●首都ではグラント将軍のために盛大な歓迎式
典が用意され、将軍夫人のジュリアも大きな喜びをかみしめていました。
しかし翌日、目覚めたとき、ジュリアは夫や息子を連れていますぐワシントン市を離れ、ニュージャージー州バーリントンの自宅に戻るべきだと(直感)しました。
夫に、できるだけ早く自宅へ帰りたいと懇願しましたが'将軍はどうしても反故にできない用事があるから'なるべく早く終わらせて戻ってくると約束して出かけました。
時間がたち,ジュリア・グラントの思いはますます切迫していきます。
正午になると、ホテルの部屋のドアにメッセンジャーが現れて、
「リンカーン夫人のお使いで来ました。
夫人は八時きっかりにお迎えにみえ、劇場に同行します」と伝えました。
グラント夫人はメッセンジャーの態度や断定口調が気に入-ませんでした。
そこで'「どうかわたしたちの言葉をリンカーン夫人に伝えてください。
残念ですが、グラント将軍とわたしは今日中に街を離れるつもりです。
大統領やご夫人とともに劇場に行くことはできません」
と答えました。
しかしメッセンジャーはなおもしつこぐ'
「今晩'大統領のとなりにグラント将軍がお座りになることを新聞各紙は伝えていますよ」
と言うのです。
ジュリアは新開の報道など気にもとめず'夫に悪いことが迫っているという予感をますます強めていました。
メッセンジャーにお詫びの気持ちを伝えるよう命じて帰らせたあとで'ジュリアはグラント将軍に'
「今夜は劇場に行かず'バーリントンへ出発してほしい」
と何度も伝言しました。
ようやく将軍もジュリアに返答をよこし'夜行列車に間に合うように最善を尽くすと伝えました。
ジュリアはこのとき友人に、今夜出発できるのでとてもほっとしていると語り、さらに「今夜か明日になにかが起きる'そんな気がしてならないの」と謎めいた言葉を口にしています。
グラント夫婦は'フィラデルフィアに到着したときにリンカーン暗殺を知らされました。
後日の発表によれば、一同が将軍の到着を待っていたフォード劇場のバルコニー席で'殺人者が所有していた標的の一覧が見つかり、そこには将軍の名前も載っていたそうです。