お昼過ぎに始まった収録はスムーズに進んで夜の手前には滞りなく終了した。 

 

OKの声が掛かると片瀬君と悟楼ちゃんはスッと出入り口の方に動いて挨拶をするスタッフの間を縫いながら足早にスタジオを後にしていった。

いち早くスタンバイしていた2人が真っ先に現場を後にするのが何だかオモシロイなぁと思う。


宙を探すとセットの片隅で夏目君と小さな会議を開いている。

いつもの事。

どんなに忙しくても、どんなにチョットした事でも終わった後には2人で寄ってああして話し合っている。

僕からしたら何をそんなに話す事があるのか謎なんだけど。

でも、あの2人が居るから面白くなっているのも本当だから、スゴイとおもう。


その小さな会議は直ぐには終らない事を僕は知っている。

そんな2人を背中で見送って僕も楽屋へと帰る。


カチャリと扉を開けると花の残り香だけを漂わせて案の定、悟楼ちゃんはもう既にいなかった。

僕が来るまで10分も経ってはいないハズだ。

「ほんと、いつも早いんだから…」


少し呆れながらテーブルの上に並べられたドリンクの中からパックジュースを一つ選んでぷすりとストローを刺した。

ちゅるりと吸い上げると舌に甘さを感じて、ゴクリと飲み込むと火照り気味の喉ををひんやりと冷ましながら、少し疲れが癒された気がした。


メイクを落して、衣装を着替えている間にも楽屋に来るまでに挨拶しきれなかったスタッフが入れ替わりにやってきては頭を下げて去っていった。


(悟楼ちゃんはコレが面倒なんだろうな)

 

頭の片隅でズルイなんて思いながら本心はその賢さが羨ましかったりもして。

僕には出来そうもないから無下にあしらう事なんてしない。

僕はそんな横柄なヤツじゃないし、スタッフがいてくれてこその僕だって充分解っているし、僕の対応が僕だけに返って来るわけじゃないことも、この業界が長ければ痛いほどわかっているつもりだ。


恐らく僕がこうしている事を悟楼ちゃんはわかっているのだろう。

ソレを勝手に任されていると思うとなんだかちょっと嬉しいのは確かだし。

 

プツリと人の往来が途切れて、もう気を抜いても大丈夫だと僕のセンサーがOKサインを出した。

「ふぅーーーっ…」

一つの仕事から解放されて、やっとソファーに腰を深く下ろす。

 

ズズーっと音を立てて勢いよくジュースを吸い上げると200mlの細いパックはペコリと凹んで括れを作った。

ストローを口から離してゴクリと喉を鳴らす僕の傍らで、失った空気を取り戻した紙パックは少し歪に形を復元させた。


上目遣いに楽屋の時計を見やると楽屋に戻って30分経過するまで後10分。




特に約束をしているワケじゃない。

だから楽屋を覗くかどうかもわからない。

ただ1度、理由はわからないケドふいにアイツが楽屋を覗いたことがあった。

もう、だいぶ前の事だけれど。

口では冷静を装ってそっけない言葉をかけてきたけど、瞬間にパッと咲いた笑顔は見逃さなかった。


どんなにスケジュールが詰まっていても30分だけ待ってみる。

もしかしたら、僕が帰ったあと覗いてるのかもしれなけど。

でも、直ぐ楽屋に戻ってきた時だって覗くことなんてなかったから、きっと別の日も同じだと思う。

別に悲観的になっているんじゃない。

もしも覗いたときに僕が居なかったら寂しいとおもうから。

アイツのそんな顔が容易に浮かんでしまうから。


目線を落としたテーブルの上には収録前にアイツが嬉しそうに抱えて行った雑誌と同じモノが置かれていた。 


(ほら、やっぱり。悟楼ちゃん読んでるじゃん)


無造作に置かれていた例の雑誌は端にが上向きに跡を残して、ソレが新品ではない事を主張している。

本番の前までは何の興味もなかった雑誌を貞嗣は手にとりパラリと表紙を開いた。

 

パラパラと適当にページをめくる。

キラキラと笑顔をコチラに振りく後輩アイドル達が視界に入ってはあっという間に消えていってく。

その中に自分達も含まれているワケで。

でも、アイドルと呼ぶには少し引け目も感じる歳だなと思ってみたり、逆にソレが誇らしかったり。

なんだか複雑な気持ちになるばかりで、途中でページをめくるのを辞めてしまった。


「ふぅ…。」


チラリと再び見上げた時計はさっきから然程すすんでいなかった。

パックを手に取り中身を吸い上げるとズズッと音を立てるばかりでもう中身は残っていなかった。


(時間切れ)


飲み終えたパックをポイっとゴミ箱に捨てると貞嗣は持て余した時間に痺れを切らして自分で定めた時間よりも早くの楽屋のドアをカチャリと開けて雑誌を持ち帰ることもなく仕事場を後にした。

 

 

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あとがきsong7 リンゴジュース 


に続く。。。