東海(とうかい)の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて 蟹とたはむる
たはむれに母を背負ひて そのあまり軽きに泣きて 三歩あゆまず
草に臥(ね)て おもふことなし わが額(ぬか)に糞して鳥は空に遊べり
やはらかに積れる雪に 熱(ほ)てる頬を埋むるごとき 恋してみたし
路傍(みちばた)に犬ながながと呻(あくび)しぬ われも真似しぬ うらやましさに
新しきインクのにほひ 栓抜けば 餓えたる腹に沁むがかなしも
はたらけど はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり ぢっと手を見る
友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ
興(きよう)来(きた)れば 友なみだ垂れ手を揮(ふ)りて 酔漢(よいどれ)のごとくなりて語りき
ふるさとの訛なつかし 停車場(ば)の人ごみの中に そを聴きにゆく
飴売のチャルメラ聴けば うしなひし おさなき心ひろへるごとし
石をもて追はるるごとく ふるさとを出(い)でしかなしみ 消ゆる時なし
青に透く かなしみの玉に枕して 松のひびきを夜もすがら聴く
長く長く忘れし友に 会ふごとき よろこびをもて水の音聴く
今夜こそ思ふ存分泣いてみむと 泊りし宿屋の 茶のぬるさかな
ごおと鳴る凩(こがらし)のあと 乾きたる雪舞ひ立ちて 林を包めり
寂莫(せきばく)を敵とし友とし 雪のなかに 長き一生を送る人もあり
死にたくはないかと言へば これ見よと 咽喉の痍(きず)を見せし女かな
葡萄色(えびいろ)の 古き手帳にのこりたる かの会合(あひびき)の時と処(ところ)かな
朝の湯の 湯槽(ゆぶね)のふちにうなじ載せ ゆるく息する物思ひかな
しめらへる煙草を吸へば おほよその わが思ふことも軽(かろ)くしめれり
あさ風が電車のなかに吹き入れし 柳のひと葉 手にとりて見る
ほそぼそと 其処(そこ)ら此処(ここ)らに虫の鳴く 昼の野に来て読む手紙かな
夜おそく つとめ先よりかへり来て 今死にしてふ児を抱けるかな
おそ秋の空気を 三尺四方(さんじやくしほう)ばかり 吸ひてわが児の死にゆきしかな
かなしくも 夜明くるまでは残りいぬ 息きれし児の肌のぬくもり
石川啄木の闇は深い。
ぢっと手を見る、土曜の夜。
なんだろ。
無性に一握の砂を読みたくなったよ。
げーっ、死が近かったりして。






