睡眠リズム障害

全てのものは「周期(リズム)」を持っています。
地球は一回転で「1日」、太陽の周りを1周して「1年」の周期を持っています。
植物も個々に芽吹く時期、咲く時期、種の取れる時期などの周期を持っています。
動物もウグイスの鳴く時期、ツバメの飛ぶ時期、ツルの移動時期など、周期を持っています。

人間もそうです。朝目覚め、日中活動し、夜眠る・・・周期を持っています。また、よく観察すると、睡眠の周期、血圧の周期、体温の周期、ホルモンの周期・・・あらゆるものが「周期(リズム)」を持って構成されていることがわかります。

「睡眠リズム障害」はその中のほんの一部「睡眠」のリズムが狂ってしまって、自分では修正できない状態を言います。

例えば「午後11時には眠りたいのにどうしても午前1時を過ぎないと眠れない」「だんだん眠る時間が早くなって午後7時には眠くなってくる」など、希望の入眠時間や起床時間に眠れなかったり起きられなかったりしてくる状態です。さらに、「睡眠」のリズムが狂ってしまっていると言う事は、「体温」や「ホルモン」など、他のリズムの狂いも疑われてきます。

「眠りにくい」「すぐ眠くなる」などの症状は「昼寝をすればいい」「寝だめをしよう」などと安易に考えられがちですが、後戻りのできないやっかいな病気が潜む場合もあることを知っておいたほうがいいでしょう。
 
睡眠リズム障害の代表的なもの
睡眠リズム障害は大きくは4種類あります。

 睡眠相後退症候群

眠りたい時間に眠れない、遅くに寝るので朝起きられない。学校や会社の時間に間に合わない。無理して起きると頭痛・倦怠感・眠い・集中力や食欲がないなどの症状が現われる。思春期から青年期に多く、受験勉強・長期休暇・夜間アルバイトなどで生活リズムが夜型になった時に発症しやすい。時間に関係なく自由に眠れる日は体調がいい。治療は時間療法・光療法・薬物療法(ビタミンB12、メラトニン、睡眠薬)など。
DSPS sleep log

2) 睡眠相前進症候群

早い時間から寝てしまい、早くに目が覚めてその後は眠れない。昼間の行動に問題はないが、夜の活動が眠くてできない。自由に眠ると体に症状はない。夕方からの人や仕事上の付き合いができない。治療は時間療法・光療法・薬物療法(抗うつ剤)など。
ASPS sleep log

3) 非24時間睡眠覚醒症候群

寝付きにくく起き難い。睡眠相後退症候群との違いは、毎日、寝る時間が遅れていく。治療は光療法・薬物療法(ビタミンB12・メラトニン・超短時間型睡眠導入剤など)を試みる。

4) 不規則睡眠覚醒パターン

不眠や過度の眠気がある。1日3回以上眠って起きる。1日の総睡眠量は正常。脳の器質的障害(事故や病気による変性)の場合になりやすく、治療が難しいが、昼夜の区別をつけた規則正しい生活をし、ビタミンB12療法の併用を。

5) その他
 
その他としては「睡眠障害国際分類 1990年」より以下の通りです
 
・時間帯域変化(時差)症候群
  いわゆる「時差ぼけ」といわれるもの
 
・交代勤務睡眠障害
  時差による勤務時間は日中の一般的な勤務と違うので、体の持っているリズムに合わず、混乱して体が適応しなくなる状態をいいます。
例えば、体は「朝起きて夜眠る」リズムがあるにもかかわらず、夜勤で「夜間活動し、日中に睡眠をとる」場合、夜勤に適応できない人は、倦怠感・不眠・熟睡感のない睡眠・頭痛・胃腸違和感・などを訴えることがあります。
現在の労働人口の約10%が夜勤に従事しており(H10年推定)、交代制勤務者の約20~30%がそのような不適応を訴えています。
 
・ 特定不能の概日リズム睡眠障害
  睡眠のリズムは一般的にはどのようなパターンかはわかっていますが、よく見ると、ひとまとめにできない個性があることが言われるようになりました。
現に夜勤でも問題なく適応できている人がいます。「障害」「病気」とはある意味、その人にとって「自分で改善できない」で「苦痛」と感じる場合であって、個人の環境に適応できていればそれは「障害」ではありません。
環境をヒトに合わせるか、ヒトが環境に合わせるか・・・合わせられない場合が「障害」となり、環境の多様化に伴って、個人単位の「障害」が起ってきます。
例えばAさんの場合...

Aさんは45歳の男性。
以前は午後10時頃には眠くなったのに、このごろ寝つきが悪い。
寝酒を少し飲むようになり、すこし眠れる気がしたが、実際にはあまり変化は無く、お酒の量は増える一方。やっと寝たかと思えば途中起きる時もあり、また寝付けず、朝起きても寝足り無い感じがする。仕事に合わせて午前7時には起きるようにしたいが、朝は体がだるく、頭痛もありなかなか起きられない。日中は午後になると少し調子が良くなる。けれど、だんだんと遅刻が多くなり、会社の上司からも「怠慢だ!」と注意されるので休みがちになる。Aさんも家族もこれはおかしいと病院に駆け込んだ。


解説
Aさんの場合、睡眠相後退症候群が疑えます。お酒で寝つきを良くしようとされていますが、アルコール依存症になることもあり注意が必要です。途中で起きるのはリズム障害だけでなく、睡眠時の無呼吸など(睡眠中に呼吸が止まる事)も疑われます。寝付く時間が遅くなれば起きる時間が辛くなったり遅くなるのは当然で、自己診断で「今、睡眠が取れなくてもいつか眠れるはず」と安易に考えず、おかしいと気づいたら、早めに睡眠病院で相談をしましょう。

会社の上司にまで注意され「何とか眠ろう!」とあせると、よけい眠れないこともあります。夜間の覚醒が増えると、まとまった睡眠が取れず、頭痛・倦怠感・眠気があったりします。大事な会議で眠ってしまったり、自動車事故につながる場合もあります。


睡眠リズム表(何時に寝て、何時に起きる、、何時に一時的に目が醒めた、昼寝をいつした・・・などを記録する表)を毎日つけ、自分の睡眠の状態を知ることが大事です。また、ストレスを少なくし、寝る前の睡眠環境を整え(室内の明かりを暗く、眠れそうな音楽やアロマセラピーも効果的です。)、定時に床に入るリズムを持つことです。なかなか改善しない場合は、医師の指示に従って、治療をします。
睡眠・覚醒リズム表   ブライトライト
 
睡眠リズム障害の治療方法

以下の治療方法を単独で行わず、併用して治療をするほうが効果的と言われています。ただし、治療は人のリズムを良く知った上で行う必要があり、医師の指示に従ってください。誤った治療は悪化させる危険があるからです。

① 光療法(高照度光療法)
    光の効果

・体内時計のゼロ調節

ヒトの体内時計は25時間のリズムをもっています。朝、お日様が昇り、眼に光を受けたとき、1日の周期である24時間となるようゼロ調節をしてくれます。


・メラトニンの分泌の抑制

ヒトが眠いと感じるのは、メラトニンというホルモンが分泌されるからで、光によりその分泌が抑えられ、眠気がなくなるといわれます。

・自律神経の調節

交感神経の働きを円滑に行うといわれます。
光の効果を利用し、狂った体内時計を調整したり、眠気をおさえてリズム障害を改善させるのが光療法です。但し、光の量や照射時間、照射時間帯など治療には専門性を必要とし、間違った照射で悪化する場合もありますので、必ず医師に相談してください。また、治療効果はすぐには現れず、数ヶ月は経過観察が必要です。副作用はほとんどありません。効果を増す為には、他の治療方法と併用がよいでしょう。
当クリニックでは高照度光(ライト)を貸し出しして自宅での治療を行っています。
 
② 時間療法
だんだんと入眠時間がずれていく症状に合わせ、わざと同じ方向に時間をずらします。希望の入眠時間までずらして固定化させる方法です。
 
③ ビタミン療法
ビタミンB12は貧血や神経障害の場合によく投与されるもので、神経を保護したり修復する働きがあるといわれていますが、変化する睡眠リズムを止める働きがあるようです。
 
④ メラトニン療法
夜、眠いなと感じるのはメラトニンというホルモンの一種が分泌されるからだと言われており、分泌量が少ない場合、眠気がこなくなります。逆にホルモンを投与すると眠気をさそいます。副作用はほとんどありません。服用時間や量は医師の指示に従って下さい。メラトニンは日本の薬局では取り扱っていませんが、アメリカではビタミン剤と同じ扱いを受けています。
 
⑤ その他の薬物療法
その他の病気がある場合などは、睡眠薬を使用しないと効果がないこともあります。睡眠薬といっても現在は多種多様で、以前ほど「くせにならないか」とか「怖い」と心配する必要はありません。医師の指示に従って下さい。かえって、指示通りに服用せず、症状を悪化させることもありますので、医師と良く話し合い、納得したうえで一緒に治療しましょう。