昨晩、夫と喧嘩をした。
喧嘩というか、意見の相違を感じて多少語気荒めに話をした。
発端は4月から開始することになった私の仕事の事前調整に関して。
展開は以下。
1:調整の方向に自分でも悩み、旦那に相談した。すると思い描いていた案の中で最も希望する方向を却下された。
だが彼の進言も正論ではあった。
2:相談を続けているうちに旦那から「君はライター業をしないほうがいい」と言われ、ショックを受けた。
3:「自分の最希望(最良かどうかは悩んでいたから相談したのだが)の方向を否定された。しかもそれが正論と認めざるをえない」
「言葉の流れとはいえ、アイデンティティ的な仕事への否定をされた」
のWパンチで私、涙目。
4:そんな私に彼は困惑し「とにかくパニックを起こして布団にこもる君、という場面に立ち会うのは万が一にも二度と嫌だ」と宣言された。
5:彼から補足として「書く仕事を生涯断念しろとは言っていない。だがいつまでも ライター業の合間にできる何かの仕事という条件を求める姿勢は感心しない。もっと 自分が生きるための本腰を入れた別の仕事 を広く考えに入れるべきだ」と添えられた。
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結論として、私は諦念した。
彼は鬱を患った私を可哀想に思っているし、それに向き合う私の努力も認めている。だがもう治らない可能性があることも受け入れている。
ある意味、私以上に受け入れている。だから「違う本業の提案」ができるのだろう。
そして私以上に鬱のパニックを恐れている。彼が「私のパニック」に対して怒りではなく恐れを持つ様子を、以前に嬉しいと書いたし、ご好評もいただいた。
だがどうやら本当に残念ながら、彼は地続きの地獄には立ってくれないらしい。
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私はイメージした。
ある所に清く正しく育てられたお姫様がいたとしよう(旦那)。彼女が城内でケガをした血塗れの飼い犬(私)を見つけた。
彼女は「着衣を汚すのはよろしくない」との教えで育てられていた。同時に犬が苦しんでいる事がわかる感受性はあった。
何とかしてやりたいと犬に近づいた途端、ドレスの裾に血がヌルッと付着した。彼女は汚物感にかつてない悲鳴をあげた。それは彼女の心根の善悪を意味しない。
見捨てることもできない彼女は、せめてもと木の枝で犬の体にこびりついた血の塊をつつく。それが余計に犬に痛みを与えるとも知らずに。
犬はやがて従者によって運ばれるなり、ギリギリの回復をしてそこから立ち去るなりして姿を消した。そして数日後、弱りながらも再び「姫君の飼い犬」の場に出ることができた。
姫君は思ったのだろう。
あんな怖くて、自分がどうにかできない状態の飼い犬には二度と会いたくないと。
姫君には姫君の苦労があり、責務があり、犬よりも多くのことを知っているだろう。だが血塗れの犬をどうやって手当すべきかは誰も教えてくれなかった。
今となっては学ぼうとしてもその都度、彼女自身が恐怖と無力感に苛まれる。
だからせめて彼女は御触れを出すのだ。犬が怪我をしそうな遊具は撤去せよと。
それも聡明な一案には違いない。
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手足に痺れを覚えるほどに残念だ。
薄々感じてはいたが
やはり夫と私の間には、
姫君と犬ほどの乖離があった。
何よりも悲劇的なのは、姫君が飼い犬を大切に思う気持ちは真実であるし、犬が姫君を主君と思う気持ちは変わらないことだ。
だが犬は「もう決して血塗れになりません」などと約束はできない。自分でそれをコントロールできる知能は(昔はあったのかもしれないが)ない。そして遊具を撤去されることはとても悲しい。
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本当は姫君に手当の方法を学んで欲しい。
私の物書きへの足掻きを軽んじず、誰よりも応援して、つらいときには情緒と感情で寄り添って欲しい。
だが昨晩お互い少し落ち着いてから、それらしきことを夫に告げると、彼は優しくハグしてくれたが、体を離してから割とドヤ顔でこう言ったのだ。
「僕は嘘はつきたくないし、理論的なことしか言えない」
夫は姫君たる育ちはもとより、そうである己の誇りと立場を今さら捨てられない。
同時に私も古傷を抱えた犬である現実を変えることはできない。
それは愛情の深さ云々に起因しない。
ただの、事実の露呈だ。
ならば仕方ない。
多少古傷が痛んで不機嫌な様子は許してくれるようだから、せめて本格的に血が噴き出た時は自分で舐めて治す方法を身につけよう。
血塗れの姿は夫姫が出掛けた後の、有難いことに子供も居らず独りきりの家で存分に晒そう。
その代わり撤去したことになっている遊具はこっそり隠して、こちらも独りの時に存分に遊ぼう。
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誠に寂しい事実を知ってしまった。
だがそれくらいで根本まで腐るようでは、鬱を抱えながら己を見定める生涯は生き抜けまい。
今さら記するのも恥ずかしいが私たち夫婦は、互いがそうである事実も含めて残念には思えど、今のところ嫌いあってはいない。
それにこれは「今の」事実だ。
私が強く大きく羽ばたけば何かが変わるかもしれないし、姫君たる夫も好敵手(?)によって犬の手当を学ばねば勝ちを得られぬ局面に立たされるやもしれない。
そうならなくても遺憾はない。
我と我が伴侶の現在の事実がよりハッキリとわかった。ならばその上でどう生きていくかだけが問題だ。
寂しさは溢れるほどにある。
だがそれさえも糧にして、私は前へ進む。
私の天をも突く「生きる誇り」は確かに傷つきやすいが、そう簡単に使い物にならなくなるほどヤワじゃないのだ。