それからしばらくは毎回、とても憂鬱な気持ちで食堂に行っていました。
他の患者さんたちは、まだ私のほうを、ちらちら見たりしていましたが、近くの席の人と楽しく話したり笑ったりしながらも食べていました。
毎日毎日、食堂に行くのが本当に嫌だな、そう思っていた私でしたが、だんだんとこの状況に慣れてきたのか、
(今、私がこうなのは仕方ない。すごく恥ずかしいし、じろじろ見られるのも嫌だけど、そんなことばっかり思っていてもしょうがない。もう、こんななら恥ずかしいことなんてないんじゃないか
今の私は自分で食べることも出来ないし、声も出せないから話すことも出来ない、うなずくことしか出来ないけど、せめて笑顔でいようかな)

なぜだか、そう思いました。
それから私は、食堂に行くと、なるべくにこにこしているように心がけました。
食堂の真ん中辺りに、いつも眉間にシワを寄せて不機嫌そうな顔で私の方をちらちらと見ているおばさんがいました。
私は、何でいつもこっちばかり見るんだろう
そう思っていたのですが、ある日、その方が食事が終わり部屋に戻るために私の横を通ったときに話しかけてくれました。

「ごはん、食べられた
」

私は、びっくりしたけれど、にこにこしながらうなずきました。
それからその方は毎日、部屋に戻るときに私に話しかけてくれるようになりました。
うどんを打つのが得意なので、今後、うどんさんと呼ばせていただきます

これがうどんさんとの出会いでした。
すると不思議と他の患者さんたちも、部屋に戻るときに私に一言、二言話しかけてくれるようになりました。
「ごはん、食べられた
」

「ごはん、終わり
」

「いっぱい食べな
若いんだから、どんどん良くなるよ」

などなど。
患者さん同士の会話も、面白いことが多いのに気づきました。
そしてもうひとつとても驚いたことは、みんな自分も病気でリハビリしているのに、いつも誰かが困っているとすぐに手をさしのべること、大丈夫
と聞いたりしてあげることでした。
