さて、パリの旅行記も書かずに今日のコンサートのレポートでも。


今回行ったのは世界的にもメジャーな国際音楽祭の

“Luzern Festival”の夜のプログラム。

世界中(主にヨーロッパ)からいろんな指揮者や演奏者が来る、1ヶ月ほどの音楽祭です。


KKLセンターでの今夜のプログラムは、


指揮: Antonio Pappano - アントニオ・パッパーノ

演奏: Accademia Nazionale di Santa Cecilia - ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団

曲目: Gioachino Rossini

     Overture to “Guillaume Tell” - ロッシーニ/ウィリアムテル序曲

     Felix Mendelssohn Bartholdy
Symphony No. 4 in A major, Op. 90 “Italian” - メンデルスゾーン/交響曲第4番「イタリア」

     Ottorino Respighi
Symphonic Poem “Feste Romane” - レスピーギ/交響詩「ローマの祭」


の予定だったのですが、マエストロパッパーノが最近手術してまだ復帰できないとかで、
急きょ今回の音楽祭に、クラウディオ・アッバードの付き人として来ていた
Diego Matheuz(ディエゴ・マテウス)の代振りに変更になったのです。

ベネズエラ出身の指揮者で、なんと同い年の24才!!!
なんかのだめカンタービレのエピソードにでもなりそうな状況ですね笑

で、プログラムもメインが変更になりました↓

     Pyotr Il'yich Tchaikovsky
Symphony No. 5 in E minor, Op. 64 - チャイコフスキー/交響曲第5番

正直プログラムと指揮者で興味を持ってチケットを買ったもので、

この変更を知らされた時は、かなーりショックを受けました。

チケットも二番目に高いやつだったし。。。


この手のパターンは、

1. 無難なパフォーマンスに終わる (60%)

2. 残念なパフォーマンスになってしまう (35%)

3. 伝説系のコンサートになる (5%)

と個人的に勝手に思っていたのです。




さて、

「ウィリアムテル」のチェロのソロ+アンサンブルでするっと始まったコンサート。

KKLの超良質の音響も相まって、最初のワンフレーズですでに空気感が完成され、

しょっぱなから鳥肌立ちっぱなし。

圧倒的なボリューム感のオケの響きと、着実な指揮で、

あっという間に一曲終了。

想像以上のパフォーマンスに会場はすでにどよめき気味でした。


続く「イタリア」は、

あまり彼の得意そうなオーケストレーションの曲ではなかったのですが、

無難にまとめたという感じ。

それでもオケの鳴らし方の多彩さは光っていました。


休憩をはさんで、メインのチャイコフスキーの大曲。

「ローマの祭」に比べてずっとメジャーで人気の曲なのですが、

イタリアのオケ、ベネズエラ人の指揮が、

ロシアのムワッとした感じにしっくりくるかかなり不安がありつつ、

でも、指揮者変更に合わせて入ったプログラムなので、

あわてて「ローマの祭」を間に合わせるよりも質の高い演奏に違いないと期待。


いざ演奏が始まると、

前半の2曲(特にメンデルスゾーン)に比べて曲の完成度が全く違って衝撃。

緻密かつ大胆な演奏で、

俯瞰的に曲の構成を感じさせるとか、そういうんじゃなくて、

ただただ一瞬一瞬の音楽が有機的に繋がって、

上質な短編小説を読み聞かせるように音楽が展開し、

45分くらいの曲のはずなのに本当にあっという間に終わってしまったという感じ。



全体を通じての感想は、

まずオケがすごすぎる。

噂には聞いてたダイナミクスレンジは想像以上のスケールの大きさで、

会場全体が息を殺すほどの蚊の音のような音も豊かに響きつつ、

風が吹き抜けるかのようなフォルテ(しかもすごく多彩)で、頭痛がするほとアドレナリン全開になりました。


今回気づいたのは、アンサンブルの感性が日本的(アジア的?)なものとは全く世界が違うということ。

軍隊の行進のような一糸乱れぬアンサンブルを目指さず、

パートごと、オケ全体で、個々の感じる音楽の流れの感覚を合わせていくという感じ。

たとえば木管のユニゾンとかでも、ザッツが合ってなくても、ちょっぴりピッチがあってなくても、

音楽のとらえ方の根っこを共有しているから、それも気にならないくらい息がぴったりあっていると言う感じ。


ごくたまにこの息が全体でかみ合わない瞬間があったのですが、

単純にスコアを追いかける感覚で聴いてたら大きなミスには聴こえないかもしれなくても、

音楽の緊張感がプツっと切れてしまうのが、聴いていてむしろ新鮮でした。


そして、指揮者のディエゴ・マテウスさん。

とにかく、若くて勢いあふれる指揮で、

特に、鬱状態から「魂の解放」的な解決を迎えるチャイコフスキーで、これが遺憾なく発揮され、

信じがたいくらい救いに溢れる(同時に悩みも恐ろしく深い)演奏でした。

同い年だなんて信じられない。

直感的な棒振りと、オケの実力も相まって、

音楽のとらえ方というか「こう演奏したいんやー!」というのが手に取るように明瞭で、

しかもそれが緻密かつ重厚。


演奏者も会場も始終いい雰囲気で、

演奏後のホクホクした様子といい、若い指揮者の大舞台のデビュー(厳密なデビューは去年だそうですが)を

みんなで祝福して、とにかく演奏自体にも温かい雰囲気にも涙の出るコンサートとなりました。


ブラボーが飛び交うのはもちろん、スタンディングオベーションも納得で、

開始前に偉そうに値ぶみして不安がってすいませんでしたと心の中で念じたのでした笑


今日からこの指揮者のファンを公言します。

今後めちゃくちゃ注目です。




と、忘れないうちにと書き散らかしてしまいましたが、

とにかく一生ものの思い出になるコンサートで、大満足。

実は今仕事がめちゃくちゃ忙しいんですが、

こんな夜もあるから明日からまた頑張れるというものです。