食うのが好きな友人にウナギを食いに行こうと誘われる。 冬に?いやぁでもうなぎは好きだし・・・どこよ? 東麻布?日本橋?神田? え? い・・・池袋?
 生まれも育ちも東京だが、池袋は縁が薄い街だ。でもそいつはそこにうなぎの師匠がいるという。待ち合わせて一緒に行くのだが、ちょっと買い物したから・・・とか言ってお菓子売り場に・・・どしたの・?え? 半額出せ? な。。。なによ払うけど・・・。
なんか狐につままれたような気分で池袋西口へ。。池袋でもこのあたりの治安は決してよいとはいえない。ラブホや風俗店があるdistrictで若干怪しい雰囲気が漂う。 そんな中、目指す先は大通りから10mほど入ったところでごくごく自然に街に溶け込んで営業している。
 鰻屋 かぶと。 なんの変哲もない焼き鳥屋・・・いやうなぎ屋に見えるけど・・・
ガラス戸を開けて入る。‘あ、電話させていただいたものですが・・‘ ‘お~ういらっしゃい。 ・・おうおうなんだか今日はずいぶんでかいのがまた二人来たぞ。店狭くなっちまうなぁおい。‘  。。。。とここで買ってきたお菓子を横の女将さんに渡す。この前はありがとうございました。  ‘あっらありがとう。お父さんお菓子いただきましたよ。‘‘そんなことしても味は変わんねぇよ。‘。。。。
 なんかここ下町か? 池袋だよな? そんな感じのやり取り。
 それにしても鰻屋だけに店内はウナギの寝床(失礼)のように細長ーい作り。一番手前にこぢんまりした四人掛けのテーブルがあるがあとは後ろを通り抜けるのも大変なスペースのカウンターが奥まで連なり、一番奥に小上がり。ほんとに‘小‘上がり。俺たち座れるのかなぁ?
‘おうおめぇらでかくて邪魔だからあの奥のカウンターに座っといてくんな。‘
他のお客さんに謝りながらカウンターの後ろをおなかを引っ込めてすり抜けていく。 いや~まじ痩せよう。
 一通り落ち着くと、漬物と冷奴をお供にビールが登場。これをつついて一通り親父さんにいじられながらオーダーする。
 まずは串もの。鰻のいろんなところが焼き鳥のように串に刺さって登場する。
えり焼き(へ? どこそれ?)
ひれ焼き(え・・えり?)
きも焼き(やばい・・・うますぎるぞ)
一口蒲焼(いくらでもくえんなぁ・・でもこのタレが絶秒)
そして漬物を入れる小鉢になにやら、怪しげなものが・・・ウナギの心臓!
動いてる・・・日本酒と一緒に行くと苦み走ってうまい。そのうえ元気が出るとのこと。
‘おめぇらこれ以上元気出ちゃうと困んだけどな。 いいよ食ってみな。‘だって・・・
口に入れて正直日本酒で‘流し込んで‘しまい、味はわからなかったが、ここまでの串焼きは経験したことのない味わい。特に肝焼きはちょっと苦み走りながらコクのある味わいが絶品で、どつかれながらお代わりしたほど。そしてそれを包み込む秘伝のたれがうまいうまい。ずっと使い続けているそのたれは長い年月をかけて鰻の脂と交わり、円く深いコクを出すようになっている。 神田のそばの名店やぶは先日の火事で、その創業以来100年以上にわたって守り続けてきたそばつゆを惜しくも・・・本当に惜しくも失ってしまったそうだが、こうしたものはプロの技で大事に上手に使い続けていないと出てこない味わいであり、本当に価値あるものだと思う。(藪そばさんの復活を祈ります)
 こちらのたれの深みも素晴らしい。
食べながら冷奴の意味がわかる。。。なるほどこれが箸休めね。 

 串焼き食いながら酒も進み、ビールからいつの間にやら日本酒へ。ここの日本酒はあまり見たことがないものばかりで、親父さんが日本全国の酒蔵の方々との人間関係で仕入れてくるものだそうだ。飲んでる間にも店のガラス戸越しにたくさんの人が空席がないか覗いていく。そしてたまにはがらっと開けて空いてますかぁ?と聞いてくるお客さん。 満員だよ満員! さみぃよ! 外で待っててくんなっ! みんな苦笑いしている。 でも妙に憎めないんだよなぁこの親父。。。外から聞いてきたお客さんもわかっているんだろう。 は~い、すんませ~ん。。。と外に立って待っている。この毒舌の親父さんとのやりとりもこの店の味のうちなのだろう。だんだんこの店がわかってきたような気がする。

‘おめぇらよく飲むな。酒がもったいねぇよ。‘とかいじられながら、でもちょっと飲んだことないやつを飲んでみたいんですけど・・・と懇願すると‘しょうがねぇなぁこれはおれの晩酌なのによっ!‘と出してくれて来た一本。 女将さんが開けてくれるとプシュッと音が・・・ そう一時はやった微炭酸の日本酒だがここでは‘はやりなんざ知らねぇよ。‘だって・・以前から使われているそうで・・失礼いたしました。
これを注がれると、、、ん?無色透明じゃないなこれ。。 な。。なんだこの香り。日本酒か?でもすごいうまい。。なんだこれ?  
 この酒は、千葉県のお酒で‘むすひ‘。玄米から作っているそうで、独特の香りがする本当にうまい酒だ。 味わいの深い鰻・こくのあるタレと高めあってそれを余韻を残しながらすっと洗い流してくれる。 これは強烈なインパクトのある酒だ。
 tension上がって飲んでるといよいよ白焼きが登場。これにわさびをからめながら食べる。とここで、再び肝が・・肝わさび・・だそうで、これも素晴らしかった。

 そしていよいよ真打登場。タレの蒲焼! 一枚は養殖・一枚は天然をいただく。‘おめぇらみてぇにあっという間に食っちまうやつに味なんかわかんねぇんだろうが・・・ほらよ。‘だって・・・ 女将さんが ご飯をお椀によそってくれる。  これがうまかった。
まずは香ばしさが鼻を抜け、かみしめるうちにじわ~っとその滋味ある味わいが染みてくる。そして天然もの。 な・・ええ?こんな違うの? 脂にまったく臭みがなく、身もむしろしっかりして決してふわふわしてるだけじゃない重みを感じるが、味わいがとても深い。いつまでもうまみが口に残る感じ。 なるほど、これはうまいと言われるわけだわ・・・

 途中からは白いごはんをお供に(ごはんがお供です)一緒にいただく。至福の時。
最後にお皿のたれをお代わりした白いごはんにかけてたれめしをいただく。やばい・・・
落語で匂いを嗅ぎながら飯を食うってのがあるけど、これはまさにそれ。 もう目の前には鰻はないが、たれごはんだけで鰻を体感できる。それも鰻の旨みがすべて沁みこんでいるいるたれの為せる業。 奇跡のたれめしをいただいて、ごちそうさま~!

 食いしん坊の友達が言った理由がわかった。これはうまい。ふわふわなだけの軟派な
鰻をブッ飛ばす、ほんとの鰻をホントのプロの技で供する鰻の殿堂がここにあった。。。

 ホントのプロに挨拶しておいとまする。‘ご馳走様でした。本当においしかったです。‘
‘おめぇら食いすぎだよ食いすぎ。もう来んじゃねぇぞ。。。‘・・・・

 また来るんだろうなぁ・・・