正直に言えば、ここまでスケールの大きい国産ドラマが生まれたこと自体にまず驚かされました。中央アジアを舞台に展開される壮大な物語、緻密に張り巡らされた伏線、そして二転三転する人物像。エンタメとして一級品であることは間違いありません。
しかし、弁護士として本作を観ると、より深く突き刺さるテーマがあります。それは「国家の正義は、個人の正義と両立するのか」という問いです。テロ対策、諜報活動、非公式任務――表の法秩序とは別に存在する“裏の論理”。そこでは手続的正義や適正手続がしばしば後景に退きます。
法の世界では、どれほど目的が正しくとも手段が違法であれば許されません。ですが国家安全保障の文脈では、その原則が揺らぐ瞬間がある。本作はその緊張関係を真正面から描いています。善悪が単純に割り切れない構図は、現代社会そのものです。
さらに印象的なのは、組織に属する人間の葛藤。命令に従うことと、自らの信念に従うこと。その板挟みは、企業不祥事や内部告発案件に携わる際に私が実際に目にする構図と重なります。巨大組織の中で“自分は何者か”を問い続ける姿は、多くのビジネスパーソンにも刺さるはずです。
『VIVANT』は単なるスパイサスペンスではありません。国家、組織、家族、信念――複数のレイヤーが交差する重層的ドラマです。観終わった後に残るのは爽快感だけでなく、「正義とは誰のためのものか」という静かな問い。その余韻こそが、この作品の最大の魅力だと私は思います。
