三月初め、上京した旅行記を綴ってきました。(書庫 上京の状況)
 
     ♪ ごく普通の二人はごく普通のところ?へ行って、ごく普通の?体験をしました。
       ただひとつ違っているのは、細部は大幅にフィクションに仕立てていることです(笑)
 
お約束       赤字の部分は純然たるフィクションです^^
 
ライフル銃の男は構えたまま叫んだ。
「おい、そこのふたり、こっちへ来い」
スナフキンが媛子をかばったまま入口へ行くと、その男は銃身でスナフキンを媛子からはがし、二人をしげしげと眺めた。黒いサングラスの向こうの目は見えない。
「お前らは行っていいぞ」
「え?」
 
「どうしてその人たちだけなんだ!」
「ひどいわ」
「私の父は大臣なのよ」
窓際に並ばせられた人質たちが口々に叫んだ。
 
「うるさい」
男が銃を天井向けてぶっ放す。
お嬢さまお坊ちゃまたちは悲鳴を上げてしゃがんだ。
 
「この男と女はいいんだ。俺がいいと言ったらいいんだ」
「この女はな、見てみろ、しまむらのズボンをはいてる。杖ついて」
男は鼻をすすった。
「田舎のばあちゃんを思い出すんだよ。しまむら着て節約して俺に仕送りしてくれた。
お前ら覚えとけ。しまむら着てる女に悪いヤツはいないってことだ」
「それに」
と男は鼻を拭きながら言葉をつづける。
「この男は一流ホテルに真っ赤なラガーシャツ着て平気でうろうろしている。この女をかばったしな。いいやつじゃねえか」
 
「あのう」
媛子が恐る恐る男に頼む。
「あそこのポロシャツの人、私たちの友達で、いい人なんです。とっても。ポロシャツだし、一緒に助けてください」
「お願いします」
スナフキンも頭を下げた。
男はゆっくりmasaを眺めたが、あきれたようにだめだ、と言った。
「あのポロシャツはよれっとして、安っぽく見せかけているが、英国御用達のロイヤル・ヘンリーボーン・キングダムの生地を使った上物だ。Yahooオークションでたしか200万の値がついていた。
シロートの目はごまかせても、俺の目はごまかせないぜ。
俺はITで成功した社長のもとでいっぱし、羽振り良かったんだ。そういうものをごまんと見てるぜ。
あいつはだめだ。ここにいてもらう」
 
スナフキンはmasaを見、媛子を見てきっぱり言った。
「媛子、ここでお別れだ。お前だけ出なさい。俺もあとから必ず行くから」
「いやよ。残る。私も」
「行け!大事な友達のmasaさんだけ置いて出るわけにいかない。それに、」
スナフキンの目がうるみ始めた。
「二人とも殺されたらプーシャはどうなる」
「プーシャ……」
二人の目から涙がこぼれた。
プーシャというのは二人が愛媛で飼っている黒猫だ。わがままでマイペース、だけどスナフキンは彼女にぞっこんで、猫の恋の季節がやってくると、
「プーシャは誰にも嫁にやらん」
出勤しても気もそぞろ
「俺は♂猫になりたい」
とメールを打ってくるほどだ。
そんなスナフキンを見るたび、媛子は、
「その十分の一でも私を大切にする気はないのかしらん。え、スナフキンはん」
とあほらしくなるのだった^^
「おい、なにぐちゃぐちゃやってる。しまむらとラガーシャツは出ろ!」
もう限界だというようにわめきたてる男の前を、媛子が杖をつきつき窓際へ帰った。その後を、がっくり肩を落としたスナフキンが続く・
「なにバカなことを。私のことはいいから出てください」
masaの小声に、
「masa、。俺たちはもう友達じゃねえか。俺一人出たら五番街の真理さんに顔向けができねえ」
スナフキンがきっぱりと言った。
「ねえ、あれ、真理じゃない?」
媛子がこっそり喫煙カウンターの方向を示す。
三人の視線の先、カウンターの先あたりに、観葉植物の陰にうづくまる真理の姿がある。
「真理」
なぜこんなところに。
masaが真っ青になった。
 
                       つづく