魂の『熱情』(神童が神童を演じる映画) | 炸熱~歌キチ、愛をうたう~

魂の『熱情』(神童が神童を演じる映画)

成海璃子

現在14歳の成海璃子、そのピュアで透明感のある自然体の演技から、神童という評価を受けている彼女が

正にピアノ界の神童成瀬うたを演じる『神童』を鑑賞(4月26日木曜)。


神童


私はピアノの音が好きだ。

ピアノの伴奏で歌うのが好きだ。

自分の歌に合わせ、自在に変化してくれるピアニストの演奏は最高だ!


歌のレッスン、LIVEなど普段からピアノと深く関わっているだけに

この映画は非常に興味をそそられた。


この映画に登場するピアニストたちの奏でる音色はそれは見事だ。


特に松山ケンイチ演じる和音ワオ)が音大受験で演奏する

ベートーヴェンのピアノソナタ第23番熱情』の迫力が目に、耳に強く残る。


神童⑧

余談だが、ピアノ演奏の吹き替えは映画で講師の一人を演じている清塚信也

ドラマ版『のだめ』の千秋の演奏もこの人が吹き替えているとのこと。


※熱情・・・抑えることが出来ない情熱のこと


かつて私はこのベートーヴェンピアノソナタから、タイトルをもらい

LIVEをやったことがある。


忘れもしない1stConcert Appassionata』 だ。


この『熱情』の第一楽章の冒頭を日本のビリー・ジョエル先生に弾いて頂き

それがいつの間にか一曲目の前奏に変わっているというのがこのLIVEのオープニングだった。


先生の演奏はどちらかというと、譜面通りきっちりクラシック系ではなく

コードだけを見て自由に演奏するJAZZ系なので


この曲を弾いてくださいと言った時には

なんでこんな難しい曲を選ぶんだ。弾けないよ。」と怒られた。


やはりアドリブで演奏する人には譜面通りきっちりというのは

本当に無理な注文らしい。


それでもそんな私のわがままを受け入れ、ジョエル先生は本番はきっちりステキな演奏を

して下さった。

感謝しております。心から。


さてこの映画でワオが弾いたのは第三楽章、非常に激しい旋律だ。

この映画の中で、いい演奏をする重要な要素として

呼吸

を挙げていたが、これは正に的を得た論理であり、その通りだと思う。


ワオは大げさなまでに「ふっ」「はっ」と息を吐きながら汗だくになって演奏していた。

実はこの呼吸というのは何をやるにも大事で、歌、演技、踊りにも非常に重要になって来る。


うまく歌えない、演じられない、踊れない


こういった場合何が一番問題なのか?


その人はきっと、呼吸をしていない。


緊張のあまり不自然な呼吸になっている。


力みすぎて、肩に力が入っている。


自由な呼吸をしていないのだ。


ここでいう自由な呼吸とは


リラックスした状態で波の上でたゆたっているような状態を指す。


ジョエル先生から教わった言葉を思い出した。


息は必要なだけ吸えば良い


どういうことか


要するにそのフレーズを強く言いたいのであれば息をたっぷり吸うだろうし

逆に囁くように歌いたいのであれば、そんなにいっぱい息は吸わなくても良い。


言葉で書くと簡単だが、それを実際にやってみると意外に困難なことが分かる。


やろうとすると逆に力が入ってしまい、上手くいかない。

自意識過剰って奴だ。


人間とは何とデリケートで不自由に出来ていることよ。


この映画のワオは受験では、まるで神の如きブラボーな演奏をみせたのに


入学してからは別人のように凡才ぶりをを発揮する。


ある教師は彼を見捨て、ある教師は彼に何が必要なのかを分かっており

彼にヒントを与える。


それは彼に人の歌の伴奏をさせることだった。


神童③

見事なアドバイスではないか、言葉ではなく

実戦で体に叩き込ませることほど有効な教え方はない!


この実戦の教えにより、彼は見事

相手に呼吸を合わせること呼吸を自在に使うことを体得する


そのことは取り立てて説明がなくても、うたとの連弾シーンの素晴らしさが物語っている


この辺の描写は非常に説得力があり私は納得した次第。


主人公のうたを演じる成海璃子嬢生まれたての赤ん坊のような存在感もすごい。


神童⑦

インタビューで


女優の神童と呼ばれていますが?


という質問に対し


私は全然違います(笑)。がんばった分がそのまま出るだけです


と言い切る謙虚さがよい!

その後はこう続く


努力に勝る天才なし”という言葉があるように、

世の中で天才と呼ばれている人たちも、きっとみんな努力しているんだと思います


とても14歳とは思えない発言。

大人だなあ。


目覚ましテレビでのインタビューでも

アナウンサーに「・・・14歳ですよね?」と聞かれていたっけ。


神童⑤

そんな彼女は神童の名に相応しい、危うさと無邪気さと狂気と神秘性を具えた天才を見事体現。

色気がありますね、この娘は。


ただピアニストの役なのだから、もうちょっと演奏面での天才振り明確に明示する場面があっても

よいと私は感じた。

もっとうた演奏シーンが観たかった。

成海嬢自身がピアノ経験者であるのだから、その辺をもっと生かしたシーンが欲しかった。


神童②

ラストのオーケストラとの共演は文句なく素晴らしかった。

彼女がワオに抱く恋心とか嫉妬とか言葉に出さない気持ちはこちら側にも上手く届いたように思う。


神童④


ピアノが好きでただ無心に、ムキになって練習するワオの姿に、かつての自分

振付がどうしても覚えられなくて、真夜中の公園で汗まみれになって練習したことなど

を思い出したり、


うたが沢山のピアノの中から一番音の良いピアノを見つけるシーンの心地よさに魅せられ


うたワオの関係にレオンマチルダの関係を重ねたり、


神童⑥

好きなシーンも多かった。


脇役にも芸達者を揃えた無敵の布陣

吉田日出子串田和美と元オンシアター自由劇場の看板ふたりが揃って出演というのは

かつての舞台ファンには嬉しいサービス。


そのほかワオの父親役柄本 明の内に秘められた息子への愛とか

母親役キムラ緑子の優しさとか舞台出身の俳優のサポートも心に残る。


うたの過保護な母親手塚理美亡き父親西島秀俊父の親友甲本雅裕の好演も忘れられない。


ピアノの旋律に導かれ、心癒されるひと時を味わえる一品。

ピアノの音色が好きな人には特にお薦め。


いやあ、ピアノのって本当にいいもんですねえ


神童 チラシ


P・S

映画を見ながらずーっと思ってたんですが

松山ケンイチって藤井 隆に似てませんか?