2--史上九番目の「中心都市」の終末-


二〇二五年かつてこれほどまでにカリフォルニアの人々が独創性に富み'裕福で有望であったことはない。


カリフォルニアの生活水準も史上最高の高さである。


アメリカ大企業も空前の経常利益を計上している。


アメリカの工業部門ならびに金融部門もイノベーションに満ちあふれている。


アメリカが軍事面・政治面・経済面・文化面において'さらには人口面において'これほどまでに世界を席巻したことは'いまだかつてなかった。


アメリカの人口は'現在においても世界第三位であり'二〇四〇年ごろには四億二〇〇〇万人ほどにまで増え'世界第三位の地位に居座り続けるであろう。


さらに'ヨーロッパやアジア、またはその他の地域においても'アメリカの強力なライバルとなる国は見当たらない。


また、アメリカ型以外の経済発展モデルも想像できない状況である。


結果的に'少なくとも二〇二五年までは'世界の大金持ちや主要国の中央銀行は'経済的・政治的・金融的に最良の避難場所として'アメリカとドルの動向に注視することになるであろう。


特にアメリカの税制は、まもなく相続税を大幅に削減することで'これまでになく外国の富を引き寄せる。


アメリカの大学も世界中から優秀な生徒をかき集めながら、自国のクリエーター階級を再生させ続ける。


その後、外国からの優秀な生徒たちは、アメリカにとどまって独創的な活動に従事する。


ロスアンジェルスはアメリカの文化・テクノロジー・産業の中心地として'ワシントンは政治の首都として'ニューヨークは金融都市として君臨し続ける。


アメリカは'軍事・デ-タ送信・超小型電子・エネルギーエアレコミュニケーション・航空機製造・モーター技術・素材・誘導システムに関する技術を'今後も長期にわたって支配し続け、世界の生産高に古めるアメリカのシェアを長期にわたって維持する。


アメリカの債務は'アメリカ国内の消費をうながし、生産体制を外国で行なう仕組みとして機能し続ける。


結局、少なくとも今後二〇年は、たとえアメリカの経済成長が'金融危機、経済不況、または紛争などによって一時的に停滞したとしてもう地球上の文化的・政治的・軍事的・美的・道徳的・社会的に主要な出来事は、アメリカの支配的地位を浮き彫りにすることになるであろう。


本書で後ほど紹介するい-つかの出来事の到来を遅らせることができるかぎり'世界経済の成長率は'現在の年間平均四%の伸び率を維持できるであろう。


こうしたトレンド(二〇年先の将来でさえ、きわめて暖味なアイデアしか浮かばないが)が二〇二五年まで継続すると'世界のGDPは八〇%、地球の住人の平均的な所得は五〇%増加する。


注目すべき点としては'もっとも貧しい人々が'労働者として'また消費者として市場経済に参入するであろうということである。


というのは'彼らの購買力に見合った製品(食品'衣服'住宅'薬品、オートバイ、コンピュータ、電話、金融商品)が商品化されるからである.


移民は預金を母国に送金することで母国をファイナンスする。


(マイクロファイナンス)(すでに貧しい起業家7億人以上に対し'商売道具を買うための資金を融資している)は'二〇二五年には少なくとも五〇〇億人以上の家長に行き渡る。


マイクロ保険により、恵まれない家族に最低限の社会保障がもたらされる。


二〇二五年に世界の人口の半分近-が'一日二ドルでの生活を強いられていたとしても'市場経済に参加する'また読み書きのできるせ界の人口の割合は著しく上昇する。


こうした出来事と並行して'経済成長は民主主義の領域を拡大する。


歴史上、いかなる強権政治も'継続的に経済的繁栄に逆らうことはできなかった。


もっとも最近の例でも、中産階級のコントロールを維持するためには、力強い経済成長が欠かせないことが明らかになっている


(フランコ将軍、スハルト大統領'ピノチェト総司令官、マルコス大統領など)。


いまだに市場民主主義化していない大部分の国(中国、北朝鮮、ビルマ、ベトナム、パキスタン、さらにはイランも)も'いずれは市場民主主義化される。


こうした国の政府・社会体制・行政機関・警察機構・司法制度は、一党体制や宗教原理主義の政治によるのではなく、選挙制度の下に選ばれた議員がメンバーとなる議会制度になる。


今後二〇年経過しても、EUはおそらく、その範囲を旧ユーゴスラビア諸国'ブルガリア、ルーマニア、モルドバ共和国、ウクライナにまで拡大するだろうが'単なる共通経済圏でありつづける。


世界中でますますユーロ通貨が使用されるようになったとしても、EUは統合された政治・社会・軍事機構とはならない。


またEUには'安全保障に対して強い危機感がある。


この危機感についてはへ未来からの第二波((超紛争))の件裂によって、しばらく後になってから理解されるであろう。


これについては本書で後ほど触れる。


高等教育システムの近代化、技術革新をうながす能力、外国人の受け入れなどを怠ることで、EUは新たにクリエーター階級をまとめ上げることにも'EUを離れた研究者や起業家を呼びもどすことにも成功しない。


人口動態のダイナミズムにも欠-ことから'特にスペイン、ポルトガル'イタリア、ギリシャ、ドイツでは'世代間の交替がうまく進まない。


現在のこうした状態が継続した場合、EUの世界のGDPに占める割合は'現在の二〇%から二〇二五年には一五%に低下する。


よって、ヨーロッパ人7人当たりのGDPをアメリカ人と比較した場合、現在の六〇%強から五〇%にまで低下する.


これは運輸・教育・医療・社会保障部門といった公共サービスを弱体化させる。


ベルギーのフランドル地方(オランダ語圏)とワロン地方(フランス語圏)は衝突し'誰も予想しなかった出来事の後、ベルギーは分裂した状態でヨーロッパの連邦直轄区となる可能性がある。


当然ながら、驚くほどの積極的介入政策がこうした情勢を変化させることもあり得る。



21世紀の歴史――未来の人類から見た世界/ジャック・アタリ
¥2,520
Amazon.co.jp