昨日、時間の定まらない私のお昼休みを見計らったかのような、着信。


メモリにはない、番号である。



ひらめき電球もしかして!



慌てて応答すると、やっぱり!!


「よう。元気?」


兄だ!


そう、私には実の兄はいない。

しかし、兄と呼んで久しい友人。

いつもと、変わらぬ口調。



結婚式で一時帰国すると

連絡を受けてはいたが、

早々に昨日、NYCから帰国。

すぐに、電話をくれた。


先日、バトンにて「男女の友情は可能か」とのQがあったが、

そんな陳腐で軽妙なものではなく、深いつながりを感じる彼との関係。


2年前。婚約破棄、人間不信、引き篭もりの私を、

大きな大きな、あったかい気持ちで包んでくれた。

夜中に家まで会いに来てくれたり、

引き篭もる私を、海辺の静かな街に連れ出してくれたり。

何度も、長い長い話を聞いてくれ、傍で守ってくれた。

眠れない夜は、隣で一緒に寝てくれ、あったかいハグをくれた。


もちろん、それ以上のことは、何もない。


一般的には、到底信じ難いことなのかもしれない。

それでも、それ以上は、何もない。


今の、この場所にいて、笑えるのは、彼がいてくれたから。


心からの信頼を寄せていた兄が、NYCに転勤なったのは、昨年の3月。

1年は、あっという間に過ぎていった。


前回の駐在時も、今回も。

見透かしたかのように、悩み多き時には、なぜか電話が来る。

メールや人づてに聞く話で、ちょっと様子がおかしいと、すぐに反応してくれる。

ほんとうに、血の繋がった兄妹なんじゃないかと思うほど。


行く、行く、と言いつつ、なかなか会いに行けなかった。


その彼に、会える。嬉しくて仕方ない。


折りしもまた、はかったかのように。私の転換期。


何を、話そう。


そう思い。彼が、旅立つ日の日記を、久々に読み返した。


いろいろな、たくさんの人に支えられて

今、ここにこうして立っていると。改めて思わずには、いられなかった。



以下、その日記転載


>2005.3.6 [日] 10:41 pm 今頃は

今日は家を、一歩も出なかったと言ったけれど。
怖くて出れなかったんだ、本当は。私って、本当に見栄っ張り。

今日の16:45.親友が、転勤に飛び立っていった。一昨年、2年ぶりに帰ってきたばかりなのに。前回帰国したのは、折りしも私が辛い事、悲しい事、涙も出ない、空っぽな時。
私の処理能力では、どうにもままならないことが、とめどなく起きていた。どうしようもなく、毎日、ヒキコもって自室のベランダで体育坐し、Amazonで買った本を、頭より高く積み上げて読み漁っていた時だった。

仕事の後、休日、何時でも。声をかけてくれ、たった5分の雑談のために、深夜家まで車できてくれた。
遠慮や、ひねくれ、ねじれた気持ち。見栄、羞恥。そんなこと全部、あったかく包んで、見守ってくれた。

"自分でダメって言うな。あなたは、ダメじゃない"。いつもそう言ってくれた。
どこにも行けない、誰にも会えない私を、そっと海の見える家に招待してくれた。
たくさん、頭を撫でてくれた。何もせず、ただ静かに夜通し飲んだ。


"泣きたければ泣けば、笑いたければ笑えばいいよ"

"無理に何も、話さなくてもいい"。
かたーく絡まった糸を大切に、丁寧に、切れないように。ゆっくり解いてくれた。

2年超の月日を経て。笑顔で元気な今の私になった。互いに忙しい日々。

次第に、会う時間は減った。
それでも、いつもあったかく叱り、芯のところで、支えてくれていた人だった。
"いいんだよ、元気な時は会わなくて"

"辛い時には、絶対サインを出して来るって知ってるから"
無理しちゃ、ダメだよ。弱いんだから。

いつもそう言ってくれた。

珍しく、強引に飲みに誘われた2月の始め、

"昨日、また駐在が決まった"。ぽろりと言われた。
理解も、受容もできず。
ただ、この時間だけがいとおしく。

大切に繋いだ手を、酔っ払ってぶんぶん振り回し、遠回りして帰った。
報告から1ヶ月弱、あっという間に行ってしまった。

寂しくなるから、来なくていい。と言われても、内緒で成田に行くつもりだった。
でも、怖かった。笑って、行ってらっしゃい。と言える自信がなかった。
朝から、出かける支度をし、ずっと迷っていた。

最後の、電話。昨日から、待つこと無しに待っているが、まだ。こない。
時計を横目にしながらの数時間。

結局、何もできない時間が過ぎて行き。夕方になっていた。
ボーディング直前、ようやく、公衆電話からの一本の電話。

"・・・あ。おす。行って、くるね"

"最後、会えなかったけど、どうせすぐ、来るでしょ"

"着いたら、また連絡する"

言葉が、出なかった。泣いちゃいけないのに、泣いちゃった。
遠かった。成田じゃなくて、もう海外にいるみたいだった。

離陸の頃、ベランダから東の空を見た。
なんだか、ぽっかり穴があいたような一日だった。

元気に、"行ってらっしゃい"って言えなくてごめんね。

次のお休みには、元気に会いに行くね。

長いフライト、氷点下の街、送別会で疲れた身。風邪をひきませんように。
冬の空みたいに澄んだ気持ちの君に、たくさんのしあわせがありますように。

遠くから、前途を祈って。

言えなかった、ありがとう。をこっそりここで言わせてください