先日、久々に休日が取れた。

 

昨年末の総選挙、年始の代表選挙、国会と続いたため、前回の休みが思い出せない。落語でも聞こうと出かけたところ、目当ての落語会は満員札止め。さすが、人間国宝の柳家小さん治師匠。私のお目当ては、遅咲きながら面白さに磨きがかかってきた立川生志師匠だったのだが。   

 

気を取り直して久々に上野へ。上野公園では、うまいとは言い難い若い大道芸人たちが頑張っている。ふと、学生の時に家庭教師をしていた小西君のことを思い出した。演劇をやっていたけど、元気にしてるかな?   

 

公園をそぞろ歩きしていると、『ダブル・インパクト』というポスターが目に飛び込んできた。東京芸大とボストン美術館共催の「明治ニッポンの美」の展示。展示会名もモダンでポスターもインパクトがある。絵画鑑賞は得意ではないが、面白そうな予感。   3階の展示室に入ると、浮世絵が日本画に変化した様子が手に取るように分かる。私が魅かれたのは、岡倉天心の弟子である下村観山。横山大観の絵は教科書でも見慣れているが、観山の絵は初めて。   

 

『大石内蔵助』の腹の出方はうつけ者そのものだが、眼光の鋭さは失われていない。『臨済僧』の表情は、自力を重んじる禅の厳しさを表す。下村観山が能の小鼓の家柄だとは知らなった。『熊野御前花見』の生き生きとした人物描写には、しばらく見入ってしまった。

 

「熊野(くまの)へ花見に行ったんだっけ?」と妻に聞いたところ、熊野(ゆや)は花見に行った姫の名前だと一喝される。能の謡を始めて一年たつが、通には程遠い。  


 

地下に移動すると、いきなりポスターになっている『神武天皇立像』の実物が登場。圧巻の迫力。威厳に満ち、前に行くと背筋が伸びる思いがする。その表情は、横に展示されている明治天皇の『大元帥陛下御真影』とそっくり。当時、小学校で展示されたという御真影が作者不詳であるというのも興味深い。権力に利用される芸術は少し寂しい。 

 

もう一つ、印象に残ったのは蒔絵の細工。実用的だとは思えないも手箱などに、あれだけ見事な細工を施した芸術性は秀逸。江戸幕府の加護があればこそ。政府の現在の保護体制は疎かになってはいないだろうか?   『ダブル・インパクト』は5月17日まで。お勧めです。 

 

夜は谷中で、楽しみにしていた『ネーモー・コンチェルタート』のコンサート。能の謡の稽古でご一緒している辻康介さんが主宰。

 

私は、ヴェルディ、プッチーニの時代のオペラの大ファンだが、辻さんが歌うモンテヴェルディに代表される1600年代の音楽をゆっくり聞くのは初めて。 

 

サックスとチェンバロと詞を大切に歌う辻さんの組み合わせが絶妙。聞き覚えのある『オ・ソレ・ミオ』などのカンツォーネ、トリの『オルフェオ』など、大いに楽しめた。鈴木広志氏のサックスの音色の多様さには舌を巻いた。作曲も担当しているチェンバロの根本卓也氏は、新国立劇場のオペラの指揮者の補助をしているとのこと。都響の音楽監督に凱旋してきた大野和士氏の指揮は実に情熱的で楽しい。ナイスキャラの根本さん。今後の活躍に期待したい。

 

初期のオペラは詞に様々な意味を込めて歌ったとのこと。たしかに、辻さんの歌からは伝わってくるものがあった(一部、日本語にして歌ってくれます)。私の馴染んできたイタリアオペラは迫力のあるアリアで押してくる。その違いは、能と歌舞伎の違いに近いものがあるかもしれない。

 

いつもは、神妙に謡に勤しむ辻康介さん。今日は、実に魅力的でサービス精神旺盛。私の音楽の趣味は個人への興味から入ることが多い。邪道かも知れないが、その方が素直に音楽に入って行ける。

 

 最後は本屋に寄っておしまい。赤坂の某本屋は今一つインスピレーションが湧かないところだが、『別冊宝島 鳥獣戯画の謎』が目に入った。今日は大当たり続き。「自誓会」は、京都栂尾高山寺の中興の祖である明恵上人の言葉から取った。東京国立博物館で鳥獣戯画が公開されるのは4月28日から。行けるかな~。