引っ越すことになった。


4月末だ。



Tさんに報告しようと思った。




猛毒を吐くしっかり者の友人から


「絶対に言うな」という忠告を受けた。



「送ったらTさんに、まだ未練があるように思われる。


あんたに未練がなくても向こうはきっとそう受け取る。


そうなったら悔しい」と


「そう思われるだけでも腹立たしい」と



私以上に、私の評価が落ちることを嫌がってくれていた。



なんといい友人を持ったのだろう。




ただ、本当にTさんがそう受け取るなら



なんて悲しい結果になってしまったのかと残念でならない。




何年も続いた付き合いは


本当にもう戻らないのだろうか。



3か月ほど連絡はとっていない。


時間がたてばもとに戻るかもと思っていたが、



これからはずっと、Tさんは


私が連絡をとったり店に行ったりすると


「面倒くさい女が来た」と内心思うのだろうか。


ずっと、「面倒くさい女」というポジションから外れることはないだろうか。


ずっと。





Tさんといざこざがあった後は、そんなにいい思い出があるわけではないので


このまま、何も言わずに去ってしまってもいいだろうにとも思う。




店に行きたくなったときは、


「彼は私との擦れ違いを、誤解を、解こうともしなかった」

「誤解を解くための機会を設けようともしなかった」

「お客さんが私のことを不思議に思っていても、忠告すらしなかった」


「もう、それほど蚊帳の外なのだ」


そう言い聞かせて、耐えてきた。

当時のことを思い出すと、悔しさも腹立たしさも思い出せるので、

Tさんのことなどどうでもよく思える時もある。





それでも結局、どうしても思い出すのだ。





初めて就職して、慣れない土地で寂しく思っていたとき


何気なく来た、Tさんのメールを。




「元気にしていますか?


この前店に着物できた人がいて、にいさんのことを思い出したよ。」


というだけのものだったけど、



すごくホッとして、懐かしくなって、心強くなったのを覚えている。


あのとき、近くにいなくても、細々と、ずっと付き合っていけると思った。



いまどんな状況であっても、彼はぺーぺーだった私の中では



「温かく、頼もしい人」で、



今でも、その根本は変わらないのだ。

(男としては最高に冷たいけど・・・)







店に行きたい。メールを送りたい。


店に行きたくない。メールも送りたくない。



このまま去るのは嫌。


嫌な顔されるかもしれない。お客さんへの「接客」をされるかもしれない。メールの返信が来ない可能性もある。


こわい。


でも何もしないで、「もし連絡をとっていたら」という答えのでない妄想をするのも嫌。



ぐるぐるしている。





なんでTさんに対してこんなことを考えるようになったんだろう。


「引っ越すことになっちゃったよ」って笑って挨拶をして


おいしいもの食べさせてくれたお礼を言って


「また来るから」と


「またおいで」と


次の土地へ行けたはずなのに。



引っ越すことよりなにより、


今のこの状況が、一番寂しい。








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