お化け的なこと。
入室した時に、ドアを開けた瞬間に『モワッ』としたのを覚えている。
けれど、そんな事はスグに忘れて彼女と『鏡の前』および『浴室』で見つめ合い、そして最後はベッドの上で見つめ合ったまま夜に埋もれた。
肉体接続詞。
ベッドで寄り添う二人は枕詞を囁き合った。
枕詞。
すなわち、ピロートーク。
いじめ、カッコ悪いよ。
前園さんの言うとおり。
『ムナムナムナムナムナムナムナムナムナ・・・・』と男の低い声が壁の向こう側から聞こえる。
お経を唱えるような声が壁の向こう側から聞こえる。
ベランダへ出て壁の向こう側を確認したが、何もない。
しかも、この部屋は四階。
小さな恐怖が心に植え付けられた。
彼女とベッドに戻り、必死でアホな話をして彼女の気を紛らわした。
突然、『コポコポコポ・・・』と音がした。
スイッチを押さないと作動しない簡易ポットが突然に作動した。
小さな恐怖は心に根をはった。
ベッドで固まる二人に追い討ちを掛けるかのように浴室から『シャァァァァァァァァァァ』とシャワーの流れる音が聞こえた。
小さな恐怖は大きくなり、二人を襲った。
私は『浴室を見てくる。』と彼女に言った。
すると彼女は『一人で居るのイヤやから私も行く。』と言って、私の腕にしがみついた。
二人で浴室の前に立った。
まだ音は聞こえる。
私は喉を『ゴクリ』と鳴らしてドアノブに手をかけた。
私の腕にしがみつく彼女の力がさらに強くなった。
彼女に合図を送って勢いよくドアを開いた。
『・・・』
ドアを開いたと同時に音が止んだ。
彼女はワケのわからない状況に軽くパニックを起こした。
私は彼女を洗面台に座らせ抱きしめた。
彼女はとても強い力で私を掴んだ。
私は『大丈夫。』と言って彼女の唇に触れた。
私は大丈夫だったが、下の彼はパニック全開だった。
普段は、いくら頑張っても『グリコのオマケ』のような彼が、『金剛力士像』のような表情で『天』を睨んでいる。
『金剛力士像』に気付いた彼女は『うっとり』とした目で彼を見つめ、愛しそうに彼を両手で包み込み、ゆっくりと口の中へ招いた。
そのまま鏡の前で立ち往生。
お経を読む声、勝手に作動する簡易ポット、浴室から聞こえるシャワーの音、そんなん知らん。
どーでもえーねん。
鏡の前で立ちバック。
いつも『金剛力士像』だったらいいのにな・・・。