
[トランプ関税]25%→15%へ交渉し功績を称える声があるなか少しずつ破滅に向かっている理由
今回はこちらについて語っていきたいと思います。先日トランプ関税とも言われているアメリカの関税率を15%で同意したとの報道がありました。元々は25%と言われていた関税が15%に下がったことにより、一部では歓喜の声がありますが、影では少しずつ破滅の方向に向かっています。その訳を解説していきます。
1.関税率を25%☞15%に引き下げたわけ
まずはアメリカ側が今回関税を引き下げるに至った同意内容を見ていきましょう。
①アメリカ産の米の輸入を即時75%増やす。
②ボーイング社の航空機を100機購入する。
③日本がアメリカの基幹産業の再建と拡大のため、5500億ドル、日本円にしておよそ80兆円の投資を行う。
③に関しては全貌が不透明なところがありますが、一部明かしている所を解説すると、政府は日本の自動車メーカーに「逆輸入」をするよう求めました。つまり、アメリカ車をもっと積極販売していくという事ではなく、アメリカで日本車を製造しそれを輸入しろというものです。
2.米農家への影響
まずは米農家への影響です。現在、不作ではないのにも関わらず店頭の米は買い占められ、日本米は価格が急騰し、政府が備蓄米を放出する事態となりました。
そんな日本にとって、アメリカ米の輸入を75%増やすと言うのはどうなのでしょうか?
現状:日本が米国から輸入しているコメの量
ミニマムアクセス米(MA米)
日本はWTOの約束で、年間約77万トンのコメを輸入する義務があります(通称:ミニマムアクセス米)。
このうち:
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多くは米国産(約30〜35万トン程度)
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残りはタイ、オーストラリア、中国など
つまり、
米国からのコメ輸入量は約30万トン/年が相場です。
仮に「75%増」になったらどうなる?
米国産が30万トン → 75%増で 約52.5万トン
つまり:
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+22.5万トンの増加
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日本全体の米消費(年間約700〜800万トン)と比べれば 全体の2〜3%程度にすぎません。
本当に影響ないのか?
結論としてはこうなります:
❶ 全国平均では大きな影響は出にくい。
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消費全体に占める割合が小さく、家庭用の国産ブランド米には影響が出にくい。
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価格破壊を起こすほどの輸入量ではない。
❷ ただし、業務用・飼料用などの一部市場には明確な影響あり。
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外食チェーン(すき家・松屋など)では、価格が1円でも安いコメが選ばれる。
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業務用国産米(ブレンド米など)を主に扱っている農家・農協は打撃を受けやすい。
2-まとめ
結論:アメリカの国の規模を考えれば対して大きな輸入量ではない。
他国の輸入を少し減らしたりすれば大した量ではありません。トランプ大統領は他国や自国にアピールするために「75%」と強調していますが、量で見れば大したこと無いと言うのが結論です。また、日本は本来災害用などに使用する備蓄米を放出してしまった事で、米を増産する体制に入っていたため、政府としてはむしろ丁度よかったのかもしれません。
3.ボーイング社の航空機100機を購入
アメリカの狙い:雇用と貿易赤字の穴埋め
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ボーイングはアメリカの象徴的な輸出企業で、しかも近年は737 MAXのトラブルや中国からの発注取り消しなどで打撃を受けていました。
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「日本に買わせる」ことで、米国内の航空機産業(=雇用)を守る狙いがある。
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トランプ政権的には「日本からの実利の提示=外交成果」として使いたい。
日本にとっての視点(JAL・ANA・他の航空会社)
メリット
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日本の航空会社も実際にボーイング機を多く運用している(特にANAはボーイング派)。
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仮に新型機導入の予定があるなら、その一部を先んじて契約すること自体は“損”ではない。
デメリット・懸念点
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「100機」という数が 明らかに過剰で不自然。
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例:ANAの保有機全体でも約200機、JALも150機程度
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100機というのは、それぞれの航空会社が通常ペースで数年に渡って更新・導入する数の倍以上に相当
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新型機の開発・納期・整備インフラにも影響が出る。
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今後の需要予測(コロナ後の航空需要回復も不安定)を踏まえると、
**「将来いらない機体を今買わされるリスク」**がある。
日本はどのメーカーから航空機を買ってるの?
| 航空会社 | 主力機種(中大型) | ボーイング比率 |
|---|---|---|
| ANA | 787、777、737 | 非常に高い(約70%以上) |
| JAL | 767、777、787 | やや高め(約60%) |
| ピーチ、スカイマークなど | エアバスA320系列 | ボーイング比率少ない |
→ ANA/JALにはボーイング依存傾向があるものの、「100機一気に買う」のは非現実的。
問題の本質:民間企業に対する政治的圧力
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航空機の調達は「技術、費用、整備体制、長期的需要見通し」を含めた精密な投資判断。
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それを外交交渉の“玉”として無理やり押し付けるのは極めて異常で、日本政府がそれを認めた場合、「国家が企業活動に口を出して無理に買わせる」構図になる。
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結果として:
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航空会社が不要な設備投資を強いられる
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利益が圧迫され、運賃やサービスに悪影響
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4.自動車逆輸入による影響
① 日本の部品産業・中小企業が確実に干上がる
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アメリカ現地で作った車は、アメリカの部品で作るのが常識。
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輸送コスト、関税回避、納期、保守部品対応を考えたら、わざわざ日本から部品を送るバカはいない。
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結果 → 日本の2次・3次サプライヤーが失業。
☞ ここ重要:逆輸入が進めば進むほど、日本の下請けはフェードアウトしていく。
そして「静かに倒産」する。ニュースにはならない。
② 国内工場が「設備遊休」→リストラまっしぐら
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日本で作る車が減る → 工場はヒマになる → 当然人件費カット or 生産停止。
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もうすでに、いくつかの自動車メーカーは国内工場を段階的に縮小してる。
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結果 → 地方経済に直接ダメージ。
☞ 実際、ホンダは狭山工場を閉鎖したし、トヨタも地方工場の稼働調整を続けてる。これは**「逆輸入ありき」のグローバル再編**の一環。
③ 運送・整備・部品供給が地味に地獄
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アメリカで作られた仕様(例:インチサイズのナット、EPA規格、US独自の電子制御系)は、日本国内の整備インフラと相性が悪い。
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部品が合わない、納期が遅い、修理に手間がかかる、などトラブルの温床。
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整備士が文句を言うレベル。
☞[売ったはいいが、その後が大変」パターン。
④ 消費者には正直、大してメリットがない
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「アメリカ製」って言っても品質が必ずしも日本製より高いわけじゃない。
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米国製造モデルの多くは北米市場向けにチューニングされており、日本の道路事情に合わない(でかい、燃費悪い、小回りきかない)。
☞ 消費者側も「珍しいから買ってみる」程度で、長期的なリピートや信頼感にはつながりにくい。
逆輸入は“メーカーだけが得をする仕組み”。国内経済と雇用には静かな破壊力がある。
| 誰が得? | 自動車メーカー(特に米国工場持ってる大手) |
| 誰が損? | 日本の下請け企業、地方工場、整備業界、そして最終的には雇用と地域経済 |
逆輸入ブームが進行すればするほど、日本の自動車産業は「国内空洞化」していく。
見た目はグローバルに成長してるように見えても、国内産業の土台はボロボロになるリスクがある。国がここを黙認し続けたら、気づいたときには「下請けの町工場が全滅してました」ってオチになりかねない。
5.今回の合意内容により一番日本経済に影響するのは?
自動車の逆輸入促進と、それに伴うサプライチェーンの現地化要求
これが最も破壊力が大きいです。以下、その理由を厳しく解説します。
なぜこれが一番ヤバいのか?
1. 日本の“基幹産業”への直撃だから
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自動車産業は、日本の輸出の約15~20%、製造業の就業人口の約8%以上を支える超・中核産業。
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しかもその下には、2次・3次の部品メーカーが全国津々浦々に存在し、地方経済の生命線になっている。
☞ ここが崩れると、単なる「一業界」では済まず、地方経済全体が沈む。
2. 自動車メーカーは得しても、国内に金が落ちない構造
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アメリカで生産 → アメリカで雇用 → アメリカで税金 → 日本のGDPに貢献しない
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それを日本に逆輸入しても、国内サプライヤーの仕事は減り、整備は面倒、利益も減る
つまり、「日本企業が稼いでるようで、実際には“日本”にはほぼ還元されない」
3. 静かに進行する“空洞化”だから気づかれにくい
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騒ぎにはならない。ニュースにもならない。でも気づいたら、
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地方の部品メーカーが廃業
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新卒が就職先を見つけにくくなる
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技術が次世代に継承されない
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地域銀行の融資先が消える
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これが数年〜10年単位で日本をじわじわ蝕む。
6.なぜ政府はこの内容で合意してしまったのか
① 「外交アピール>国内産業保護」だから
特にトランプのようなタイプの相手と交渉する際、日本政府(外務省・官邸)はしばしばこう考えます:
「トランプに貸しを作れば、安保や為替の圧力が少しでも弱まるかもしれない」
つまり:
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自動車、農業などの“モノ”を差し出して
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米軍駐留費・防衛予算・為替操作認定・経済制裁などの“目に見えない圧力”を回避
「モノは差し出すから、“空気”の安全保障はくれ」
→ この「交換条件」に慣れきってるのが、今の政府。
② 「経済政策=企業の業績優先」だから
はっきり言うと、今の日本政府の経済政策は:
上場企業の業績”を良く見せることが最優先。
つまり「株価」がすべて。
なぜか?理由は2つ。
① 官邸・与党は「株価=支持率」と思ってるから
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年金資金(GPIF)も株で運用中。株価が下がると世論が荒れる。
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景気対策をアピールしやすいのも「株価」。
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実体経済や下請けの声は“目立たない”から無視されやすい。
② 大企業(特に輸出企業)は**政治献金と“人材の天下り先”**を握ってるから
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経団連加盟企業は数千万円単位で自民党に献金している。
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元官僚や政治家の天下り先(顧問、監査役など)になっている企業も多い。
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つまり、政官財が癒着している構造がある。
結果として:
「企業の国際競争力を優先しないと“票もカネも失う”」
→ だから、部品会社や農家が死のうが、トヨタと三菱重工が儲かればOKという構図。
③ 単純に“深く考えていない”ケースもある
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官僚の一部(特に財務省や外務省)は、自動車や農業の「現場感覚」が極めて乏しい。
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数字と紙の上で交渉しているだけなので、
「国内サプライヤーが死ぬ」なんて実感がまるでない。
しかも、
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「逆輸入が促進されるとこうなる」などという中長期の波及分析を行う予算も、人材も、政治的な圧力もない。
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つまり、やっつけの合意内容を“成果”として発表して終わり。
7.総評
日本政府は日本のものづくりを根底する現場よりも大企業を守ったと言うのが結論です。特に小規模米農家、自動車関連中小企業はここ10年で確実に衰退、倒産していくでしょう。
しかし大企業が傾けば、中小企業倒産よりも甚大的な被害が出ます。また、株価に悪影響を与えれば世界から見た日本の信頼は失墜し、より円安を引き起こしてしまい経済は根底から破壊されてしまうでしょう。
たとえるなら・・・「トカゲのしっぽ切り」です。
しっぽは切ってもまた生える、しかし本体が潰れてしまってはどうしようもないのです。
日本は“経済動物としての命”を守るために、自らの“文化的な四肢”を切断し始めた。
その短期的延命はできるけれど、長期的には回復不能な神経まで切ってしまっている。
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10年後、「もうこの部品を作れる町工場が日本に1社もない」
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15年後、「この加工技術をできる人が全員引退した」
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20年後、「海外に依存しないと1台の車も作れない」
こうなる可能性は、もう“懸念”ではなくほぼ確定ルート。