人獣共通感染症とは、「ズーノーシス(Zoonosis)」ともいい、動物から人間、または人間から動物に感染する病気の総称です。
新型コロナにワンちゃんが感染した報道があったことから「感染症」と聞くと不安になる飼い主さんもいるかもしれません。しかし、むやみに怖がらず、対策や対応を知っておくことが大切です。
この記事では、ワンちゃんとの人獣共通感染症の一部を紹介、予防方法や対策を解説します。
人獣共通感染症とは?
動物も人も発症する病気が人獣共通感染症です。厚生労働省では、人間の健康問題として捉え「動物由来感染症」と呼んでいます。
人獣共通感染症の病原体は、ウイルスや細菌だけではありません。回虫などの寄生虫、トキソプラズマなどの原虫、カビなども原因です。細菌の一種であるリケッチア、クラミジアも感染症を引き起こします。
実は世界中で、今もさまざまな感染症が見つかっています。環境省の2021年の資料によると、WHOが確認している世界の感染症はなんと200種類以上。今後も新しい感染症が見つかるでしょう。
日本は、家畜衛生の対策が進んでいます。また、島国であり、国民の衛生観念の意識が高いこともあって比較的人獣共通感染症が少ないそうです。しかし油断は禁物。感染予防を行いましょう。
ワンちゃんが関係する人獣共通感染症の代表的な病気
ワンちゃんも飼い主さんも感染する恐れがある代表的な病気を紹介します。
狂犬病
概要
狂犬病ウイルス感染が原因です。すべてのほ乳類が感染し、発症した場合ほぼ100%が死に至るといわれています。日本では、予防接種の実施により1957年以降発症例がありません。
日本は狂犬病の清浄国のひとつでもあるため、狂犬病予防注射は必要ないのではと思うかもしれません。
しかし清浄国・地域はオーストラリアやニュージーランド、ノルウェーなどスカンジナビア半島の一部の国など、ごく一部です。世界では今も多くの地域で発生し、多くの人が命を落としています。それらの国から不法な動物の輸入などで、日本に侵入してくる可能性もあるのです。
感染経路と症状
咬まれた部位から、だ液を通してウイルスが入ります。最初の症状は、食欲の低下や発熱、咬まれた部位の痛みなどです。その後、水を怖がるようになり、興奮や麻痺、幻覚、錯乱状態がみられます。やがて昏睡期に入り、ほとんどの場合亡くなります。
予防方法
ワンちゃんの予防注射です。予防接種はワンちゃんだけでなく、人間のためでもあります。そのため、狂犬病ワクチンは「狂犬病予防法」により、毎年受けることが義務付けられているのです。集団接種が苦手なワンちゃんは、個別に動物病院で受けることも可能です。かかりつけの動物病院で相談してくださいね。
回虫症
概要
「回虫」という寄生虫に感染して発症します。
感染経路と症状
回虫に感染したウンチを、触ったり、口に入れたりすることで感染します。牛・豚・鶏など生のレバーや無農薬野菜の洗浄不足からも感染するケースもあります。
ワンちゃんはあまり症状が出ないようです。しかし、子犬に多くの回虫が寄生すると、お腹が膨れたり、食欲が低下して元気がなくなったりします。嘔吐や下痢も症状です。
人間に寄感染した場合は、回虫は幼虫のまま体内を移動することが特徴です。「内臓移行型」「眼移行型」「皮膚迷走移行型」など、寄生する部位によって症状が異なります。
治療方法と予防方法
ワンちゃんは必ず糞便検査を行い、陽性だったら駆虫します。公園などで、ほかのワンちゃんのウンチを食べさせないようにしましょう。生肉を与えないことも大切です。
飼い主さんは、小まめに手を洗いましょう。とくに小さなお子さんは、いろいろなものを触るので注意が必要です。
イヌブルセラ病
概要
小型のグラム陰性桿菌(いんせいかんきん)のひとつ、ブルセラ属菌による感染症です。ワンちゃんが集団で暮らす場で感染が起きやすく、ときどきブリーダー施設やペットショップなどで流行がみられます。
感染経路と症状
ワンちゃん同士の接触で感染します。ワンちゃんの症状は、主に生殖機能に現れることが特徴です。オスのワンちゃんは、精巣炎や精子の異常を生じ、不妊なってしまいます。メスのワンちゃんの症状は主に流産や不妊です。
人間には感染しにくいといわれていますが、感染すると風邪のような症状やリンパ節の痛みのほか、支離滅裂なことを口走ったり叫んだりなど異常行動も示す場合があります。
また、衛生状態の悪い国で作られた乳製品にブルセラ属菌が含まれるケースもあるので、注意が必要です。
治療方法と予防方法
治療は、抗生物質の投与がメインです。予防のワクチンはありません。流産したワンちゃんは、動物病院で診察を受ける必要があります。人間の予防方法は、ワンちゃんとの過剰な触れ合いを避けることです。
カブノサイトファーガ感染症
概要
ワンちゃんやネコちゃんの口の中に常在している細菌が原因です。細菌の種類は3種あり、カプノサイトファーガ・カニモルサス、カプノサイトファーガ・カニス、カプノサイトファーガ・サイノデグミです。
感染経路と症状
咬まれたり、ひっかかれたりすることが原因です。中には、傷口をなめられて感染する人もいます。ワンちゃんに症状は出ません。
人間への感染はあまりないと考えられていますが、免疫が低下している人に発症しやすいため油断は禁物です。
感染した場合、倦怠感や発熱、吐き気や頭痛などインフルエンザのような症状がみられます。重症化すると、敗血症や髄膜炎、多臓器不全など重篤な症状を起こすことがあります。
治療方法と予防方法
抗菌薬による治療が行われます。予防は、ワンちゃんに触れ合ったあとの手洗いです。とくに傷口をなめられた場合は、ていねいに洗ってください。咬まれたら、念のため受診しましょう。
ワンちゃんも飼い主さんも健康に過ごすために
ワンちゃんも飼い主さんも感染症にかからないために、次のことに注意しましょう。
とくに免疫力の弱い小さなお子さん、お年寄り、妊婦さん、基礎疾患を持っている方は十分注意してください。
手を洗う
ワンちゃんと触れ合ったあとは必ず手を洗いましょう。今は、新型コロナの予防で手を洗う習慣が付いていると思います。こまめな手洗いは、感染予防の基本です。
触れ合いは適度に
ワンちゃんがかわいくて、キスをしたくなるかもしれません。しかし過剰な触れ合いは禁物。お箸やお皿を共有しないことも大切です。お風呂やお布団も一緒に入らない方がいいでしょう。
ワンちゃんは清潔に
こまめにブラッシングを行い、定期的にシャンプーをします。ワンちゃんがいつも過ごす場所や寝床も清潔に。敷物は洗って天日に干すよう心掛けてください。ただし、シャンプーや消毒のやりすぎには気を付けましょう。
生肉は与えないで
生肉は、寄生虫や細菌に感染している可能性が高いです。お肉を与える場合は、十分に火を通したものを食べさせてください。
咬まれたら病院に行く
どんなにおとなしいワンちゃんでも、何かのはずみで咬む可能性があります。咬まれたらすぐにきれいな水で洗い、病院を受診しましょう。
ワンちゃんは定期健診を受ける
飼い主さんが気付かないうちに、感染しているケースもあります。何も症状がなくても、ワンちゃんは定期的な健康診断を受けましょう。また、狂犬病予防注射は飼い主さんの義務です。毎年必ず受けてください。
体調不良が続くときは受診する
ワンちゃんも飼い主さんも、体調不良が続く場合は病院を受診しましょう。感染症は、風邪のような症状の場合もあります。飼い主さんが受診する際は、ワンちゃんを飼っていることをお医者さんに伝えてください。
まとめ
ワンちゃんも飼い主さんの健康を守るためにも、人獣共通感染症を理解し、予防のための適切な対応をしましょう。基本はキスなどの過剰な触れ合いを避け、こまめに手を洗うこと、そしてワンちゃんの周囲を清潔に保つことです。
体調不良や不安なことがあったら、ワンちゃんも飼い主さんも早めに受診することも大切です。
もっと詳しく知りたい飼い主さんには、厚生労働省のハンドブックがおすすめです。
参考資料
人獣共通感染症ハンドブック ペットとあなたの健康 メディカ出版
人獣共通感染症 | 犬猫の病気 | ペット | その他情報提供|公益社団法人 栃木県獣医師会 (tochigi-vet.or.jp)
人獣共通感染症(ズーノーシス)/ブルセラ症 <犬> | みんなのどうぶつ病気大百科 (anicom-sompo.co.jp)