「法律の「ほ」の字も知らないし、具体的に弁護士さんのお仕事も知らないのですけれど、よろしいのですか?」って、伺ったら、
「大丈夫です。英語が分かってタイプが打てれば十分です。それに、あなたの性格は秘書に向いているとおもいますしね。 法律用語と、弁護士の仕事の内容は少しずつ覚えて行ってもらえば良いのですから」って。
それで、とにかくやってみようと思ったの。」
「知らなかったわ。寿美子さんがそんな経験をお持ちだなんて。
芳子の言葉に寿美子がいたずらっぽく答える。
「そうよ。私は秘密多き女よ。」
「いやだ。そんなに笑わせないでくださいよ。」
「それで、法律事務所のお仕事って、どういうお仕事なんですか?」
遥が聞く。
「その頃の秘書は、タイピストと言っても良いかもしれないわ。
とにかく、書類作りがお仕事の中心でしたから。
それこそ、朝から晩まで、ううん、深夜までタイプを打ちすづけたの。
でも、私は、タイプを打つのが好きだったし、忙しいのも嫌ではなかったの。それに、自分の作成した何百万ドルという契約書が調印されるのかと思うとわくわくしましたね。
今の法律事務所は結構規模が大きい事務所ですけれど、一般の会社とは違って、言ってみれば商店連合会みたいな所なのよ。」
「商店連合会?」
