●ソーシャルゲームが高収益を上げていた“パズドラ以前”
パズドラが誕生したのは2012年2月のことで、当初はiPhone向けとしてリリースされた。まずは2012年2月以前と以後で、スマートフォンのゲーム市場がどう変化したのか、当時の動向について触れたい。
iPhone向けのゲームアプリは、AppleがApp Storeのサービスを開始した2008年から存在しており、世界的ヒットとなったフィンランド製の「Angry Birds」(Rovio Entertainment)などが注目を集めたことはご存じの方も多いだろう。だが国産ゲームアプリのビジネスが本格的に成立するようになったのは、2011年からとみられている。
というのも2011年は、Androidスマートフォンの投入が本格化し、さらにauがiPhoneの販売に参入するなどしたことでスマートフォンが急速な広まりを見せ、ユーザーの裾野が大きく広がった年だ。それに加えて、激しい価格競争に見舞われ収益化が困難となっていたダウンロード課金型アプリに代わり、基本料は無料で提供し、アプリ内課金によって収益を上げるタイプのアプリが増加し始めたタイミングでもある。
中でも高い売上実績を上げたのが、フィーチャーフォンで“基本料無料・アイテムによる課金”というスタイルを確立していたソーシャルゲーム出身のゲームベンダーである。こうしたベンダーは、フィーチャーフォンからスマートフォンへ移行するユーザーの受け皿となるべく、Webベースのゲーム内容を堅持したゲームを投入し、フィーチャーフォンから継続した人気と売上を獲得していた。実際「探検ドリランド」などを提供しているグリーは、2011年末に同社製ゲームで20億コイン(20億円に相当)を超える売上のタイトルがあると公表している。
また同時期には、スマートフォンの特性を生かしたネイティブアプリならではのタイトルも大きな売上を上げるようになってきた。リアルタイムによるオンラインプレイが可能な本格シミュレーションRPG「キングダムコンクエスト」(セガ)のように、ゲームベンダーが投入したゲーム性の高いアプリが、高い売上につながる土壌ができ始めていた。
●“パズドラ”のヒットに大きく影響した2つの背景
こうした状況で2012年2月にパズドラが登場し、その後急速に人気を高めていくこととなる。パズドラがヒットした要因はさまざまな角度から分析がなされているが、ここではユーザー視点で同タイトルがヒットした理由を挙げてみたい。
1つは、カードバトルを中心としたソーシャルゲームの成熟が進んでいたことだ。ソーシャルゲームはかつて、「サンシャイン牧場」(Rekoo Japan)や「怪盗ロワイヤル」(ディー・エヌ・エー)に代表されるように、ゲーム性はあくまでシンプルで分かりやすく、利用者間の協力やバトルなどのソーシャル要素を重視することで幅広い層に受け入れられた。その後、「ドラゴンコレクション」(コナミデジタルエンタテインメント)のヒットで多くのベンダーがカードバトル系のゲームに舵を切って以降、収益性を重視してかゲーム内容やキャラクターなどを特定のターゲットに絞ったものが増えるようになり、ソーシャルゲームのターゲットが狭まりつつあったのだ。
そしてもう1つは、パズルやランアクションなど、ちょっとした時間に遊べるカジュアルゲームの人気だ。こうしたゲームはフィーチャーフォン時代から人気が高く、スマートフォンでも「おさわり探偵 なめこ栽培キット」(ビーワークス)などが人気となったことは記憶に新しい。ベンダーから見た場合、当時はカジュアルゲームでの収益化に非常に大きな課題があったため、メインビジネスとして本腰を入れる企業は決して多くなかった。だがスマートフォンで質の高いカジュアルゲームに対するニーズは非常に高かったといえるだろう。
そうした状況下で、ガンホー・オンライン・エンターテインメントが提供したのが「パズル&ドラゴンズ」だった。パズドラは、“ガチャ”や“合成”などカードバトル系のソーシャルゲームで人気の要素を踏襲しながらも、カジュアルゲームで人気のパズルゲームの要素を取り入れ、さらにソーシャル要素を弱めてゲーム性を重視する内容となっていた。そうした要素がユーザーにゲームとしての新鮮さを与え、ゲームに積極的な層を取り込んだのに加え、ゲーム性の分かりやすさからカジュアルゲームのプレーヤーも取り込み、利用者の裾野を広げるのに成功したのである。
さらに同社は、「ラグナロクオンライン」などのオンライゲームで培ったゲーム運営のノウハウを生かし、ユーザーの継続的な利用につなげる取り組みを行っている。こうした一連の取り組みにより、同タイトルは現在に至るまで高い人気を獲得したといえるだろう。
●カジュアルゲームでも収益機会が生まれた“パズドラ以後”
パズドラが人気だけでなく、高い売上を上げるようになったのには、獲得したユーザーも大きく影響している。
カジュアルゲームのプレーヤーは非常に裾野が広いが、“旬”の時期が短い上にアプリ自体が無料であることも多く、お金を支払わずに遊ぶユーザーがほとんどだ。一方でユーザーの特化が進んだソーシャルゲームや、先に触れたキングダムコンクエストなどは、積極的にゲームをプレイするコアユーザーがお金を支払うことで高収益を上げている。
ではパズドラはどうなのかというと、カジュアルゲームとソーシャルゲームの中間ともいうべき層、つまり“ゲームに少額のお金を支払う”人達を獲得しており、それが高い売上につながっている。事実、App Storeでパズドラのトップアドオン(アプリ内課金で購入されるアイテムのランキング)を見ると、1000円未満のアイテムが上位を占めており、1人当たりの支払額は決して大きくない。つまり裾野の広い層から、少額の課金を獲得することで、総合的に高い売上を上げているのだ。
パズドラのヒット以降、スマートフォンで人気のゲームにはいくつかの変化が出てきている。1つは、カジュアルゲームの要素を取り入れたゲームアプリの、収益化に対するハードルが下がってきたことだ。特にカジュアルゲームを楽しむ多くのユーザーはお金を払うことに消極的だったが、パズドラのヒット以降、ユーザーがゲームに課金をするという意識のハードルが下がっており、コア層向けゲームに偏っていた課金の幅が広がってきているのだ。
大きな変化を実感する出来事といえるのが、LINEの「LINE POP」が高い売上を上げたことだ。LINE POPはユーザー同士でスコアを競い合う、タイムアタック形式の3マッチパズルだ。従来こうしたカジュアルなゲームへの課金は難しいと見られていたが、LINEによる友人間の積極的なコミュニケーションに加え、ゲームに対する課金のハードルが低くなったことが影響し、日本でもカジュアルゲームで高い売上を上げられることを実証した。
さらに最近では、英King.comが提供するパズルゲーム「Candy Crush Saga」が、積極的な広告展開の効果などもあって人気を高め、売上ランキングの順位にも名を連ねるようになった。LINE関連のタイトル以外で高収益を上げるゲームが出てきてたことから、今後カジュアルゲームの収益化が一層進むと見ることができよう。
●ゲーム性の向上で対抗するソーシャルゲームベンダー
もう1つの変化は、カードバトル系ソーシャルゲームを提供していたベンダーの多くが、ゲーム性を高める方向に舵を切りつつあることだ。もっともこれには、パズドラの影響だけでなく、アプリのフレームワークでWebベースのゲームを動作させるもの(ガワネイティブなどとも呼ばれる)をApp Storeが登録拒否するようになった技術的な理由や、2012年5月に起きた“コンプガチャ”にまつわる騒動でカードバトルと相性のよかったガチャの面白さを訴求できなくなったことなど、いくつかの要因が重なりあっている。
最近の傾向で顕著なのは次の2つだ。1つはパズドラ同様、ゲーム的な要素を取り入れてゲーム自体の楽しみを高めたもの。そしてもう1つは“ギルドバトル”などによって対戦の楽しみを強化し、ソーシャル要素を高めたものだ。
前者の場合、「ドラゴンコインズ」(セガ)のようにコインゲームを組み合わせたものや、「ドラゴンポーカー」(アソビズム)のように、ポーカーの要素を取り入れたものなど、さまざまなものが登場している。最近では「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」(KLab)が、“音ゲー”にカードによる育成システムを取り入れたことで、元となるタイトルの人気とともにコアなファンを獲得し、注目を集めた。
後者のギルドバトルとは、何人かでチーム(ギルド)を組み、ギルド同士のバトルを1日に何度かプレイできるというもの。スマートフォン向けでギルドバトルを打ち出したゲームとしては、アソビズムの「ドラゴンリーグX」や、ポケラボの「運命のクランバトル」などが代表例として挙げられるだろう。
こうしたゲームの多くは、従来同様少数のコアユーザーから収益を上げるというビジネススタイルから、今の所大きく変化している訳ではない。だが人気パズルゲームをRPGとして展開した「ぷよぷよ!!クエスト」(セガ)や、“クイズ”という分かりやすい価値を取り入れた「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」(コロプラ)が、パズドラに比較的近いユーザーの消費動向を示すなど、中間層の獲得に成功するタイトルも生まれてきている。
パズドラのヒットには、ゲームとしての面白さはもちろんだが、そうしたゲームがヒットする土壌があったことが大きく影響している。かつて困難だったカジュアルゲームの収益化が可能となったように、今後もスマートフォンアプリを利用するユーザー動向の変化が、ゲームのヒットに大きく影響しているとみられる。フィーチャーフォンの時代から、モバイルコンテンツの動向変化は非常に早い周期でやってくるだけに、変化をうまく読むことができた企業が、次の大きなトレンドを生み出すことになるだろう。




