「ほのちゃん、好き」
「…どしたん急に」
知っていた。急ではなかった。
何とは無しに、それを伝え続けてくれていたことも分かっていた。
でも、心のどこかで、ずっと私はそれを避けてきていた。
「ほのちゃんのことずっと好きだった。
一緒にいればいるほど、好きだなあって思ったし、ほのちゃんの笑った顔見てると
「でもさ、私好きな人いるって…」
これ以上言葉を受け取ってしまったら、
自分の知らない自分になってしまいそうで、
私は遮った。
窓の外には、細々と木枯らしが吹いていた。
『ほのちゃん、好き』
言ってしまった。
言葉にするのは新鮮だった。
でもその緊張以上に、
“叶わない”という現実を突きつけられることに私は恐れていた。
今私の目の前にいる人には、好きな男性がいる。
その悩みもよく聞いていた。
彼女が男性に振られる度、期待してしまう自分がいた。
でも、その日はいくら待てど、来なかった。
「うん。だからね、
これからも私に相談乗らせてほしい。」
「ありがと、ひいちゃん」
そんなこと、出来るわけない…
歳月の流れは速いことに、
あの口約束から1年が経とうとしている。
私が好きな人のこと、
私を好きになってくれた人のこと、
それは誰にも相談しなかった。
悩みを聞いてもらう事こそ無かったが、翌日、
ひいちゃんは昨日のことを忘れたかのように、
変わらず私と他愛もない話をした。
結局のところ、私の恋は何も進展せずに
自然と熱は冷めていった。
「やっぱり今回もダメ男かな〜」
見慣れた景色を目に映しながらそう言うと、
隣を歩く彼女は、
「こうなると思ってたよ」
と、下を向きながら唇を噛み締めている。
ひいちゃん。喜んでるの、バレてる。
いつからだったのだろう。
私を見つける度嬉しそうに目を見開いて
その小さな体でめいっぱい手を振る彼女に、
さり気ない素振りをしているつもりだろうが
笑いながらぎこちなく私の肩を触る彼女に、
紛らわすことができない程の、
強い想いを抱いていたみたいだ。
「なあ、ひいちゃん」
「うん」
「あのさ、あの時、言ってくれたやんな
『ほののことが好き』って」
「…」
「こんなこと聞くのずるいかもしれへんけど、
その、まだ…」
足取りが止まる。
何かがつっかえたように、声に出せない。
私は、あの時どうにか無かったことにしようとしていた彼女の気持ちを、
今、
もう一度、聞きたいと思ってしまっている。
こんなこと、ひいちゃんが一番辛いはずだ。
「好きだよ。ほのちゃんのこと。」
「え…」
これもまた、知っていたことだった。
でも何故だろうか。
安堵のようなものが、目から溢れ落ちる。
「ずっと、大好きだよ」
優しい目をしていた。
「そう…あの…」
「うん」
「ひいちゃん
ほのと、ずっと一緒にいてくれませんか?」
小さく、息遣いが聞こえる。
やっとのことで焦点を合わせると、
そこには、今まで見た事のないほど
大粒の涙を流しているひいちゃんがいた。
「え…あ、ごめんな…急やったよな、
しかも前振ったの、ほのだし… 」
「振られたつもり、ないんだけど」
「え…?」
気づけば彼女は、
私の体に顔をうずめていた。
私の後ろに回される手は、ぎこちなかった。
小刻みに震えているようにも感じた。
だけどそれは、とても、とても力強く
私を抱きしめていた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
自分の頬が濡れていることをやっと思い出した。
そういえば彼女とは、いつも感情を共有していたような気がする。
体の芯から冷えるような寒さに、
私たちは、静かに抗っていた。