夏川りみと京フィルスペシャルコンサート
【日時】
2017年1月20日(金) 開演 18:30 (開場 18:00)
【会場】
大阪府 枚方市市民会館 大ホール
【出演】
ヴォーカル:夏川りみ(*)
指揮:井村誠貴
管弦楽:京都フィルハーモニー室内合奏団
【プログラム】
春の声(ヨハン・シュトラウス2世)
カノン(ヨハン・パッヘルベル)
「カヴァレリア・ルスティカーナ」 より 間奏曲(ピエトロ・マスカーニ)
カルメンカドリーユ(エドゥアルト・シュトラウス)
童神(作詞:古謝美佐子/作曲:佐原一哉)*
島人ぬ宝(作詞・作曲:BEGIN)*
さとうきび畑(作詞・作曲:寺島尚彦)*
満天の星(作詞:新城和博/作曲:上地正昭)*
― 休憩 ―
「風と共に去りぬ」 より タラのテーマ(マックス・スタイナー)
ロッキーのテーマ(ビル・コンティ)
ひまわり(ヘンリー・マンシーニ)
芭蕉布(作詞:吉川安一/作曲:普久原恒勇)*
涙そうそう(作詞:森山良子/作曲:BEGIN)*
安里屋ユンタ(沖縄県民謡)*
※アンコール
あしたの子守唄 *
花 *
夏川りみのリサイタルを聴きに行った。
私は、コンサートに行くとしたらたいていはクラシックで、たまにジャズのライヴに行くこともあるが、それ以外はめったにない。
それにもかかわらず今回行ってみたのは、夏川りみの涙そうそうを以前テレビか何かで聴いて、とてもうまいと思ったことがあったのを思い出したからだった。
それに、「涙そうそう」という曲自体がまた感動的で良い。
そんなわけで、「涙そうそう」以外の夏川りみの曲を一つも知らない、ファンたちに怒られそうな私が、試しに彼女のリサイタルに行ってみたのだった。
また、今回のリサイタルは京フィルとの共演だが、私は京フィルを聴きに行ったことが一度もなく、せっかく関西にいるのにそれももったいないと思った、というのもあった。
コンサートの曲目は、京フィルが演奏するクラシック音楽または映画音楽と、京フィルをバックに夏川りみが歌う歌とに分かれていた。
京フィルの演奏は、私がふだん室内オーケストラを聴く機会がほとんどないために、なかなか新鮮だった。
特に、パッヘルベルの「カノン」はすっきりした編成が曲に合っていて美しかった(カラヤンのような大編成による分厚い演奏も、あれはあれで好きなのだが)。
そして、夏川りみの歌。
「涙そうそう」がヒットしてからもう15年ほど経っており、さすがに声も変わってしまっているかもしれない、とあまり期待しないで聴いた(15年も経つと声の酷使のためかすっかり変わってしまう歌手は、私見ではたくさんいる)。
しかし、彼女の歌声はとても美しかった。
15年経っても声は若々しく、高音のよく通ること!
デュナーミク(音の強弱)も、私が歌謡曲に持っていたイメージ(偏見か?)よりもずっと大きな変化がつけられ、表情豊かだった。
沖縄の歌によく聴かれる、トリルのような装飾音(これは何という名なのだろうか?)も、ばっちり決まっていて本当にうまい。
生のオーケストラの伴奏というのもとても感動的で、やっぱりカラオケとは雲泥の差だった(話は逸れるが、歌の伴奏の際、コントラバス奏者が大変ノリノリでピッチカートしていたのが面白かった)。
どの曲も素晴らしかったが、やっぱり「涙そうそう」を聴くと、この曲好きだな、と改めて思った。
ヒット当時の録音(Apple Musicで聴ける)も素晴らしいが、やっぱり生演奏は段違いの存在感だった。
生演奏とはいっても、もちろんマイクで増幅されてはいるが、それでも録音よりもずいぶん感動的だった。
そして、アンコールの「花」という曲では(泣きなさい~笑いなさい~というあの有名な歌)、冒頭に無伴奏での夏川りみのソロがあるのだが、ここで彼女はマイクを使わず、生声を披露してくれた。
オペラ歌手のような声量はないが、それでも2階席まで十分聴こえる程度の声は出ており、もちろん生声なのでフォルテ(強音)でも音割れせず(マイクで増幅すると、音割れとまではいわないがフォルテが若干きつくなる気がする)、清澄な素晴らしい声を数小節の間のみながら聴くことができた。
もっとマイクなしで歌ってほしかった!
夏川りみの声は、私の好みにぴったり合致した。
よく考えてみると、私は女声の中では、高音を朗々と美しく響かせることのできるソプラノの声が好きらしい。
例えば、リリコではヘレン・ドーナト(ドナートとも表記される)が段違いに好きである。
彼女の高音はとても朗々としていてきわめて美しく、彼女の歌う「マイスタージンガー」のエーファ、「ラインの黄金」のヴォークリンデ、「ばらの騎士」のゾフィーなどはいずれも比類のない名演奏である。
ヴォークリンデなど、もったいないほどの贅沢な配役だと思う(さすがはカラヤン)。
同世代のリリコとして、例えばルチア・ポップなんかももちろん素晴らしいが、私にとってはどうしてもドーナトなのである。
そんな私でも、ドーナトのバッハやモーツァルトは今となってはさすがに分厚すぎるかなと思うが、こういった曲ならキャスリーン・バトルやバーバラ・ボニーが好きである。
彼女らは、ドーナトよりもすっきりしたスタイルで、かつ高音のよく通る声である。
また、クイケン/ラ・プティット・バンドのバッハのカンタータ集で歌っているソプラノ、ゲルリンデ・ゼーマンも、透き通るような高音が素晴らしく、好きである。
ワーグナー・ソプラノであれば、何といってもキルステン・フラグスタートが他を圧倒している。
特に、1930年代の彼女の声は別格である。
フルトヴェングラー/ロンドン・フィル、あるいはライナー/サンフランシスコ歌劇場管とのブリュンヒルデ、またライナー/ロンドン・フィルとのイゾルデなどの録音は、私の宝物というだけでなく、大げさに言えば人類にとっての文化遺産だと思う。
また、戦後のバイロイト再建時代では、アストリッド・ヴァルナイももちろん素晴らしいし人気があるが、私の好みでは断然マルタ・メードルである。
さらに後年では、ヒルデガルト・ベーレンスなど好きである。
あと日本のポップスであれば、JUDY AND MARY時代のYUKIの声が好きである。
彼女のよく通る高音は大変素晴らしく、天性のものだと思う。
以上、大変雑多になってしまったし、他にも好きな歌手はいると思うが、今思いつくところではこのような女声歌手が強く印象に残っている。
イタリア・オペラ系のドラマティコがいないではないか、とご指摘をいただくかもしれない。
マリア・カラスもレナータ・テバルディも、上に挙げたようなタイプの歌手ではないと思う(もちろん、彼女らのドラマティックな歌い方は大変素晴らしいのだが、声そのもののタイプとしては少し異なるような気がする)。
アンジェラ・ゲオルギューはけっこう好きである(今年の夏に大阪でトスカを歌ってくれるらしいので、ぜひ行きたいと思っている)。
なお、上記のようなタイプではないが、特別に好きな女声歌手もいる。
例えば、エリーザベト・シュヴァルツコップ。
彼女の声は、高音でも朗々と響いてそれ自体とても魅力的、というわけではないような気がする。
しかし、彼女は歌声での演技、表現力が尋常でない。
当たり役とされた「ばらの騎士」の元帥夫人については今更言うまでもないが、モーツァルトの諸役でも、スタイルはやや古くなったものの彼女の「表現すること」への姿勢は未だ色あせないと思う。
また、カレン・カーペンター。
彼女の声はかなり低めであり、上記のような私の好みとは合致しないのだが、それでも彼女の朗々とよく響く声は本当に魅力的で、アルト系の歌手の中ではもしかしたら一番好きかもしれない。
夏川りみのコンサートの感想のはずが、とんでもなく脱線してしまった。
つまりは、私は彼女の歌声に思いもかけず感動してしまった、ということである。
彼女のコンサート、試しに行ってみて本当に良かったと思う。
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