アメリカ議会での安部首相の演説をめぐる外務省の英語力 (3)
America and I
Ladies andgentlemen, my first encounter with America goes back to my days as a student,when I spent a spell in California.
外務省訳:私個人とアメリカとの出会いは、カリフォルニアで過ごした学生時代にさかのぼります。
なぜかfirst が抜けているので、「最初の出会い」となる。「出会いは私の学生時代にさかのぼり、その当時、カリフォルニアで一時期を過ごしたことがありました」。
A lady namedCatherine Del Francia let me live in her house. She was a widow, and alwaysspoke of her late husband saying, “You know, he was much more handsome thanGary Cooper.” She meant it. She really did.
外務省訳:家に住まわせてくれたのは、キャサリン・デル-フランシア夫人。寡婦でした。亡くした夫のことを、いつもこう言いました、「ゲイリー・クーパーより男前だったのよ」と。心から信じていたようです。
much more とあるから「ずっと」や「はるかに」となる。meantを「心から信じていた」と訳しているが、「本気でそうおっしゃっていました」という感じか。「冗談ではなく、本気でそういっていた」という意味あいであろう。She really did. が訳されていないが、「本当です」という感じ。
In the gallery,you see, my wife, Akie, is there. I don't dare ask what she says about me.
外務省訳: ギャラリーに、私の妻、昭恵がいます。彼女が日頃、私のことをどう言っているのかはあえて聞かないことにします。
聴衆を和ませるために言ったジョークか?クーパー以上にハンサムな旦那と較べたら、自分はなにほどのものでもないということを言いたいようである。ただ、「日頃」に相当する副詞が原文にはない。「彼女が私のことをどう言っているのか聞いてみる勇気などはありません。」
Mrs. DelFrancia’s Italian cooking was simply out of this world. She was cheerful, andso kind, as to let lots and lots of people stop by at her house.
They were sodiverse. I was amazed and said to myself, "America is an awesomecountry."
外務省訳: デル-フランシア夫人のイタリア料理は、世界一。彼女の明るさと親切は、たくさんの人をひきつけました。その人たちがなんと多様なこと。「アメリカは、すごい国だ」。驚いたものです。
simply の訳が抜けているが、「本当に」、「まさに」という意味。「デル-フランシア夫人のイタリア料理はまさに世界一でした。」
「彼女の明るさと親切は、たくさんの人をひきつけました。」とあるが、「夫人は明るく、思いやりがあり、そのため、本当に多くの人たちが夫人の家に立ち寄っていました」となり、安部首相が当時の下宿先の家の様子を語っているところ。
「その人たちがなんと多様なこと。「アメリカは、すごい国だ」。驚いたものです。」とあるが、「その人たちは実に多様なものでした。私は驚き、「アメリカは凄い国だ」と自分なりに思ったものでした」となる。外務省訳でははっきりしないが、say to myself は「自分の心のなかで思う」という意味だろう。独り言をいったわけではない。
Later, I took ajob at a steelmaker, and I was given the chance to work in New York.
Here in the U.S.rank and hierarchy are neither here nor there. People advance based on merit.When you discuss things you don’t pay much attention to who is junior orsenior. You just choose the best idea, no matter who the idea was from.
外務省訳:のち、鉄鋼メーカーに就職した私は、ニューヨーク勤務の機会を与えられました。
上下関係にとらわれない実力主義。地位や長幼の差に関わりなく意見を戦わせ、正しい見方なら躊躇なく採用する。
Here in the U.S. が抜けており、「ここアメリカでは」となる。いきなり、「上下関係にとらわれない実力主義」とあるが、「地位や上下関係はまったく問題にされません。人々は実績に応じて昇進します。」となる。neither here nor thereは「取るにたらない」という決まり文句。
「地位や長幼の差に関わりなく意見を戦わせ、正しい見方なら躊躇なく採用する。」と訳しているが、この箇所では「地位」は出てこない。「物事を議論するさいは、誰が年下か年上かは気にしません。最善のアイデアを選択すればいいだけで、そのアイデアを誰が発したのかは問題となりません」となっている。
This cultureintoxicated me.
So much so,after I got elected as a member of the House, some of the old guard in my partywould say, "hey, you’re so cheeky, Abe."
外務省訳:――この文化に毒されたのか、やがて政治家になったら、先輩大物議員たちに、アベは生意気だと随分言われました。
最初に、ダッシュの「――」が入っているが、意味不明。「この文化に毒されたのか」とあるが、「この文化が私を酔わせました。それが高じて、衆議院議員に選挙で選ばれた後、私の党の古参議員の何人かが、「おい、安部、お前、生意気すぎるぞ」といったものでした」となる。
「政治家」にあたる英語や「大物議員」にあたる英語は原文にはない。ここでは「アベ」とカタカナになっているが、安部夫人である昭恵は「昭恵」で「アキエ」となっておらず、統一性に欠けている。
(続く)