『 3つの願い 』


    著者:エリエリ




あるお家に可愛い子犬が誕生しました。


愛くるしく元気な子犬たちは、次々に新しい飼い主さんに引き取られていきましたが、1匹だけ白くて元気がない子は、いつまでたっても飼い主さんが見つかりません。





白い子犬は、山の中に捨てられてしまいました。


一人ぼっちで置き去りにされた子犬は、心細くて寂しくて、どこに行けばいいのかもわからず、山の中を歩き回りました。


大人の犬に出会っては追いかけられ、民家に迷いこめば追い出され・・・


ココロも体もヘトヘトで、お腹もペコペコ。


ココロが休まる場所もなく、恐ろしさのあまり眠ることもできず、フラフラになりながら 何日も歩き続けました。


そして 道路を渡ろうとしたその時、ものすごい衝撃で何かにぶつかり、体が宙をまいました。


白い子犬は、走ってきた車に衝突してしまったのです。


走り去っていく車が、しっかりと見えました。






『また置き去りにされた・・・』






体はピクリとも動きません。


痛くて苦しくて・・・


それ以上にココロが悲しかった。


だれも助けてくれない。


だれも僕をみてくれない。


どうして僕は生れてきたんだろう・・・






意識がもうろうとする中、誰かが話しかけてきました。


『よく聞きなさい。君の願いを3つ叶えてあげよう。さぁ、1つめの願い事を言ってごらん。』






白い子犬は、最後の力をふりしぼって ゆっくりと答えました。


『たすけてください・・・』





そのときです。


車のエンジン音が聞こえて、誰かに抱きかかえられたかと思うと、車に乗せられました。


気がつくと、たくさんの人に囲まれて、体をさすられたり、注射をされたり。


『がんばれ!』 という声も聞こえるし、なんでだろう? 泣いてる人もいました。





『次の願い事は何だい?』


話しかけてきたのは、神様でした。


『僕は助かったの?』


白い子犬が聞くと、神様はただやさしく微笑んで また言いました。


『次の願い事は何だい?』





少し考えて、白い子犬は答えました。


『おいしいご飯をたくさん食べて、あったかい毛布にくるまって眠りたいです。』





目が覚めると、女の人が僕を迎えに来ていました。


昨日、泣いていた人です。


僕は、女の人のお家で暮らすことになりました。


女の人は、いつもやさしく抱きしめてくれます。


あまりやさしくされたことがない僕は、このやさしさにどう答えていいかわからなかたけど、おいしいご飯をたくさん食べて、あったかい毛布の中で、安心して眠ることができました。





数か月がたったころ、夢の中で神様が話しかけてきました。


『さぁ、最後の願いを言ってごらん』


白い子犬は言いました。


『僕に自由をください』





『君の自由とは、どおいうことなんだい?』


神様の問いに、白い子犬は答えることができませんでした。


『いいだろう。ただし、これが最後のお願いだよ』





次の日、女の人が目を離したすきに、白い子犬は走り出しました。


女の人は、僕を呼びながら必死で追いかけてきたけど、振り向きもせず一所懸命走った。


『もう自由だ! 誰にも束縛されず、自由に生きれる!』


白い子犬は、どこまでも走り続けました。






さんざん走った白い子犬は、お腹がすいてきました。


でも、おいしいご飯を用意してくれる女の人は、もういません。


疲れ果てた白い子犬は、稲穂が大きく実った田んぼの中で眠ることにしました。





次の日の朝、ゴツゴツした土の感触に懐かしさを感じながらも、一人ぼっちの寂しさに、ココロがキューって苦しかった。


いつもなら、女の人とお散歩に行って、おいしいご飯を食べて、抱きしめてくれたり、お話してくれたり・・・


何言ってるのか全然わからなかったけど、きっとあの人は、僕の事が好きだったと思う。


そして僕は・・・  どうだったんだろう・・・?





稲穂の先が風に揺られて、サワサワと心地よい歌を歌ってくれました。


お日さまの木漏れ日も気持ち良く、ゴツゴツして冷たかった土も、やさしい温度に変わりました。


女の人のひざの上でうたた寝をするように、白い子犬は眠ってしまいました。








記憶の遠くの方で、神様の声が聞こえたような気がします。


『本当はね、息をするだけでありがたい。その他のことは、すべて人生の おまけなんだよ。』








どれくらい眠ったでしょうか。


僕はお家に帰ることにしました。


僕をやさしさで包んでくれるあの人のところへ帰ることにしました。





本当に自由なんてわからない。


でも僕は、このままでいいと思った。


帰ったらあの人はきっと、僕を抱きしめてくれるだろうなぁ・・・









エリ