「裕樹、明日の自由行動。一緒に行かないか?」
明日は市内観光がある。ここはわりと知れた有名スポットだ。楽しい市内観光になりそうだな。
しかし、行動班はもうすでに決まっていたはずだ。部屋ごとに班が決まっていて、匠と俺は違う班である。
「お前、班抜け出して俺たちだけで行くってことかよ?」
「うん。俺さ、この班の連中とあんまり仲良くないんだよね。それにクラスで一番仲いいの裕樹だし、他に頼めるやついないんだ。・・・君しかいないんだ・・・」
おいおい、マジかよ。こんな男二人で街を回るのは初めてだし、なんだか恥ずかしいような気もしたが、そんな潤んだ瞳で見つめられたら俺だって頷くことしかできんじゃないか・・・。
「やった!ありがとう!!!」
匠の満面の笑顔だった。こんな笑顔は教室では見たことがなかった。子供のようにはしゃぐ匠は俺の心を和ませる。
しばらくして、匠は制服から部屋着へと着替え始めた。流石は運動部というところだ。剥き出しになった匠の上半身は男の俺から見ても、惚れ惚れするほど絞られていた。
匠は制服をハンガーに掛けるために、こっちに向かってきた。
しかし、次の瞬間、予想だにしないことが起こった―。
匠は自分のバッグの肩紐に足を引っ掛けこっちに倒れてきたのだ。
そこに、待っていたかのような絶妙なタイミングで同じクラスの谷川が部屋に入ってきた。
「♪わわわ忘れ物~・・・Σ(゜ロ゜〃)!お前ら何してんの!!」
谷川は俺達の有様を見るや否や、父親が女装しているのを現行犯で見つけてしまったような顔になった。
今の状況を確認してみる。
上半身裸で俺に覆いかぶさっている匠。どう見ても一線を超えている。
「あっ、ちちっ違うんだ!これはその・・・」
全身から汗が噴出し、ろれつも回らない。
「俺が着替え中につまづいただけだよ」
匠!ナイスフォロー!!
すると谷川は
「何だ。てっきりホ○かと思ったよ。同じクラスにそんなやつらがいたら、ドン引きだよな。ハハハ」
俺が一安心して匠の顔を見ると、何故か匠は怒ったような、困っているような不思議な顔をしていた。
「あった、サイフサイフ。そうだ、もうそろそろホテルの説明みたいのがあるからエントランスに集合しろって先生が言ってたぞ」
「あー、わかった」
谷川が部屋を出て行く。
残された二人の間に気まずい空気が漂った―。
宿泊学習一日目が終わろうとしていた。今日は、俺の目当ての行事は特になかった。
俺は布団にもぐり、今日あったことを思い出す。
部屋には他に何人もいるのに俺は一人で眠りに落ちた。


