１０年ほど関わっていたブルージュレ－スの先生は広島在住で、毎秋にお膝元で開かれる集中講座に参加したおかげで、広島の人たちとの繋がりができた。

歩く好奇心と揶揄されるくらい知りたがり屋なものだから、老若男女問わず多様な職種の方たちと親しく交わりをもってきたが、やはり手仕事、それもレ－スに関わる人たちとの会話はいつも尽きることなく、心底楽しい。

イタリア国内でもほぼ周知されることなく、ボローニャの町でひっそり語り継がれてきたレース技術、Aemilia Arsののびやかな糸運びに魅了され、町中心にある教室に2017年から毎秋参加してきた。私の情けないばかりのイタリア語にも関わらず、Paola先生は頭が下がるほどの情熱を注いでくれ、ウィルス禍のこの2年もWhatsAppを通し指導を仰いでいる。

　最近になりこのブログを通し繋がった縁にまた不思議な縁が絡み、ふたりの方にAemilia Arsの手ほどきができるようになったのも、Paola先生の熱意のたまもの以外の何ものでもない。

　夏休みを利用して、独り電車を乗り継ぎ一番年かさの孫が我が家を訪ねてきた。親の存在がないこともあり、ちょっと大人びていまの心持ちを吐露してくれた。小学校入学以来転校を重ね、ついこの５月にもまた転校したばかりの彼には親しく交わる友がいないそうだ。「クラスで独りだよ、でもね、クラスのほとんどの人がぼくとおなじ独りなんだ」

　なんだか新興地特有の学校風景を突きつけられた気分になったが、「好きなことに一所懸命になっていけば、きっといつか言葉の通じ合う人と出会えるよ」と応えると、彼も花が咲いたように笑んでくれ、嬉しくなった。

未だウィルスの終息する方向性は示されずのままだが、他国への渡航制限が多少緩和されたこの時期にPaola先生との再会を果たさなくては、いつがあるというのだろうと奮い立ち、あと10日すればイタリアの地を踏む。

ブルージュレ－ス繋がりの広島の友だちが我が家を訪れてくれた。ウィルスの蔓延を防ぐには、他者と交流せずに暮らしていくのが、もっとも安全な手段かもしれないが、公的なお墨付きが下るまでじっとしているのが本位だろうか。

限られた外出と家庭内での交わりだけで過ごした結果、心が萎えてしまった人もいる。

もちろん健康を損ねてまで敢行すべきことではない。広島から来る友人たちも迎える私も事前の健康確認を怠らず、久しぶりの再会を果たした。

杜の中に建つ異国風なレストランで、隠し味のスパイスが効いているクラフトビ－ルとアラビヤ料理を堪能し、翌朝早くにはホテルを発ち、我が家で短時間ながらボローニャのレ－スを手ほどきさせてもらった。

コッパで作ったベーコンは沖縄の専門店の特製。厚切りしローストすると甘い香りが漂う

今回はマンゴーソースを添えたが、気に入ってもらえ嬉しい

少し前に手ほどきし始めたふた方も今回の広島の友人たちも、刺繍やレ－スに長く関わってきた人たちだけに、針運びは手馴れているが、このAemilia Arsの糸継ぎをしながら、一筆書きの用に作業を続けていく手順はなかなか体得できない。でもあるところまでを乗り越えると、後は自らの吐息の調子のままにステッチし、自在にフォルムを作ることができる。

　ボローニャの教室でも多様な手仕事に関わってきたがどこかそれに飽き足らず、最期にこのレースに辿り着いたという人が何人もいる。土曜のクラスで一緒になるRosyは旅行代理店を切り盛りしつつ、長年刺繍を教えきた素晴らしい手の持ち主だ。ウンブリアのVolutopinaという町で２０年もの歴史をもつ刺繍大会があり、今年のテーマ＜ウンブリアのもっとも美しい町＞に出展していた彼女の作品が、みごと一等賞(Primo Premio)を獲得したようだ。彼女を讃えるメールがこちらでの深夜に元気よく飛び交う。誰かの体験を教室あげて共感し合う風景が、ここにはある。Rosyの歓喜に率直に反応するメッセージを読んでいると、孫の通う学校の風景が浮かんできた。

　さあ、もうすぐボローニャだ。きっと私も前に向かう新たな力を、あの教室から得るにちがいない。

楽しからずや