慣れてくると、浅草へ地下鉄で着き、
トイレで用を足し、身だしなみを整え、
一旦、ベンチで休憩。
時間を確認して、ホワイトボードを抱え、
観光客の間をすり抜けて、人力車スタッフへ
軽く会釈しながら、観光案内所前へ着き、
アンパンマンレジャーシートを解き、
設営を開始し、終えるまでの手筈や段取りも
板についてきて素早くなります。
その日もまた、
情け容赦のない暑さで、大勢の観光客で
浅草は大賑わい。
そんな中、どう見てもテレビ業界人達が、
何人も観光案内所前を行き来しているのです。
どう考えても、何かありそうな気配。
時間が経過するたび動きは盛んとなり、
正午を回ると、テレビカメラも数台登場、
そして向こう側に駐車していたロケバスから、
出演者が現れたのです。
誰か、遠目でも一目瞭然でした。
真っ赤な衣装、そうテレビでお馴染みの、
カズレーザーさんだったのです。
雷門前をご存じ無い方に説明しますと、
まず雷門前は歩道が、大通りを挟んだ、
対面の観光案内所前より、かなり狭く、
そこへ観光客が押し寄せるため、
いつも混雑しており、
おそらくお昼の
情報番組の生中継なのでしょうが、
雷門前での中継など、
物理的にまず不可能であるため、
最初から通りを挟み、
歩道が広い観光案内所前から、
中継する手筈となったに違いありません。
信号を渡り、やってきた真っ赤な人気者。
こうして赤と黄色は初めて遭遇したのですが、
当然、真っ赤の圧勝。
人気者の登場に大勢の人が群がり、
私の前には閑古鳥が鳴いておりました。
大勢の群衆に囲まれ、
中継を行い、終えたカズレーザーさんは、
こちらを一顧だにすることなく、
信号を渡ってロケバスへ戻り、
すぐに立ち去って行かれました。
赤と黄色を隔てていた距離、約15メートル。
この時の私には、15光年に感じられました。
私に残された時間は、それほど多くありません。
果たして私はわずか数か月という時間で、
この距離を縮められるでしょうか?
それとも広げられるでしょうか?
変化しないのでしょうか?
私とカズレーザーさんは、明らかに
市場がカブる、避けて通れない人。
そう、必ず倒さなければならない相手、なのです。
そうでなければ、永遠に知の大巨人の前へ、
躍り出ることはできませんから。
<続く> バッタもん