いつからこんな情けない言い草が、大手を振って歩き回るようになったのだ。

ただでさえこのクソ暑いのに、まったく、感情を逆なでするにもほどがあるだろうが。

 

「だけど、それってあなたの感想ですよね」

 

おい若者、みんなが並んでいるバス待ちの行列というのはな、後に来た奴が一番後ろに並ぶんだ。

お前がやっているのは、割り込みというやつなんだよ。

それを言うに事欠いて「あなたの感想」とはどういうこった。感想じゃねえよ、常識なんだよ。

 

「常識って言うけど、そんなの誰が決めたんですか。おかしくないですか」

 

注意じゃ終わらないようだから、本気で対決しようと心に決めた。

 

「おかしくはないよ、常識は誰かが決めるもんじゃないから常識なんだよ。最後の人は一番後ろに並ぶのが常識、割り込みはしないのが常識」

 

6人か7人か。行列全体が、このやり取りに聞き耳を立てているのがひしひしと分かる。

 

「並んでるっていうわけじゃないじゃん、みんなだらだら集まってるだけじゃん」

 

開き直った割り込み男、ちょっとこわもての身なりもあってか、そんな暴論に誰も声をあげようとしない。バスはなかなか来ないし、もう引っ込みがつかない。

 

「いいから後ろに回れよ。そういう言い草はうっとうしいよ」

 

相手が気色ばんだので、これは何十年ぶりの取っ組み合いになるかと覚悟したその時、割り込み男の前にスッと割り込んだ女子高生が。

 

「何よ」

 

割り込み男はたじろいだが、女子高生は無言のままダルそうに携帯扇風機を顔に当てている。

 

「入んなよ」

 

割り込み男が抗議すると、女子高生は

 

「だって、並んでないんですよね」

 

「俺は並んでるよ。俺はそういう気持ちだよ」

 

割り込み男のぶざまな反論である。

 

「それって。あなたの感想ですよね」

 

女子高生が言い放つと、みんな静かになってしばらく無言で突っ立たままになった。

女子高生はそのあと、ゆっくり歩いて最後尾に並び直した。

割り込み男はいつの間にかいなくなっていた。