vermeer stained glass mystery
ステンドグラスを制作してきた経験を通してフェルメールの絵画に描かれた
ステンドグラスの考察 及び 再現をしてみたいと思います。
フェルメールの作品の中にステンドグラスが幾つか描かれています
今回は1660年代に描かれた二枚のステンドグラスについて考察してみようと
思います。
部屋の様子 ステンドグラスのデザインから この2枚は同じステンドグラスです。

ステンドグラスの色が少し違うのは外からの光の強さ 角度でステンドグラスの表情が変わったためと思われます。 同じ色ガラスの光による発色の違いをご覧下さい。

斜め後ろから強い光が入った時の発色 比較的弱い光の時の発色
ステンドグラス部分を拡大すると

(黒い線はステンドグラスを組み立てる時に使う 断面がH型の鉛線です)
鉛線各種 
さらに正面を向くように画像処理して合成すると このようになります。
拡大
鉛線の幅を合わせたら後ろになびく布の線がほぼ合いました
フェルメールの絵の正確さには驚きです。
◎補強バーの光沢

ステンドグラスをよく観察すると裏側に補強バーが平行に5本入っているのが
分かります。最下部の補強バーを見ると光沢がはっきりと描かれています。
鉄製ですのでオランダの気候と合わせて考えると じきに錆びて光沢を失う
はずです。そこでこのステンドグラスは取り付けてから それほど時間が
経っていない時期に描かれたと推測されます。
ちなみに他の絵では補強バーの錆びが 丁寧に描かれています。

鉛線の部分が白くなっているのは 時間が経つと湿気により
鉛は白い錆びに覆われるためです。
◎割れたステンドグラス

割れる前のステンドグラス
(イメージ)
ステンドグラスには割れた個所が描かれています。どれが修復した線でしょうか。
明らかに不自然な線を探すと 絵1の(〇部分)に割れが集中している様です。
最初に ここに強い衝撃があり そこから上下に割れが派生している様に見えます。
補強バーがこれだけ入っていて この割れ方は単に棒で突いた割れとは
考えられません。
例えば 酔っぱらって手をついてしまい さらにパネルが歪むほど寄りかかって
しまったらこの様な割れ方もあるのですが…。 果たしてどの様にして割れたので
しょうか。デザインと鉛線の入り方を考慮してイメージした割れる前の
ステンドグラスが絵2です。
◎ステンドグラスの女性
このステンドグラスの女性は一体何者なのでしょうか?「節制」を表しているとか
幾つか説があるようです。今回は女性の持っている花束に注目しました。
色々な花の混ざった花束ではなく 青い花一種類としたらその花は何でしょうか?
ヨーロッパにある青い花はそれほど種類はなく その中に「アネモネ」があります。
ギリシャ語で「風の娘」という意味です。ギリシャ神話に出てくるアネモネという
娘(ニンフ)からきています。風になびく布やリボンの構図がそれを連想させます。
(アネモネの色は幾つかあります。)
ステンドグラスの①をよく見ると緑色の束らしきもので、②の所に薄い紫色が
入っています。形からすると「ラベンダー」の様に見えます。ちなみに
アネモネの花言葉は「はかない恋、恋の苦しみ、期待」
ラベンダーの花言葉は「沈黙、期待、不信感」です。
口説こうとしている男、意味ありげな目でこちらを見ている女
絵の雰囲気に合っている様に見えますがどうでしょう。
抱かれている花束に小さな黒い点が加筆されています。
これも花芯が黒い花とサジェストしているのでしょうか。
さらに フェルメールがギリシャ神話をモチーフに神話画を描いていることなどから
このステンドグラスの女性と花は「アネモネ」と仮定して進めて行くことにしました。
J.W. Waterhouse「アネモネ」 青いアネモネ ラベンダー
アネモネ伝説の一つに流れ出た血からアネモネが咲いたとあります。
赤いスカートの上に描かれたアネモネの花とイメージを重ねたら
考えすぎでしょうか。
二枚の絵に描かれている女性は二人ともステンドグラスの女性と同じ様に
赤いスカートを身に着けています。
もしフェルメールが意図的に身に着けさせたとしたらステンドグラスの女性と
リンクさせたかの様にも見えます。
もう一つのアネモネ伝説で嫉妬に駆られた女神フローラがアネモネを花に
変えてしまいます。それでもアネモネは恋する西風の神ゼフィロスが近づくと
撫でて貰おうと花をさかせるのだそうです。

西風ゼフィロスと女神フローラ
ステンドグラスの割れをわざわざ絵に描きこんだのは
何かを暗示しているのでしょうか。
果たしてこの先 二人の女性の運命はどうだったのかは知るよしもありません。
◎窓が少し開いた構図
この二枚に描かれているカップルの位置と窓の開き具合に注目しました。
右側「二人の紳士と女」のカップルの位置は左側「紳士とワインを飲む女」と
比べると少し手前に描かれています。それと同時に 窓の開き具合も少し大きく
開いています。これはステンドグラスの女性の視線がカップルに向くように
窓の開け方を調整しているかのようです。
◎風になびくリボン
中央の水平線に沿うようにリボンが∞状になびいています。
風になびいている形にしては少し不自然に感じます。
これは「メビウスの輪」のような無限∞を表したものかもしれません。
絵に描かれる以前から∞は定義されていました。フェルメールは科学者との
付き合いもありましたから当然知っていたでしょう。
仮にそうだとすると いつの時代も繰り返される男女の営みを揶揄しているようにも
見えます。
◎フェルメールステンドグラスの再現
絵柄を見えやすくするために補強バーは中央一本にしてあります。
デザインはフェルメール自身がして 職人に作らせた可能性が大きいと思います。
これはフェルメールの絵画の一部に描かれているフェルメールの自画像と
言われているものです。微笑みを浮かべている彼がお茶目な感じに見えて
きました。
フェルメールの絵画は色々なところに謎解きが隠されています。推理小説を
読むように それを探すのも楽しいです。 k.nishida