥瘡は起因性褥瘡が多く、日常的に危険因子をもつことから高齢者が多い施設の発生予測スケールに適する。
(2)創の評価
・DESIGN
創評価を、深さ(D)、浸出液(E)、大きさ(S)、炎症/感染(I)、肉芽組織(G)、壊死組織(N)の6項目で行なうもので、各項目の頭文字を組み合わせDESIGNと命名した。また、ポケットが存在する褥瘡には末尾-Pを付記する。
重症度分類では、各項目を軽症と重症に区分し、軽症は小文字で、重症は大文字で表した。また、経過評価では各項目を細分化してスコア化し、最高点は28点、完治すれば0点となる。
・PSST
寸法、深さ、創辺縁部、ポケット、壊死組織のタイプと量、浸出液のタイプと量、創周囲の皮膚の色、周辺組織の浮腫と硬結、肉芽組織、上皮形成の13項目で評価するものであるが、項目が多すぎ、日常的に用いるのには不向きである。
・A-PUHP-Ohura
PSSTを基にしており、浸出液の量、感染炎症、壊死組織、深さ、肉芽組織、創辺縁、上皮形成、ポケット、潰瘍の表面積の9項目で評価するもの。
・PUSH
創の面積、浸出液の量、創底の主たる組織の3項目で評価するものであるが、PSSTとは反対に簡便すぎる。
⑦静脈血栓症
【留意点】7)
静脈壁に炎症や静脈瘤などの損傷があったり、あるいは心疾患、心不全、全身衰弱、手術後、高齢などで血流が緩徐となるとそこに血栓を生じる。血栓の生成は脱水、ショック、赤血球増加症、下痢、嘔吐などによる血液濃縮、血液疾患などで、血液凝固能が亢進する場合に促進される。女性では経口避妊薬の服用中に血栓を生じる危険性が大となる。血栓は時に剥離し肺塞栓症をおこす。
予防は不必要な長期臥床を避け、体位の変換、四肢のマッサージ、体操などを行なって血流を促進する。弾力ストッキングの装着も有効。抗凝血薬の使用、血液濃縮を防ぐための輸液などを行なう。時に血栓の外科的摘除を試みることがある。
⑧心肺機能低下
【評価】
(1)息切れの評価11)
Hugh-Jonesの溝呂木変法、6分間歩行などから、ある程度、目安をつけることができる。しかし、息切れそのものは飽くまでも主観的なものであり、複雑である。何らかの形で、自覚的な強度をある程度量的に分析できる方法の開発が望まれる。
また、臨床検査値と自覚症状としての息切れの訴えとは必ずしも一致しない場合があるので注意を要する。肺胞低換気になった場合、息切れがあっても、血液ガス所見が正常であれば、換気量の増大によってカバーしているし、慢性になってくると、循環系や腎臓などの代償によって安静時の息切れが軽減することがある。通常、理学療法の施行中は患者の自覚症状を重視するが、息切れの改善を即、治療効果と考えるのは早計である。逆に、このような場合は全体としての機能は悪化したと考えられるので、注意を要する。
(2)呼吸困難の評価17)
運動耐容能の検査中、または呼吸リハプログラムでの身体活動時の呼吸困難は、息切れ測定用に修正されたVAS(Visual Analogue Scale)またはBorg Scaleを用いて測定するのが標準的である。VASは縦または横の線で、両端が感覚の両極端を表す。被検者には運動中に起こった呼吸困難の強度を、線の上に印をつけて示してもらう。Borg Scaleは、息切れなどの症状を測定するように修正され、反応を言葉で説明した非線形の10点尺度がよく用いられる。慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)患者でのVASとBorg Scale、運動中のV(・)EおよびV(・)O2との間には有意な相関があることが報告されている。
【留意点】11)
(1)臨床症状
・息切れ
これは肺機能障害の主体的な症状であるといえる。また初発の症状として重要である。主婦であれば家事動作が思うようにできず、特に重い物(時には買い物篭)を持つことができないようになる。また男性の場合、通勤で駅の階段を昇る際、休みを入れないと昇れないほどの訴えが多い。それに加えて咳・痰の喀出頻度が増加してくる。
・チアノーゼ
SaO2が85%になると出現するといわれている。チアノーゼの有無のポイントとしては、爪甲(そうこう)や口唇を理学療法士自身のものと比較してみるとよい。患者の血液検査値、血液ガスを訓練前に調べておくと参考になる。
・頭痛、肩凝り
頭痛または頭重感はPaCO2上昇により、神経症状の1つとして出現する。PaO2がかなり低下して起こるので、頭痛などの訴えがある時は要注意である。
肩凝りの訴えは結構多いが、これは呼吸補助筋の永続的な使用により出てくるものと考えられる。しかし、肩凝りなどの場合は患者の年齢が高く、五十肩、頸椎症などの整形外科的疾患に由来していることも多いので、評価に際しては神経学的な検査・測定も必要となる。
・体型
ほとんどの患者が痩型であり、食欲不振、睡眠障害、易疲労性、活動性低下、呼吸補助筋の使用などにより栄養状態が不良である。したがって臨床検査値では低蛋白であることが多い。なお、末梢の浮腫、静脈の怒張、腹水または腹部膨満感、食欲不振、動悸は右心不全の症状でもある。
・心理傾向
慢性で長期化してくると、一種の諦めが出てくる.また死への恐怖の念を抱いている患者も多い。喘息発作時の苦痛は想像を絶するものである。苦痛を回避するために、自殺まで考える患者もいる。さらに家族の受け入れがない。復職の可能性がない。内部疾患であり外見的・形態的変化が伴わないことから、一層患者自身および周囲の障害の受容を困難にしている。
⑨食欲不振5)
【評価】
(1)検体検査
末梢血検査・・・貧血の有無(ヘモグロビン)
尿検査・・・腎機能障害はないか(尿蛋白)
糞便検査・・・消化管出血はないか、消化吸収障害はないか
血液生化学・免疫学検査・・・栄養状態の把握、肝機能障害の有無、肝炎ウイルスはないか、腎機能障害の有無、胆膵疾患の有無
腫瘍マーカー・・・肝細胞癌はないか、胆膵大腸の癌はないか
(2)生体検査
消化管腫瘍はないか(消化管内視鏡検査、消化管造影検査)
腹部腫瘍はないか(腹部超音波検査、腹部CT検査)
【留意点】
(1)随伴症状
食欲不振の原因の確定には、消化器系疾患か非消化器系疾患かの見分けが必要である。腹部膨満、嚥下困難、悪心、嘔吐、腹痛、背部痛、下痢、便秘、下血、黄疸を随伴している場合には消化器系疾患が示唆される。無月経があれば妊娠やAddison病を、月経過多があれば甲状腺機能低下症を考慮する。悪性腫瘍は必ずしも特定の臓器の症状を現すとは限らないので、常に悪性腫瘍の存在を念頭におく。発熱があれば感染症、代謝性疾患、腫瘍性疾患などを考慮する。動悸、息切れ、咳嗽(がいそう)、浮腫、全身倦怠感などがあれば、心、腎、肺、甲状腺などどの関連を考え、これまでの病歴の有無も確認する。神経性食欲不振症患者は病を自覚せず、訴えもほとんどない。むしろ活発に身体を動かそうとすることが特徴的。
⑩便秘
【留意点】
正常な便通は1日1回ないし2回の有形便で、臨床的には排便が3~4日以上にわたって見られないことをいう。症状として排便時の苦痛、下腹部膨満感、糞便の残留感を訴える4)。
⑪易疲労性(15
【評価】
(1)自覚症状調べ
作業を続けている時、大脳活動の集中力は3時間程度が精一杯で、いわゆる精神疲労が起きてくる。
(2)自覚的運動強度
全身性作業がどの程度の難易を感じさせているかを評価する尺度として、BorgのRPEがある。6から20までの15段階が設けられている。ある作業により感じた難度のスケールが、同じ程度の作業にによりもたらされるであろう心拍数のほぼ10分の1に相当するように配分されている。
Borg’s RPE scale
6
7 Very、very light(非常に楽)
8
9 Very light(かなり楽)
10
11 Fairly light(楽)
12
13 Somewhat hard(ややきつい)
14
15 Hard(きつい)
16
17 Very hard(かなりきつい)
18
19 Very、very hard(非常にきつい)
20
(3)心拍数(HR)
運動強度にほぼ比例して増加するので、ある負荷の、ある時点での全身への影響をHRそのままで大まかに把握することができる。
(4)酸素摂取量(V(・)O2)
全身性、持続性の定常的な運動中、1分間当りの酸素摂取量(V(・)O2)を測定し、その時の運動強度を表すことができる。
(5)無酸素的作業閾値(AT)
(6)換気量
(7)疲労曲線
(8)電気刺激に対する応答
(9)積分筋電図(IEMG)
(10)筋電図周波数
1912年Piperにより疲労を来す運動中筋電図周波数が減少することが発表された。
⑫起立性低血圧16)
【留意点】
臥位から坐位、立位に急激に体位をかえると、体幹下部の静脈の拡張、心臓への還流静脈血量の減少、心拍出量の減少が生じる。その結果として動脈圧の下降や脳血流量の減少が起こるため、めまいや意識低下を生じる。長期間臥床を強いられた場合や、脳血管障害による片麻痺患者、脊髄損傷患者に多く見られるが、中でも頸髄損傷による完全四肢麻痺患者では、必発といってよいほど著明である。
⑬血液量減少(脱水)5)
【評価】
検査所見上の特徴は、低心拍出と中心静脈圧、肺動脈楔入圧の著明な低値
【留意点】
出血、熱症、嘔吐、脱水などの病歴が重要。臨床所見としては、低血圧、頻脈、欠尿、チアノーゼ、意識混濁などを呈する。
⑭知的活動低下12)
【留意点】
(1)精神機能低下の原因と症状
・過度の生理的老化による精神機能低下
高齢になるに従い、身体機能の低下とともに一般的に精神機能の低下もみられ、学習能力の低下や記銘力の低下が認められるが、日常生活には支障がない。ところが、その程度がひどくなると、いわゆる「痴呆」や「ボケ」と呼ばれる症状が起きてくる。
・脳損傷による精神機能低下
脳血管障害や頭部外傷、CO中毒などによる脳実質へのダメージにより精神機能低下が起こる。「痴呆」や「意識障害」で代表される。
・長期臥床によって起こる精神機能低下
老人の特に骨折後の保存療法による長期臥床によって、一時的に精神機能低下(痴呆症状)が出現する場合がある。
・環境によっておこる精神機能低下
長期入院により、病院や医療従事者への依存を強める「ホスピタリズム」や、現実への飽きによる「マンネリズム」が生じ、さらに現実との「ずれ」が起きてくる。これら3つについては精神機能低下と呼ぶには議論のあるところであるが、いずれも精神活動の退行および弱化ととらえることができるため、精神機能低下の中に入れることができると考える。
⑮うつ傾向
【評価】
(1)Hospital Anxiety and Depression Scale(HAZDS)13)
ZigmondとSnaithによって、一般外来患者の不安・抑うつを評価する目的で開発された尺度である。この尺度は、身体症状を持つ患者用に開発されていること、臨床経験に基づく内容から構成されていることなどが特徴として挙げられる。項目数も不安と抑うつを合わせて14と少ないために、ほかの尺度との併用や、時間的制約のある外来診療場面での利用に適している。HADSは日本語に翻訳され、信頼性、妥当性などの計量心理学的特性も確認されている。諸外国では心リハ患者の不安・抑うつの評価にHADSを応用した研究が見られるが、本邦の心リハにはこれまで応用されてこなかった。岡らは、HADS日本語版を用いて回復期心リハに参加した心筋梗塞患者の不安・抑うつを評価している。その結果、心筋梗塞発症後1ヶ月時点で、HADS得点によって疑診(8~10点)および確診(11点以上)と判断された高不安群は24%、高抑うつ群は42%存在していると報告している。最近の研究では、うつ症状が自律神経機能(心拍変動の低下)に影響を与え、心筋梗塞後死亡率上昇に関連していることが指摘されている。回復期心リハプログラムには、患者の不安・抑うつを積極的に改善させるためのストレスマネジメント教育を導入することが必要と考えられる。
⑯自律神経不安定14)
【評価】
自律神経機能障害と理学療法評価
(1)急性期および亜急性期
全身状態の把握
①来院時の患者の観察
顔色・・・蒼白、化粧なし、髪が整ってない、顔面紅潮
姿勢・・・うつむき状態、椅子などにもたれかかっている状態
会話・・・声が小さい、言葉が少ない、イライラしている
動作分析・・・起立~歩行~着席時の動作の連合障害、動作時のふらつき
服装・・・着衣の乱れ、異常な厚着
②問診
病歴
愁訴の聴取
全身状態の把握・・・睡眠時間、食事の摂取
自覚症状・・・安静時痛の有無、疼痛部位、異常知覚の有無と部位
③他覚的所見
皮膚血流・・・増加、減少
皮膚温度・・・顔、手、足の温度の比較、
皮膚性状・・・浮腫、蒼白、チアノーゼ、皮膚萎縮
毛・・・増生、減少、脱毛
爪・・・増生、脆い、ひび割れ、黒くて厚い
汗・・・増加、べた汗、減少、皮膚乾き、ふけ増加
④関節運動所見
運動制限、関節の機能不全および遊び運動の中心位からの偏位、嵌頓などを把握する。
⑤X線像所見
斑状の骨萎縮、骨の脱灰像などの有無を把握する。
(2)慢性期
参考文献参照
【留意点】
長期臥床後の起立性低血圧、疼痛、睡眠障害などによる立ちくらみ、顔面蒼白、失神などの心・血管系障害による発作が発生することがある。セラピストは診療室内だけで評価するのではなく、待機中、診療中、待合室、院外を問わず対象者の様子に気を配る。