オハナシヤカタ~熊の檻・創作別館~-CA3J0315.jpg

まだ使えるのかテストなう
三色ごはん(炒り卵、きゅうり、梅干し)
アボカドサラダ
ところてん
ソフール(苺味)
僕の傷は、目に見えない。

僕の傷は、誰かに知られる事なく、ただ熱を持ち、膿んでいる。

誰に恨み事を言っても、誰を傷つけても、塞がらないのは僕自身が一番知ってる。


だから、僕は傷を掻き毟る。

皮膚に強く爪先を食い込ませ、濁った血と膿みで光る傷口を開く。

壊れてしまえ。

痛みに仰け反りながら、奥歯を軋ませながら、自分の傷に唇を寄せる。

街の雑踏の中、ビルの屋上、流れる夜景を眺める車内、一人僕は自分の傷を開いて安堵する。

体の痛みはすぐに癒えるけれど、心の奥底、僕自身のゴーストが受けた傷は、癒える事はない。

僕は、時々こうして自分で傷を開いて膿みを出しながら、生きていることを確認している。

愚かな僕は、こんなことでしか自分が生きている事を確認できない。

僕の傷は、僕自身なのだろう。

熱を孕み、膿んで血を滲ませながら、ただそこにある。

塞がれば痛みが収まるとわかっているけれど、塞がればまた僕はきっと他のものを傷つけてしまう。
それならば。

僕の傷は永遠に塞がらない方がいい。

きっと。

じわじわじわ・じじじじ・じぃーじぃーじぃいいいい。


蝉の声が、降ってくる。


重い体をなんとか持ち上げて、プールサイドに寝っころがって、空を見上げる。


まるで溶けかけのアイスみたいな、端っこがとけた塊が、ゆっくりと空の中を流れていく。

夏の空は、雲がソフトクリームみたいに縦に延びたり溶けたりするのが面白い。


ヤツの大好物。

アイスクリーム。ソフトクリーム。

甘い甘い白い白いそれ。

熱い指先で持ってたら、あっという間に溶けちまうそれ。


朝からずっと泳いでいて、冷えてふやけてきた指先に、じわじわと熱がもどってくる。

ごろん、と横向きになったら、耳からじわりと熱い水が出てきた。

水着の下の、敏感な部分に、じわりと温まった水が流れていく。


…なんか。

……この感覚は妙にエロい。


そう感じてしまう自分は、まるで昨日と違う自分だ。


「なー、何怒ってんだよ。」


ざばり。

プールの中から、ヤツが話しかけてくる。

濡れた手が俺の足首に触れてくる。

俺と同じだけ水に漬かってるはずなのに、ヤツの指先は妙に熱い。

昨日と、あの瞬間と、まるで同じ体温。

濡れた指先。

一瞬の震えを覚られただろうか。

まるで、こんな。

…いや。


「…別に。怒ってねえよ」


そっと脚をひっこめる。

こんなことを考えてる最中に、ヤツと話なんかしたくない。


「痛かった訳じゃないだろー?」


ひそひそ、という風情のヤツの表情は、ちょっと不安げだ。


「…うるさい。別に、って言ってるんだから変な事言うな。」


すたすたと歩いて、そのままヤツの隣のコースに入る。

ゴーグルをぐい、と下げて水の中へ。


ぐいぐいと引き抜く腕に、水の心地いい抵抗を感じる。

ゆらゆら揺れる水面から、まるでスポットライトみたいに太陽光がさしこんでくる。


何も考えない。

ただ、前へ。

ひたすら前へ。


そうしてないと、夕べの自分のように、また。

ヤツに引きずられて、あの指先で溶かされちまう。


ごぼごぼ、と耳のなかに直接響いてくる水音に混じって。

昨夜の囁きが戻ってくる。


…畜生。




「好きだよ。」


「…嘘つけ。

どうせアイスクリームとかと同じ「好き」の癖に。

舐め終わってオイシイ思いしたらオワリなくせに。

いい加減な事ばっかいうな。」


「アイスより、ずーっと好きなんだってば。

だから触らせて。

本当に好きなんだよ?

ああ、アイスとおんなじくらい舐めてあげるからさ。

てっぺんから、一番下まで。」


「…!!!や、め、ろって…!

耳なんか、…ぅう、やだって……ッ!

ひと、きたらどうすんだって…!…ば、かやろ……」


ヤツの夕べのまなざしが、濡れた指先が、ささやきが。

溶けたアイスみたいに俺の背を濡らす。


初対面の印象は「鼻っ柱の強いチビなヤツ」で。

全然、好きなんかじゃなかったはずなのに。


ガキっぽい男だと思ってたのに、いつの間にか、この半年くらいで背丈も俺と同じくらいまで延びた。

部の期待の星なヤツは、ぐんぐん体力をつけ、今じゃまるで男くさい海獣(アザラシやイルカ)みたいだ。

毎日部活でトレーニングを続けてる(家でも筋トレやりまくりらしい)腕は、俺より下手すると太い。

低く掠れた声。

耳元の湿っぽい吐息。



マネジはじめ、他の女子でもヤツに好意を求めてる子はたくさんいるのに。


何故かコイツは俺がいいと言う。

俺は、本当に普通の、頭も顔も背丈も10人並みな17歳男子なのだが。

あえて人と違うとすれば、女子からいわせると「童顔だけど実はクール」なとこぐらいだろうか。

まぁ、今まで、あえて人とあまり深く付き合ってこなかったのには、それなりの理由もあるのだが。


「…女の子、嫌いなんでショ。あんなにもてるのに。」


入学して部活で知り合ったヤツは、一目で俺の本音を見抜いていた。


夏休みの部活。

そう、昨日。

まだ昨日のことだ。


一瞬、時が止まったように感じたのは、あまりにもストレートな物言いと、

妙にやさしい目をしてたヤツから、目が離せないせい。


「…そんな顔しないでよ。

他のヤツラは気づいてないから。

別にだれかれ構わず男に色目とかっていう風には見えないし。

言いふらしたり、ホモがどうこうなんていう気はないよ。」


「…別に俺はホモじゃない。」


「…でも、俺のこと好きでショ?」


「……っな、何言ってんだ!?んな訳あるか!!」


「…嘘つき。ずーっと俺のこと見てるでしょ。

3階B組、窓際の一番後ろ。

体育の時、グラウンドからだって教室から見てるお前の顔、見えてるし。

視力、2,0以上あんだよ?俺。」


「………。」


「でね。

俺もお前大好きなんだ。

押し倒して、色々ヤリタイ位。

…知らなかったでショ?」


「……!!!」


ぱくぱくと言葉も出せずにいる俺は、まるで酸欠の金魚みたいだ。

酸欠で声も出せず、パニックになってる俺をヤツはいきなり抱き寄せた。


そのあとは。


まるでアイスクリーム。

おもうように舐められ。溶かされ。

白くて、べたべたして、ヤツの手を汚していた。


…なんてこった。

恥ずかしくて死にたくなってきた。


家に帰ってしばらく呆然としていたが、それでも朝はきてしまい。

朝になれば体は勝手にプールに向かっていた。


25mを、一気に泳ぎきって、顔を水面に出す。

学校の校舎の向こう側に、おおきなアイスクリームが見えた。


「…もしかして嫌だったの?」


隣のレーンの、水面すれすれ。

追いついてきたヤツの言葉に背を向ける。


「…嫌じゃない。」


「じゃあ痛かった?」


「……いたく、ない。

…だから、困ってる。」


「…!」


「帰り、アイス食おうか。

んで、ちゃんと話したい。」


そう言った途端、ヤツは奇声を発しながら、バサロ泳法で泳いでいった。


監督の怒声と、周りの失笑がとぶなか。


ヤツはものすごい勢いで進んでいく。


俺もこっそりまた水へ戻って、今度はゆっくりとヤツを追う。


イチゴアイスみたいな顔色を、周囲のヤツに悟られないように。


アイスクリーム、白いのだけが好きじゃないよな?


とヤツに聞いてみることに決めた。








窓の外で、南部鉄器の風鈴が、ちりちりと鳴いている。

室外機がごんごんと唸っているのに、なんだか久々に気づいた。

きっと窓の外は一歩出た途端に焼け死ぬような陽射しなんだろう。


「…ねぇ。」


むくりと傍らの彼女が起き上がり、ダルそうに額や背中に張り付いた長い髪を

かきあげながら微笑んだ。


「あたしね、猫ってもっと傲慢でわがままで嫌な生き物だって思ってたの。

…でも、そんなことないね。

毛並みとか、あんなんしてるのって、本当にかわいい。


彼女の視線の先には、僕の飼い猫が寝そべっていた。


茶トラで丸々した彼女は、さっき昼寝から目覚めたようで。

しきりとピンク色の肉球や毛並みの舐め梳かすのに余念がない。


そして、おおきなアクビとともに、綺麗な放物線を描くのびのびポーズ。


おなかの毛は真っ白。

鼻先や肉球はピンク色。

茶色の縞々模様もとてもきれいだ。

僕の自慢の飼い猫。


「ねぇ、あなたは最初から猫が好きだった?」


僕に覆いかぶさる彼女の白い二の腕が、妙に目にやきついた。

白いカーテンからほんの少し漏れてる強い日の光に、胸が騒ぐ。


「…好きだよ。傲慢で、わがままだけど。」


「…傲慢でも好きなの?」


「ああ。」


目を丸くして、まるで変なものでもみつけたときの猫みたいな顔したまま、

彼女はまた笑った。


「…あなたって、へん……」


僕の愛猫の肉球と同じ色の唇が、失敬な言葉を紡ぎだす前に。

僕は彼女の腰と肩を抱き寄せ、きつく唇を合わせた。

小一時間前の狂気と蟠る熱気が、彼女にも戻ってくるよう願いながら。


布団の海に沈めて思う様溶け合っている最中の彼女は、まるで猫みたいだ。


何か変になりそうなぐらい、僕に甘え、突き放し、また戻ってくる。

白い腹や胸をなで上げると、なよやかなボディラインをこれでもかと見せてくれる。

甘い鳴き声。絡みつく白い肌。

僕はいつもそれだけで夢中で彼女の虜になっている。

時間を忘れ、ただひたすら彼女の望むとおりの愛撫を捧げる奴隷でも、ちっとも飽きないのだから。

まるで猫馬鹿なダメオヤジの態じゃないか。


きっと今日はこのまま、夜になるまで。



夜になって、ベッドで飯を食うことになったら、布団の中の彼女にこっそり猫が好きな理由を教えよう。


「覆いかぶさって、えらそうな顔してるとこなんか、君にそっくりだから。」


そういったら、彼女と彼女(彼猫?)は怒るだろうか?

僕らの喧騒をちらりと見て、猫はベッドの下で不貞寝を決めたようだ。

あとで、こちらのご機嫌もとらないと。


そう考えて、僕は少し笑った。

やっぱり猫馬鹿は治りそうにない。


僕をはさんだ二匹の猫が、また鳴いた。

クマ いよいよ、熊の檻の再始動です。 クマ 

本家「熊の檻 」は長期放置プレイに入ってはや数年。

オハナシやその他創作物をここで晒してゆっくりリハビリしつつ、

オフラインでの活動も徐々にやっていこうと思ってます。


ジャンル的にはBoys&GirlsLove(同性愛)的要素を含む、

創作女性向け話が多めになるかと思います。


お嫌いでなければ暇つぶしにぽちっとな


よろしくおねがいします。


2006年8月1日 ひろぽん@熊 拝 クマ