昨年から、友人の勧めで文楽を見るようになりました。

 

人間によって遣われる人形は台詞を話しません。三味線の音に合わせて語るのは太夫。人間国宝の竹本住太夫はインタビューで、文楽におけるピッチャーは太夫、キャッチャーは三味線弾き、野手を務めるのが人形遣いと表現しています。歌舞伎の主役は明らかに役者ですが、文楽の主役は太夫です。

 

観客は人形の動きを追いながら、義太夫と三味線、囃子方が奏でる音色を味わいます。驚くべきは文楽の音楽性の高さです。引退を表明した住太夫の語りをどうしても聞きたくて、先日、大阪の国立文楽劇場に「菅原伝授手習鑑」を見に行きました。「桜丸切腹の段」では、住太夫が主君失脚の責任を取って切腹する庶民の悲しみを住大夫が語りました。住太夫の語る念仏を聞きながら、久々に落涙しました。文楽の音楽性はオペラに負けていません。

 

文楽におけるもう一つの衝撃は、人形が表現する人情の機微です。写真は、友人である吉田勘彌さんに文楽の舞台裏を見せて頂いた時のものです。驚いたのはその重さ。十キロはありそうな人形を遣いこなすには大変な体力を要します。

 

 

文楽では、一人の人形を主遣い、左遣い、足遣いの三人で遣います。主遣いになるには足十年、左十五年の修行が必要と言われています。足と両手を別々の人物が遣っているとは思えない人形のリアルな動きは、師匠と弟子の信頼関係なくしてはあり得ません。「菅原伝授手習鑑」では、これまた人間国宝の吉田蓑助が遣った桜丸が見事でした。

 

文楽以外にも、能、狂言、歌舞伎などはわが国の誇るべき伝統芸能です。言語の問題さえ乗り越えれば、落語も面白い。華道、茶道、書道は言うに及ばず。漢字から平仮名、片仮名を発明した文字文化、仏教、儒教は大陸から取り入れ、わが国で花開きました。これぞ日本文化の真骨頂。もちろん、和食と食文化は間違いなくユニバーサル。鈴木忠志さん、平田オリザさんなど、演劇も世界で通用します。ものづくりも、もはや日本文化と言っていいでしょう。

 

国力も経済力も究極的には文化力に依存しています。自誓会の政策集で提示したのは「文化環境立国」。これからも楽しみながら、世界とわたりあうことのできる日本の文化を探していきたいと思います。