岩波明『文豪はみんな、うつ』読了。



「文豪」好きで、自分自身が「うつ」を患っている私には、この本は放っておけなかった。
だが、読後気分のいい本ではない。
表紙にある十人の文豪について、その生涯を紹介し、作品や手紙、周りにいた人間の書いた証言などから、各人が罹患していた精神疾患を精査するという内容である。
単に発狂したとか他の疾患と診断されていたものを、筆者の分析で「うつ」「躁うつ」「統合失調症」「パニック障害」など今で言うところの病名にかたづける。
そこには情を挟まず淡々と事実に基づいた診断を書いています的な、だからなんだかは読者が感じてよ的な、ある種突き放すような読後感。
あとがきで「本書が文学をひもとこうとする読者への適切な道案内となることを願ってやまない。」と書いてあるけど、そういうふうには全く読めない。
ああ、作品を読みたい❗となったのは以前このブログで紹介した『文豪の死に様』のほうだ。
本書で喚起されるのは作品への興味というよりは文豪の過ごした「時代」「社会」「空気」への興味。
島田荘司による巻末の解説が鋭い。
無頼の人と誤解されがちな太宰治を擁護しているところに、太宰好きな私としてはまず意外感と共感を持ったのだが、
文豪たちの書いた自然主義的文学作品と現代の本格ミステリームーブメント、
それはどちらも社会が書かせたものであり、
大衆が要望したものであるという論に驚く。
日本人というものが持つ闇、日本という国にかかる厭な雲、それらに弄された文豪自身の生涯を覗くとき、作品を読む以上に時代の鏡として心に届く、
そういう意味で本書は意義深い情報源であると言っている。