私、若かりし頃、某ホテルの宴会部門でサービスマンとして働いていた時期がありました。

100人以上が出席する結婚式。
1000人集まる立食パーティ。
入社式や授賞式、色々ありました。

そんな中、よくあると言ってはいけないのですが、披露宴でスタッフがお客様に粗相をしてしまったことがありまして。

お客様は若い女性。
そのドレスを着て、２次会に行く予定だったのに……！
ドレスを汚されたショックでお怒り気味です。

粗相をしてしまったスタッフは男性だったため、その時同じ宴会場で１番キャリアの長い女性スタッフとして、私がフォローをすることになりました（お客様のドレスを受け取ったりするわけなので……）。

当時、宴会部門の最高責任者が代わったばかりで、その方は、まぁ、真面目で誠実なのですが、『お客様にご迷惑を……！申し訳ありません！申し訳ありません！』とひたすら頭を下げるタイプの上司でした。

２次会まであと１時間。

私はリネン室（クリーニングからプレスまでやってくれる洗濯のプロの集まる部屋）へお客様のドレスを持ち込んで、こちらのミスでお客様にご迷惑をおかけしたこと、このドレスを着て２次会に行きたいと仰っていることを説明し、なんとか最優先で染み抜きをお願いしました。

しかしリネン室のスタッフは、
「このシミは簡単には抜けない。無理」
と。

「できる限りで大丈夫なので、こちらとしても努力と誠意を見せたいので協力して欲しい」
とゴリ押しし、数十分後、再びリネン室にマネージャーと向かいますと、
「やはりシミはキレイには抜けなかった。
時間が足りなくて匂いも残っている。
こちらはこれ以上は無理」
と、言われてしまいました。

私とマネージャーは、足取り重く、お客様のために急遽準備した客室に向かいます（裸でそのへんに待機してもらうわけにはいかず……）。

勿論マネージャーは、
「大変申し訳ありません」
と、初っ端から頭を下げました。

その隣で、私はお客様にクリーニング上がりのドレスを差し出し、

「リネン室のスタッフが、凄く頑張ってくれまして、ここまで先程のシミが抜けました。
ほぼ分からないくらいです。

いかがでしょうか？」

と問い掛けてみたんです。

初っ端の謝罪で、謝る＝上手くいかなかった＝２次会に行けない！と不快な表情をされていたお客様が、

「確かに、わからないですね」

と仰ってくださいまして。

「申し訳ないのですが、臭いが少し残っているようなので、本日の２次会が終わったら、お手数ですがもう一度クリーニングに出して頂いてよろしいでしょうか？
後日のクリーニング代などは……」

ここまで私が言うと、頭を下げていたマネージャーは、（お前、これ以上言わんで良い）とばかりに、

「こちらにご請求下さい。ワタクシの名刺をお持ち頂いて、はい、裏のこちらまで。本日は、誠に申し訳ありませんでした」

お客様は、納得してクリーニング上がりのドレスを着て２次会に向かわれたそうです（私は下っ端なので、ドレスを渡したところで別の仕事に……）。

大事にならず、本当に良かったです。

マネージャーと共にひたすら頭を下げても良かったのですが、「リネン室のスタッフが凄く頑張った」と誠意を見せ、「２次会に着て行ける」と伝えることで本来の目的を思い出してもらい、「再クリーニング代はこちらで負担」と言うことで、金銭的負担に対する不安が解消されたのではないでしょうか。

実はこの話し方はお手本にした方が居りまして、彼はとてもセールス上手で、自分の旗色が悪くとも、有耶無耶にしてしまう、

詐欺師的に口の上手な方でした。

勿論、彼の領域にはまだまだ達して居ないのですが（当時も今も）、この、ある意味嘘と言うか詐欺と言うか……、こんな言い回しも、意外とお客様に寄り添った話し方だったんだなと後に思いました。
（本当は完全にシミが抜けたわけではないけど、２次会に気持ちよく行かせるという意味で）

あの口の上手い彼は、今もバリバリ売り上げているのかな、そして当時のマネージャーは、未だに頭を下げているのかな……、と思い出した夜でした……。

謝罪とお客様の求める解