ビジネス環境

企業が事業を展開するビジネス環境は、地域、場所、市場などによって異なり、これらの違いは、特定の企業に適した開示項目に影響を与える可能性があります。たとえば、テクノロジー・コミュニティーセクターに属するインターネット メディア & サービスの SASB 基準には、知的財産保護と競争行動に関する開示項目、それに関連する指標として(1)特許訴訟件数、勝訴件数、特許権保有者としての数、(2)反競争的取引慣行に関連する法的および規制上の罰金および和解金の額があります。 一部の市場では、インターネットメディア・サービス企業は寡占的な力を持っている可能性があるため、競争行動に関連するリスクに直面する可能性があります。しかし、他の市場は寡占が難しく、競争が激しいかもしれません。競争の激しい市場にいる企業は別の市場で寡占している企業とは異なるサステナビリティの特徴を持つことになります。

 

規制の環境

企業が事業を行う規制環境も管轄区域によって大きく異なり、地理的なフットプリントが異なる企業に対して、さまざまなサステナビリティリスクと機会を提示します。たとえば、農産物産業のSASB基準開示項目に公正な労働慣行と労働力の安全衛生があります。それに関連する指標として公正な労働慣行のために認定された農場および施設の割合、(a)正規従業員と (b) 季節および移民の従業員のそれぞれに対する(1)TRIR(Total Recordable Injury Rate)(2)死亡率(3)NMFR(Near Miss Frequency Rate)の数値。そして定性的な指標として正規従業員、季節従業員、移民従業員が農薬に接触ことに関してのアセスメント、計測、削減の取組の説明を開示します。農産物産業では、人的資本は重要なインプットです。しかし、多くの国では、農業従事者の一部の分野だけが国の法律、保険、または職場の傷害給付によって保護されており、法律が行き届いていません。労働者の権利が法律で十分に保護されていない国で事業を展開する農産物会社は、公正な労働慣行に関連する問題による予測不可能な財務的影響に直面する可能性があり、その結果が急性で深刻な事象につながる可能性があります。(例: 死亡、訴訟、労働現場の混乱) 労働者の権利が十分に保護されている地域で事業を展開する企業は、同じような事象に直面する可能性が低いことが考えられます。

 

政治情勢

国や地域の政治情勢は、そこで事業を行う産業や企業にも影響を与える可能性があります。政治情勢の影響の多くは腐敗に関連しています。政治的腐敗が起こりやすい地域で事業を展開する企業は、事業の透明性に対するリスクに直面しています。たとえば、航空宇宙および防衛産業の開示項目には企業倫理があります。それに関連する指標として、汚職、贈収賄、違法な国際貿易の事件に関連する法的および規制上の制裁金および罰金の金額、「Band of Transparency International’s Government Defense Anti-Corruption Index」で「E」または「F」にランクされた国からの収入額、バリューチェーン全体で企業倫理リスクを管理するプロセスの説明(定性的指標)の3つがあります。グローバルで事業を展開する航空宇宙・防衛産業は、特に腐敗防止規制や贈収賄防止規制に違反する傾向があります。このような法律の違反は、多額の罰金、制裁、民事および刑事罰を引き起こし、桁外れの費用と偶発的債務を生み出す可能性があります。規制措置は特定の管轄区域での業務を抑制する可能性があり、実際または疑わしい違反は、企業の評判とビジネス能力を損なう可能性があり、収益と長期的な成長見通しに影響を与えます。規制に違反した過去を持つ企業は、リスクプレミアムの向上により、資本コストの上昇にも直面する可能性があります。一方、腐敗が少ないと言われている地域でのみ事業を行う航空宇宙・防衛企業は、企業倫理に関連する異なるリスクプロファイルになる可能性があります。

 

経済情勢

企業の事業に影響を与える経済情勢は地域、国によって大きな違いを生み出します。たとえば、ホテル&宿泊業の開示項目にはエネルギー管理があります。それに関連する指標として総エネルギー消費量(GJ)、グリッド電力の割合、再生可能率(%)の開示をします。ホテルや宿泊業の会社は、一般的にエネルギーに大きく依存し、消費しています。エネルギー効率を向上させながら同時に高水準のサービスを維持できるホテル会社は、運用コストを削減し、長期的なリソースの可用性の制約によって生み出されるリスクを軽減できます。一方、あるホテル会社が電力の殆どが天然ガスで発電されている国ですべての事業を展開している場合はこの会社にとって、エネルギー管理の問題は、事業に重大な影響を与える可能性がはるかに低くなります。

 

時間に関する考慮事項

内部要因と同様に、外部要因も時間の経過とともに変化するため、企業の業務環境も変化します。SASB基準は、進化する市場を反映するために定期的に更新されますが、ユーザーは、企業の外部環境がどのように変化しているか、そしてこれらの変化が企業のユニークな状況を同じ業界の同業者とどのように異なるかを考慮する必要があります。

 

 (つづく)